1 失うもの
「……………」
頭がくらくらする。罰は当たらないかと思ったが思いっきり当たっていた。悪夢でも見たのだろうか。
気が付くと膝枕していた硝吸鎌が体制を変え、私を抱き締めるようにして眠っていた。しかも座ったまま。さらに言うならば肩に顔をうずめながら。
うなされている最中はきっと抱き締めてくれたのだろうな。と思う。
静かに彼の髪に手を伸ばし、そっと梳いてやった。
「…………っ……」
お目覚めである。何時もの飄々とした双眸が今はとろんとしている。まだまだ寝ぼけているようだ。
「ねぇ、起きてる?」
腰にあった腕が首に巻き付き、後頭部を固定。だんだんと唇が近付いて来る。そして返事の変わりに目覚めのキスをされた。
全く何処のバカップルだ……。
……最近になって思った事がある。彼奴は気紛れの中に僅かな、ほんの一割にも満たない好意を寄せているのではないかと。……自意識過剰になってきたな……。考えるのを止めよう。
硝吸鎌が徐々に覚醒へと近付いて行くのが分かる。虚ろそうな瞳に何時もの怪しい光が灯り始めたからだ。
私は瞬きし、硝吸鎌は自身の腕を首に絡ませる。そしてぽつぽつと呟き始めた。
「そろそろ、代償を頂こうと思うよ」
「そう、随分と遅かったね」
「まぁ“全て奪う”訳では無いから安心しなさい。あくまで、“一部”だけだ」
まるで日常会話だ。これから対価を、それも自分にとって無くてはならないものを差し出すというのに声は酷く安定だった。……頼りにしてるって事も一理あるけど……。
でも……これから私に死が訪れようとも関係ない。楽に死なせてくれるのならば、大歓迎だ。
もう疲れたのだ。呼吸をする事に、世界を見ることに。




