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アンデッド ─undead─ 一部  作者: 秋暁秋季
第二体 ミエザルメ
85/178

4

 ……納得いかない。

「硝吸鎌は目が合えば失明。言葉を聞けば失聴。触れれば毒を流し込む。そんな噂が流される位には人嫌いだ。そんな彼奴が伴侶を持った事が気になって仕方無いんだ。先代と話したかったようだが、軽くあしらわれたようでね。次こそはと意気込んでいるんだ」

 苦笑いを浮かべ、ふふっと声を立てる。

 私は面白くない。今聞いた話と現実とのギャップがありすぎるし、リアルはそんな可愛いものじゃない。主に鞭を打ち、罵詈雑言を吐き捨てる、ただの鬼畜な青年だ。

「あぁ、そうだ。硝吸鎌とも会って行きなさい。機嫌が悪くなると面倒だから」

 そう言ってケースごを床に滑らせる。足元にゴツリと当たったそれの蓋を開き、中から鉄の塊を引っ張り出した。冷気を保った硝吸鎌の触り心地は保冷剤のようで悪くない。

 するり。と頬を擦り寄せると視界がぐらりと歪んだ。目眩も……酷い。立って居られなくなってその場に尻餅を着くと、ふかふかしたソファが受け止めてくれた。それと同時に唇に柔くも冷たい感触。

 絶対に硝吸鎌だ。この間会ったばかりだというのに、腕を体に巻き付けて、執拗に吸い付いてくる。お前は猫か。

「遅い……」

 不機嫌そうに吐き捨てると、何時もの一人掛けソファに腰掛けて膝を叩く。二人掛けソファに座れば良いものを……。

 私が黙って硝吸鎌を見つめていると、また不機嫌そうに眉を潜めた。

「嫌か?」

「別に」

 ただ面倒なだけだ。

 私が立ち上がって彼の元まで行こうとすると、伸ばされた手に引き寄せられた。つんのめりそうになるのを片腕を回して防ぎ、そのまま自らの膝上へと座らせる。

 指に、喉に、額にキスを降らせながら、体中に手を這わせてゆく。デカい黒猫というイメージがあるのだが、こうしている時には普通の男のように感じるのだから不思議だ。

「昔はね」

「うん?」

「不愉快……だったの。貴方にキスされる事が。でもなんだか慣れてしまった。慣れとは恐ろしいね」

 昔は好きでも無いのにキスされることが疑問だった。からかい半分にするものではないと思っていた。でも抵抗するのも面倒臭くて、されるがままになっていたら、何時の間にか日常に変わっていた。

 今でも疑問にこそ思うものの、不愉快とは思わなくなっていた。私も腐ったものだ。

「そうかい」

 そう言ってまたキスをする。今度は唇に。機嫌が良くなってきたのか、私の髪を梳きながら鼻歌を歌っている。前にも聞いた旋律だ。

 ふと夢に出てきた要智さんの事が気になって口を開こうとした。が、人差し指で封じられてしまう。

「聞きたいか?」

「言いたくないなら別に」

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