スタート地点
「……着いたぞ」
「へ? ここですか?」
どんな噂が流れるんだろう――そんなことを考えていたせいか、目の前には大きな門があった。木で作られていて、そこには立派な彫刻がしてある。
(本当にここっ!? 校長室じゃなくて?)
「……確かそうだったはずだ」
クラスを確認すると、『一年A組』と書いてある。
(あ……アルファベットがある。よかったぁ…。少なくとも私にもわかるものがあって)
そんなことを思っていると、私をジーっと見ていた無言さんが口を開いた。
「……もう迷子になるなよ」
「え? あ、はい! ありがとうございました! えっと、紺色さん?」
「……ジーク、だ」
「!」
ヒューと風が舞って、思わず目を閉じた。
風が消えたと思って目を開けると、そこにはもうジークの姿はなかった。
名を残して、ジークは去っていたのだった。
……風だけが残った。心の中にぽっかりと穴が開いたような。
でも、立ち止まってはいられない。ここからが、私のスタート地点なんだから。
少しの心寂しさがありながら、教室……と呼べるのだろうか、これは。
……目の前のドアと向き合う。
(これ……普通に押して入っていいんだよね? なんか特別な儀式は必要なのかな?)
把手がないから、どうやって開けるの? と思いながら手をドアにかざした途端、ドアが開いた。
(うぇええ……? 自動ドア?)
戸惑う時間もなく、怒鳴り声が教室から聞こえた。同時に視界に人が映った。
「だれよ! この花瓶を割ったのは!」
つり目をした女の子と、座りこんでいる女の子。それを囲う公衆。地面には割れた花瓶。
(クラスメイト? たち? ………いきなり修羅場なんですけど!?)
そして、私は教室を出て、ドアが閉まっていくのをただただ見つめるのだった。




