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私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした  作者: 迦陵れん
第七章 旦那様の幸せ

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抉られた心

「では、今回お姉様がお戻りになられた理由は、そうしなければならなくなった何かがあったから、という事なのですか?」


 居場所を知られ、帰ってくるよう言われ続けても、これまで頑なにお戻りになられなかったお姉様。


 そのお姉様が思い腰を上げたということは、そこまでの何かがあったのだという事。でも、私にはそれが何なのか皆目見当も付かない。


 リーゲル様からは何も聞いていないし、お父様からも特に連絡はいただいていないから。


「まぁ、そうね。先ず一つ目は、貴女の婚姻が破綻しそうだということ」

「えっ……」


 嘘!?


 昨日漸くリーゲル様との初夜を迎えられたのに、私達の婚姻は破綻してしまうの!?


「違う、グラディス! 違うから!」


 真っ青になった私に慌てて駆け寄り、リーゲル様が抱きしめてくれる。


「私達の婚姻は破綻などしない。昨日新たに誓いを立てたばかりだろう。アンジェラも紛らわしいことを言うな」

「ご、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの……」


 お姉様が謝ってくれたけれど、私とリーゲル様の婚姻が破綻すると思われていたことが衝撃的すぎて、何も言葉が出てこない。


 すぐには許せる気持ちにもなれず、私はお姉様の顔が見えないよう、リーゲル様の胸に隠れるように顔を埋めた。


「グ、グラディス……ごめん、ごめんね……」

「当然だ。グラディスはずっと君の身代わりだと言われ、心を傷付けられてきたんだぞ。それでも私の妻として健気に頑張ってくれていたというのに、婚姻が破綻だなどと言われたら、ショックを感じるのは当たり前だろう」

「それは、そうだけど……でも仕方ないじゃない。グラディスは王太子妃になるから、代わりにわたくしは貴方と婚姻しろと言われて、強制的に戻って来るよう言われたのだから」

「は……?」


 リーゲル様が、動きを止める。


 私はリーゲル様の胸から顔を上げ、お姉様の方を向いた。


 私が王太子妃に? そして、リーゲル様とお姉様が結婚?


「なんだ、そのふざけた話は! グラディスはシーヴァイスからの求婚を断った! 私だって、今更君と結婚するつもりなどない!」


 大きな声で、キッパリ、ハッキリ、リーゲル様がそう言ってくれる。


「だったらどうして、そんな話がわたくしの所へ持ち込まれたのかしらね? 実は貴方達、上手くいっていなかったのではなくて?」

「ぐっ……そ、それは……」


 思わず言葉に詰まる、リーゲル様。


 そうですよね、私達がうまくいったのは、つい昨日のことですから。言い返すことなんてできませんよね。


「さっきは雰囲気的に上手くいっているのかと思ったけれど。そうでないならグラディスは離縁させて連れて行くわ。わたくし一人でも、この子を養うことぐらいは出来るから」

「ま、待ってくれ! そんな事をしたら、政略結婚の意味が……!」 

「え?」


 聞き返した私に、リーゲル様がハッとする。


 次いで『しまった』という顔になり、その場に気まずい沈黙が流れた。


「………………」


 リーゲル様の言った言葉によって頭の中が真っ白になった私は、そっとリーゲル様の腕の中から抜け出す。


「あ、や、ち……違うんだ、グラディス。私は──」

「分かっています。リーゲル様は筆頭公爵家の当主様ですものね。お役目は大事だと、肝に銘じておりますわ」


 自分が言ったのだとはとても思えない程、冷静な言葉が自分の口から流れ出る。


 漸く気持ちが通じたと、両想いになれたと思っていたのに。


 王太子殿下を退けてくれたのも、私を抱いてくれたのも、全て政略の為だったというの?


「グラディス聞いてくれ。政略の為だけだったなら、これまで通り白い結婚のままで──」

「政略であるなら尚更、後継は必要ではありませんか?」


 彼の言葉を遮って言うと、言葉をなくしたかのように、リーゲル様は黙り込んだ。


 そんな彼を見て、私はやはりそうなのか、と確信を強める。


 婚姻当初は白い結婚であった私達。でも、日々を過ごすうちお互いに心境の変化があり、距離が近付いて、『そういうこと』を致しても構わない、という気持ちが芽生えた。


 家を継がせるだけであるなら、他家から養子をもらっても良い。けれどやはり一番良いのは、血の繋がりのある子供に、継いでもらうことだから。


「リーゲル、貴方グラディスと離縁なさい。そんなにも政略を気にするのであれば、当初の約束通りわたくしが結婚してあげる。わたくしが嫌なら、アルテミシアでも良いわ。王太子妃はもう決まったから」

「それはどういう……?」

「言葉通りの意味よ。ちなみに、王太子妃は勿論グラディスではないわ。だからそこは安心して」


 最後の一言だけは私に向けて。


 お姉様は私をリーゲル様から取り返すと、部屋の端に控えているポルテに向かって告げた。


「急ぎグラディスの身の回りの物を鞄に詰めてちょうだい。こんな冷血漢の元に、可愛い妹をこれ以上一秒だって置いておきたくはないわ」

「ま、待ってくれ!」

「待ちません。政略結婚の相手なら、わたくしで十分でしょう?」


 リーゲル様に、お姉様が迫力のある笑顔を向ける。


 学院時代は、仲睦まじい二人だと思って見ていたけれど、実際は違ったのかもしれない、と今の二人を見ていて私は思った。


「グラディス……」


 リーゲル様の手が、弱々しく私へと伸ばされる。


 本音では、この手を取りたい。リーゲル様を信じたい。


 けれど、心からの幸せを知った今だからこそ、先程の彼の言葉は私の心を深く抉った。



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