1 硝吸鎌の吐露
私の小さな主が膝の上で眠っている。規則的な寝息を立てて、形の良い眉をそのままに顔を背ける。そんな主を落とさないように気を付けながら何度も髪を梳いてやる。
「なぁ……唐紅。汝は“二人目”なんだ。汝はまだ知らぬだろうが……」
初代の使い手は青年で、其れなりの美人ではあったが、こんなにも美しくも無く、またこんなに虚空でも無く、ただ普通の人間だった。
本当は汝が最初で最後になるはずだったのだよ。だが私も意志がある分気も変わる。今の私を見て汝は何を思うだろうか?
気が付くと唐紅が眉を顰めてうなされていた。艶やかな唇は酸素を求めて僅かに動く。
「……た……す…………け……て……。ぉ兄……ぃ……ちゃ……ん……を」
溜め息を付くと目尻に浮かんだ雫を拭ってやる。ついでに額にキスを落とす。
あの時は少し虐め過ぎたか。だが日に日に無表情かつ無気力になっていった唐紅が、ああまでして必死に懇願するといじらずにはいられなかった。結果的に後悔の念はない。
「安心しなさい。生殺しの状態だ」
目を細め、口角を少しだけ上げる。大抵この表情をすると滅籍に嫌な顔をされるのだが、大したことではない。
唐紅の喉元に指を当て、鎖骨に向かって滑らせる。しっとりと湿っているのは悪夢からくる冷や汗だろう。
そんなうなされた主の上半身を起き上がらせると、腰に手を回す。耳元で先程の旋律を紡ぐ。
「…………ぜぇ……はぁ……うっ…………ぐっ……………」
「いい子、いい子……。大丈夫、誰も汝を置いて死んだりはしない。汝が死んだら必ず私が迎えに行こう。失うものは何もない」
あやすように言い聞かせる。背中をさすっては頬に伝う涙を舌で拭ってやる。あの時と同じように。
そのような事を繰り返すと唐紅の呼吸が安定してきた。それを見て主の体をそっと抱き締めた。
硝級鎌にとって紅葉は掛け替えのない大切な存在です。
紅葉への愛情も持ってますし、今は大分牙も抜けて丸くなってますね。
先代、本当にお疲れ様<(_ _)>




