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この僅か数分の間にごまんといた敵がほぼ骸に変化していた。彼女は息を荒上げてこそいるが、全くの無傷だ。一騎当千とでも言うのだろう。私は改めて彼女の強さを痛感した。
「んで、なんだって? ──っ!!」
「先輩!!」
亡骸かと思われていた一部が立ち上がり、彼女に遅い掛かった。血塗れの、もはや一瞬亡霊と見紛うようなものが、彼女の左腕を引きちぎった。毟られた腕から噴出する血。自身の腕が負傷していながらも、彼女は残った右腕で男を切り刻む。刃が男の肉を貫通する度に血が顔に浴びせかかる。それでも彼女は止めず、寧ろ嬉々として挽き肉に変えていった。既に彼女の腕を奪った男は原型を留めてはいない。
彼女は頬に付着した血を深紅色の舌で舐めとった。すると途端に怪訝な顔になり眉間にシワが寄る。
「美味しくない。激マズ……。あとナタリア、先輩は禁止」
片腕にも関わらず、血の味を評価し、挙げ句私に突っ込みをいれる。タフにも程があると思う。
彼女は挽き肉と化した男の手から自分の腕をひったくると、元の接合部に押し付ける。切断されていた筈の部位から血と肉が増幅し、元の腕へと再生を遂げた。
「んで、何? 悪いけど後片付けもあるから暫くはそっち行けないよ?」
「そう……それは残念……」
あえて砕けた言い方で話す。彼女は敬われ、尊敬の目で見られる事を嫌がる。本人に言わせると『照れるから』だそうだ。
そしてその彼女は、無駄な事は止めろというように釘を刺す。
「猛毒が取引でもしたの? 言っとくけど彼奴は奪ったものは返さないよ」
「分かっているよ。それ故に来て貰おうかと思ったんだけど、今は無理そうでしょ?」
本の頁を覗き込むようにして会話を続ける。彼女は前髪をかき上げて申し訳無さそうにため息を着いた。黒い息だった。
この時点で粗方予想はたっている。あとはその言葉通りの意味を受け入れるだけだ。
「行きたいのはやまやまなんだよー……。可愛い後輩の為だし……。でも──」
返答は分かっていた。何も彼女を咎めるつもりは欠片もない。そもそもこの死体狩りの仕事に属したのも単なる偶然だったのだから。
申し訳無さそうに瞼を閉ざす彼女に向かって苦笑いを浮かべた。
「無理を言ってごめんなさい」
此処で一呼吸入れてから彼女の名を言う。通り名ではなく本名で。
「……デウス・エクス・マキナ……」
「片が付いたらそっち行くよ。……忘れなかったら……」
最後の一言が不安だが、無理を言っているのは此方の方なので黙って頷く。それを最後にインキが蠢き、白い頁に吸収されていった。
それにしても本当に変わらない。強さは言うまでもなく、“外見”までも過去に共闘したままだった。
「相変わらず、お元気そうでしたね」
「年を重ねるごとに若返っている気がするんだけど……」
マキナは別の物語で登場予定です。
アンデットでも登場はしてくれる予定……ですが、かなり後のほうになってからですね……。




