1 影響
そんな妙なやりとりをしているうちに自宅マンションまで来ていた。黙って鍵を取り出し、いじくり回すと鍵が外れた。
「紅葉ちゃん。吐き気は?」
「今のところは平気」
私が通過するとき、塊はリビングの椅子に座り、上目遣いに尋ねてきた。私はソファに横たわり端的に答える。腕を瞼に乗せ、浅く呼吸をする。
本当、平気なのだけどなぁ……。
「紅葉ちゃんはさっさと寝るー。ソファじゃ駄目、絶対ベッド」
「へいへい。その前にシャワー浴びてくる」
さっさとその場を去り、脱衣所へ。
服を脱ぎながら思う。重そうな黒の長髪に、愛想もくそもない目、青白い肌。自分で見ていても本っ当可愛くない。
適当にブラシで髪をとかし、風呂場のタイルに足先を付ける。分かっていた事だが冷たい。触れてくる彼奴等……つまり塊や硝級鎌のようだ。
それをどうにか和らげる為にシャワーから湯を出し、辺りにぶちまけた。足は犠牲となってしまったがまぁ問題ない。
頭から湯を被り、全身を濡らす。たまに髪の間に指を入れ、隙間から湯を送り込んでやる。
とろとろした温度が私を包み、夢現にさせてくる。正直、塊に運んで貰おうかと考えるぐらいには眠い……。いっそ寝てしまおうか……?
そうなる前にシャンプーをワンプッシュし、掌で泡立てる。軋んだ髪に塗りつけて掻き回してやると、増幅し始めた。そのまま全体を覆っていく。
ひとしきり洗い終わった後で湯を被る。熱い。そして眠い。
そんなこんなで風呂場から上がり、パジャマに着替える。ドライヤーとブラシを携えてリビングまで行くと塊が岩悪を読んでいた。
「お疲れ様」
「うん。次、風呂」
無骨な目で親指を立てる。そしてそのまま脱衣所へと繋がる廊下を指す。視界の大半はバスタオルに覆われて見えないが、指示は通じた筈だ。
床に座りコンセントを突っ込む。ドライヤーを揺らしながら温度を確かめ、髪に当てていく。
「乾かすよ」
「結構」
私は左手の親指でもう一度廊下を指す。しかし当の本人は聞く耳を持たず、手からドライヤーを取り上げてしまった。
ドライヤーの耳障りな雑音。体温の無い指先が私の頭皮をなぞっていた。時折後ろ髪を掻き上げるようにして風を送り、ブラシを通す。
なんだかんだで乾かしてもらう事となってしまった……。
「はい、じゃー風呂入って来るねー。ソファで寝てたらベッドにぶん投げるよ」
「はいはい」
言葉使いが若干悪くなった。死体狩りの面子の中で口が悪い奴は思い当たるが、口調が悪い者はいないので、恐らく今読んでいた岩悪の影響かもしれない。




