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担任の話が終わったようで、また同じ生徒に目線を走らせる。
「起立、礼」
号令が終わると同時に私はのろのろと席を立ち、覚束無い足取りで職員室に向かおうとした。すると前を歩いていた生徒達が端に寄り、前に道が出来る。金持ちのボンボンが使用人を従わせているようで気分が悪い……。そして私の顔を見ながらひそひそと内緒話を始めた。
少しムカついたので、女子達の話声に耳をそばだてる。興味など毛頭無いが、ちょっとした報復である。音は耳を通過し、電波信号と化して言語に変換される。
この世の中、“見るな”だと“聞くな”だのよく言うけれど、眼球に入ったものは無意識に見てしまうし、耳に入ったものは聞いてしまう。だが今の私は故意百パーセントである。
「いいなぁ……不知火さん……。先生に好かれてて……」
「しょうがないよ。だってあんな綺麗な顔してるんだもん。男子のみならず、女子達からも綺麗って言われてるし、人気あるし……。先生達の間でも人気あるって評判だよ」
「確かに目の保養になるよね」
あの子達は私を何だと思っているのだろう……? これ程までにつまらない顔を見て、何が目の保養だ。見てても何も楽しくない。数学の公式を見て、適当な妄想を繰り広げている方が遥かにマシだ。
私はその女子達に話し掛ける事もなく、廊下に出た。すれ違う人達が振り返り、道を作り、またひそひそと話す。言いたいことがあるなら、面と向かってはっきり言って欲しい。そうやって檻の中にいる動物のように扱って欲しくなかった。高みの見物を決め込まれるぐらいなら、その場に居ないかの様に放って置いて欲しかった。
眉間に皺を寄せ、ぶっすりとした顔のまま歩き続けていたら、何時の間にか職員室前まで来ていた。
「失礼します」
「不知火、ちょっと……」
呼ばれた方に向かって歩き出す。他の物には目もくれず、ただ真っ直ぐに。担任の前まで来ると、無表情のまま顔を凝視した。『さっさと終わらせろ』と、見ようによっては取れる表情だ。
「何か用ですか」
「いや……お前、クラスで浮いているだろ?」
「だから? 先生には関係ありません。それに気遣ってくれる子もいます」
あんたには関係無い。どれほど浮こうが、罪を犯そうが、所詮他人だ。幾ら綺麗に言葉を変えた所で、それは変わりない。そしてこれは私にとって大きな隔たりだった。
私は内心の苛立ちをハサミでぶつ切りにしながらなんとか感情を押し止めた。他人であるあんたが関与しないで欲しい。本当に何奴も此奴も私を苛立たせてくれる。
先生は心を開かない私に呆れているようだった。
「はぁ……」
ため息をつくと私の手に触れようとして来る。
触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな、触るな!! 私に体温を移すな、私に人の温度など不要だ!!
その思いとは裏腹に、指先が私の手を掠めた。その途端、私は反射的にその手を払っていた。
「不知火?」




