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私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした  作者: 迦陵れん
第六章 旦那様の傍に居たい

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殿下からの求婚

 リーゲル様が放った言葉は、王太子殿下にとって、あまりにも予想外のものであったようで。


「は? え……嘘だろう?」


 驚愕に目を見開く王太子殿下の顔からは、完璧な『王太子の仮面』が完全に取り払われていた。


「リーゲル、お前はアンジェラを好いていたのだろう? 幾らアンジェラの妹だとはいえ、そのような思い込みをするのは虚しいのではないか? 素直に身代わりだと認めた方が、互いに楽になれるのではないか?」


 リーゲル様が、私をお姉様の身代わりだと思っていない事を余程認めたくないのだろう。どうしてそんなに否定するのか分からないけれど、殿下は必死の形相でリーゲル様に身代わりだと認めさせようとしている。


「今すぐは無理だが、もう少し待ってくれればお前の望むようにするつもりで手筈を整えている最中だ。だからここは私の問題を先に解決させてくれないか?」

「はあ? お断りだ」


 あくまで自分の望みを優先させようとする王太子殿下に、リーゲル様は怒りの表情を向けたまま。王族が低姿勢で頼みごとをするなどあり得ない事なのに、それでもリーゲル様の態度は一ミリも軟化する様子がない。


 いくら筆頭公爵家当主の座にいるとはいえ、王太子殿下のお願いを、こうも冷たく遇らってしまっても良いものだろうか。


「無論、私にグラディスを譲ってくれたなら、責任を持って幸せにすると約束する。私は元々女嫌いだから浮気もしないし、政務だって徐々にやってくれればそれで──」

「くどいぞシーヴァイス。私はグラディスと離縁などしない。これ以上話しても時間の無駄だ」

「リーゲル……」


 王太子殿下が、悔し気に唇を噛む。


 そんな殿下に申し訳ないと思いながら、私はリーゲル様の言ってくれた言葉に喜びを隠しきれないでいた。


 まさかリーゲル様が、私をお姉様の身代わりじゃないと、離縁はしないと言って下さるだなんて。


 王太子殿下のお言葉に、臣下であれば従わなければいけない筈なのに、それでも逆らって下さった。こんなの、喜びしかない。


 出来るだけ表情には出さないように内心で一人盛り上がっていると、不意に王太子殿下が私の名前を呼んだ。


「グラディス、君は王太子妃になるつもりはないだろうか?」

「シーヴァイス! お前っ……」


 文句を言おうとするリーゲル様を手で制し──そういう時だけ王族っぽい──殿下は私を真っ直ぐに見つめてくる。


「君とリーゲルは政略結婚であり契約結婚なのだろう? だが私とは違う。私は君を本当の意味で好きになりたいと、君と恋愛結婚をしたいと思っている」

「え……ええええええ!?」


 待って、待って。確かに私とリーゲル様は政略結婚だけれど。


 私と王太子殿下が恋愛結婚ですって!? 正気なの?


「でもあの、私とシーヴァイス様の間に、恋愛感情などありませんよね?」

「あってたまるか」


 ん? リーゲル様、今なにか仰いました?


「確かに今現在、私と君との間に恋愛感情はない。だが、私は君が相手であるなら、今後愛することも不可能ではないと思っている。迷いなくそう思える程、君の存在は私にとって貴重なものなのだ。だからどうか、この私の手を取ってはもらえないだろうか」


 徐に私へと近付き、目の前で跪く王太子殿下。


 ほっそりとした指の長い手を、私に向かって真っ直ぐ差し出してくる。


「君が私の妃となってくれるのならば、君以外を愛する事はないと誓おう」


 ドクン、と私の心臓が大きく脈打つ。


 それは、結婚初夜でリーゲル様が私に向けて言った『私は君を愛せない』という言葉とは、対極の位置にあって。


 生まれてこの方、家族以外から愛情を向けられたことのない私には、生涯言われる筈のない言葉で。


「グラディス、お願いだ。どうか私の手を取ってほしい」


 太陽のように煌めく王太子殿下の瞳が、一心に私へと注がれている。


 私の好きな人はリーゲル様で、それは何があっても変わらない。だけどどうしてか、無碍に断ることは躊躇われて。


 私を愛してはくれないけれど、側にいるだけで幸せになれるリーゲル様。私を愛してくれるかもしれないけれど、この先恋愛感情を持てるかどうか分からない王太子殿下と。


 素直な私の気持ちを言うのなら、リーゲル様とこれからも一緒にいたい。それ一択なのは間違いない。


 だけど、この国の民としての責務を考えるなら、王太子殿下の手をとることが正しいのだと思う。殿下は世継ぎを望まれる身。それに対して私とリーゲル様は、白い結婚の契約を交わしているのだから。


 であれば、答えは──。


「あの……少し、考えさせて下さい」


 決まっている答えだった筈なのに、その時の私は、そう言うのが精一杯だった。

 


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