1 最後の記憶
私は、美月。
あの日までは普通の女子大生だった──
「な、んで⋯⋯?」
笑うと優しそうで、私だけを見てくれる人だと思ってたのに。
⋯⋯まさか、あんな形で裏切られるなんて、思いもしなかった。
「なんで⋯私を⋯⋯」
最期に見たのは、彼の笑っている顔。
私のお腹にナイフを突き刺しながら、まるで冗談みたいに微笑んでいた。
そして、そのまま意識が闇に沈んだ。
◇◇◇◇◇◇
「⋯⋯ここは?」
(病院⋯⋯じゃない、みたい)
目が覚めると、見知らぬ天井があった。
「リオ!? 意識が戻ったのね?!」
(え!? 誰? めっちゃ綺麗⋯⋯)
隣にいた藍色の髪に、水色の瞳をした女性が私に向かって声をかけた。
「リオ⋯⋯? その人は、だれ⋯⋯でしょうか? 私は美月ですけど⋯⋯」
(間違えられたのかなぁ)
呑気にそんなことを考えてしまった。
ていうか、こんな美人な人、知り合いにいたっけ?
「どちらさま⋯⋯ですか?」
「っ! まさか、記憶がないの?!」
その女性は驚きと心配の入り混じった表情で私を見つめていた。
「ごめんなさい⋯⋯私が、しっかりと産んであげられなかったばかりに⋯⋯」
と急に泣き出してしまった。
「奥様⋯⋯」
近くのメイド⋯⋯らしき女の人はその女性を慰めていた。
(え? えっ!? えぇ!? どうしよう⋯⋯私が泣かせてしまった? なんか言ったほうがいい?)
私は何をすればいいか分からず、オロオロするしかなかった。
起き上がろうにも体がズキズキと痛む。
「痛っ」
あまりの痛さに思わず声が出てしまう。
痛さの原因を確かめるために、裾をたくし上げてみると、体のあちこちにアザがあった。
(なにこれ⋯⋯怪我したの、お腹だけじゃなかったっけ? ⋯⋯それに、ここはどこだろう⋯⋯?)
病院の病室には見えない。部屋⋯⋯いや、ホテル⋯⋯と喩えたほうがいいかもしれない。
部屋を見わたしていると、水の入った桶が近くに置かれていた。
⋯⋯たぶん、看病をした時に使ったのだろう。
水が鏡のように反射して、自分の顔が見えた。いつも見慣れている自分の顔じゃなくて、まったく別人の。
(!? 自分の顔じゃない⋯⋯っ)
鏡のような水面に映ったのは、見知らぬ少女の顔。
深く艶のあるダークブラウンの髪、どこか憂いを帯びたネイビーの瞳。
それはまるで、夜空に沈む星のように冷たく、美しかった。
なのに、その表情に血の気がない。⋯⋯そして、全身にアザ。
女性の発言とか、態度とかからして虐待のようにも見えないし、この体の持ち主の母親なのだろう。⋯⋯でも、似てない。
⋯⋯それだけじゃない。どこかちぐはぐなところがある気がする⋯⋯
(この違和感⋯⋯何か、覚えが⋯⋯)
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