1 夢
「彼奴はさ、とても優しいんだ。でも強くはない。愛する者を失った時、彼奴はきっと乗り越えられないと思う」
誰──?
暗い闇の中で声だけが聞こえて来る。私はその黒の中を揺蕩うように沈み込んで行った。
浮遊感。水の中に居るようで、それでいて息苦しくもない。
「じゃあどうするか。答えは簡単だ」
低いようで高い、男の声。どういう訳だか心にとろりと染み込んで来る。女はこんな声が好きなのだろう。私にとっては眠気を誘う声でしかないのだが。
「大切なものを極限まで作らないようにすればいい。大切なものを失うから壊れてしまう。ならば最初からそんなものが無ければいい」
残酷な言葉の終止符が撃たれた時、冷たい感触が背筋に伝わった。どうやら石畳の上で横たわっているらしい。
視線を動かすと左右には煉瓦の壁が連なり、異国の細道である事を示していた。
それだけでも十分に異様なのに、更に異様な光景が広がっていた。
一人の成人男性が私に馬乗りになり、私を見下ろしていたのだ。
綺麗な顔だった。漆の髪と瞳。そして軍服。そんな中で唯一異彩を放つように左耳にだけロングピアスが揺らめいていた。
「こんにちは」
春風のように笑うと髪を撫でた。髪は神経が通っていないために温もりを直に通さない。率直に言えば触られても平気な数少ない部位だ。
にしても失礼な奴である。会ってそうそう女に馬乗りなどするだろうか? ……其処で驚きもしない私も私だが。
「退いて下さい」
「ん? あぁ。悪い悪い」
慌てて私から身を引くと私の横で立て膝をつく。そして堪え切れないというように吹き出した。肩を微かに震わせて我慢しているようだが、ほぼ無意味である。そんな彼に冷ややかな視線を送ってやる。
「反応がない」
「温もりが移らないというのは私にとってただの接触でしか無いんです。特に何も思いません」
思ったままの事を申しただけにも関わらず、彼はまたクスクスと笑い始めた。
そんなにも私の反応がおかしいのだろうか?
しばらくすると彼はひーひー言いながら呼吸を整える。馬乗りになっていた事といい、失礼な奴だ。
「いやいや本当に悪かったって。ただあんまりにも安静だったから、つい驚いて……」
「謝罪はもういいので此処が何処だか分かりますか?」
彼は胡座をかくとその上に肘を置いた。興味深そうな目をしながら口角を上げる。
知らないなら知らないで構わない。ただ“何となく”という曖昧な思想に確信が欲しいだけだ。
黙って彼を見つめているとその問いに答えるように口を開いた。
「夢だ。それもあんたの」
「やっぱり……」
たまに軍服とスーツの違いが分からなくなります……(;´Д`)
とあるアニメではスーツと思っていたものが軍服だったり……(x_x)
(そのアニメ大好きです(●´ω`●)
世の風潮が分かりません(´・ω・`)




