1 閏日さんの日常
はい、そんなこんなで事務所。灰色の空気が不快感を掻き立て、また更に閏日さんのマゾ振りが怠惰さを増幅させる。非常に不愉快である。
これでも閏日さんは自制出来る方で、氷室や初対面の人には自分の性癖をなかなか明かそうとしない。心にトラウマを残す事を理解しているからだ。しかし長い間詰られていないと精神が不安定になるらしく、そういった時には誰が居ようと構わずマゾ化する。
「あーん……。昨日は紅葉ちゃんのゴミを見る目が拝めなくて寂しかったぁ~。今日は体中痣だらけになるまでシバかれないと気が済まな~い」
「あの……所長……。閏日さんのイメージって、もっと節操があった気がしたのですが。それに治療して貰うために此処に来たのですが」
椅子に座りながら、冷めた目を寄越してやる。この世のゲス野郎に投げ込む侮蔑の目だ。対する所長も椅子に座ったまま氷のように冷ややかな目線を送っている。優しさという暖かさが皆無である。
「最近はその節操が薄れて来ていると感じるんだよね……。いっそ嫌というほど詰り倒した方が良いと思うんだ……」
そう神妙な顔をすると屍棘鞭を引っ張り出す。軽く掌に打ち付けると、一人の男が現れた。罅荊だ。
罅荊は面倒臭そうに前髪をかき揚げる。そして私達とはいえ比べ物にならない視線を寄越す。
「きゃああああっ!! 罅荊だわっ!!」
「煩い、雌犬。貴方が仕事を禄に為さらないから、面倒な事に私が呼ばれたのではありませんか」
そう言って指を鳴らす。蔦のようなものが手早く閏日さんの体を締め上げる。そのまま罅荊の片足が女の腰を蹴り飛ばし、地面に叩き伏せる。そして所長から受け取った屍棘鞭を一振り。
「あわわわわ……」
氷室が半泣き状態でそっぽを向く。敢えて止めないのは、閏日さんにとって至上の喜びと分かっているからだ。しかしこのままでは氷室の精神に異常を来すのではなかろうか……?
「さっさと御自分の仕事を全うして下さい」
罅荊は振るった鞭を腕に巻き付けると、慈悲深い神父のような笑顔を浮かべる。屍棘鞭がないと傷の回復が出来ないので、よろめきながら立ち上がろうとした。が、罅荊の足がそれを許さない。男の長い足が横たわった女の体をぐりぐりと踏みつけていたのだ。
「はぅぅ……」
「罅荊、早くしないと今度は紅葉ちゃんの右足が罅荊にめり込んじゃうよ」
おや、良く分かっているじゃないか塊。これ以上、下らない茶番を見せ付けられた挙げ句、治療もしないとなると私も黙ってはいられない。蹴りを飛ばすのは面倒だし、痛い。ならばこの二人を罵倒しようと考えていたのだ。
罅荊はそれに対して溜め息を付くと、もう一度閏日さんに鞭をくれてやった。巻きついていた蔦が緩み、拘束されていた腕が動かせるようになる。閏日さんはうごうごと右手を動かすと、横たわったまま鞭の先端を掴んだ。
「え……締め上げてはくれないの……?」
氷が割れるような嫌な音が響いた気がした。主に罅荊の頭部から。それは気のせいではなかったようで、彼はこめかみに血管を浮かせたまま指を鳴らす。その途端に蔦が体を締め上げる。勿論、このまま立つことは叶わないので、芋虫のように這って私の足元まで移動。
「はぁ~。だって最近罅荊がなじってくれないんだもの。ひっぱたいてくれないんだもの。自分よりも年下の子に、蔑んだ目で見られるのは快感だし、罵倒されるなんて至福だけど、もっとこう……体罰的な痛みが欲しいのよねー……」
「凄い我が儘言ってますけど、所長」
氷室はめっちゃ脅えてますが、罅荊との仲はそこまで悪くありません(・∀・)
寧ろ罅荊の方が氷室に振り回されてます。
(真っ直ぐな賞賛に弱いタイプです。罅荊は)
やっぱり対等にやり合えるのは紅葉ぐらいだなぁ……(´・ω・`)




