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「お……遅れて……すみません……!!」
「大丈夫だよ。紅葉ちゃんも俺もそんなに待ってないから」
氷室は半泣き状態で、もう一度深々と一礼した。其れに反するように私と塊はぐだぐだしている。もう少し氷室を見習わなければならない。
氷室が来たということで、私と塊はロッカーから自分達の聖遺物を取り出す。硝吸鎌は何時もの如く黒々と重たい色を放っていた。なんだかこの感触がとても久し振りな気がする。
「紅葉ちゃん?」
「あぁ、ごめん」
塊の一言で我に帰る。すぐさま楽器ケースに戻し、背負う。端から見れば、さながらストリートライブをする若者にも見えなくはない。
皆の準備は既に整っていて、錆び付いたドアの前で待っていた。私が歩き出すと氷室が扉を開けた。
「今日は俺が案内役ね」
そう言うと足早に階段を駆け下りる。錆びた鉄共が嫌な音を立てる。増して三人揃って下っているのだから当たり前だろう。
塊は私達など見向きもしないで歩行を開始。賑やかな繁華街を抜け、薄暗い細道を抜ける。辿り着いたのは廃墟と化したビルだった。『此処から先に行けば禄な事ない』、『此方の世界には戻って来れない』と私の感が告げる。なんだか所長と契約したときの事を思い出す。
突然の異臭……腐ったような妙に鼻に付く臭い。其れに耐えるように私は歯を食いしばる。
塊は笑顔で此方を振り向いた。対して氷室は担いだ楽器ケースに手を掛ける。目が警戒している。あぁ、臭いから予測はしていたが、眼前に死体がいるのか……。今の私は見えざる目を失っているので、ただ不気味な廃ビルしか見えない。ただ臭いだけが存在を示す。
「狩場への入り口を開く」
塊が冷ややかに言い放つ。辺りを叫んでいた烏の何声が止み、空間が入れ替わる。反吐を催すような臭いも一段と強くなっていく。
あぁ、此処は日常じゃない、戦場だ。
私は例の如く楽器ケースの中から硝吸鎌を引っ張り出す。重々しく輝くそれを肩に担ぎ、臭いだけで居場所を確認。駄目だ……範囲が広すぎる。特定出来ない……。
塊を横目で見ると余裕綽々といったように笑顔を浮かべていた。聖遺物も取り出していない。ただ鷹揚に歩を進め、何かを鷲掴む動作をした。
「紅葉ちゃん、死体は見えていないんだよね? じゃあざっと状況説明」
そう言って爪を立てていた指が突然丸め込まれる。まるで何かを握り潰したかのように。それから付着した何かを払うように手を振るった。
あっ……塊が握り潰したものはきっと……頭部だ……。死体の頭蓋を閏日さん同様に握って粉砕したのだ……。想像した瞬間に吐き気。耐えろ。此処で吐き戻すな。まだ終わっていないのだから……。




