神様は見守っている(神様側)
『いやぁ、人って面白いよね。こんな状況でも結婚しようとするなんてさ』
仄暗い空間で長い髪をした青年がクスリと笑う。
その背後に立つ女性はそんな青年を見て呆れたようにため息を吐き出した。
『神様が御認めになったから彼らは結婚したのではありませんか?』
『まさか、この世界では僕は基本的に見守るだけだよ。全ては勇者達の選択肢の結果だよ』
『その割にはちょっかいをかけているように思えますが?』
『まぁねぇ』
悪びれもせずにいう青年に女性は再びため息を吐き出した。
『本当に五百階層に勇者が到達すると思っているのですか?』
『思ってるよ。何のためにシステムを組んでいると思っているのさ』
『神様の娯楽の為ではありませんか?』
『否定はしないけど、僕は召喚したほとんどの勇者に幸せになって欲しいと思っているんだよ』
『見放されたものは死に逝きましたね』
『仕方がないよ。それが運命と言うものなんだからね』
『神様の仕組んだ運命ですか』
女性の言葉に青年は笑うと、おもむろに立ち上がって浮かんでいる映像を操作して今まさに繰り広げられている宴の様子を見る。
自分が選んだ勇者たちが楽しそうに宴に興じているのを見るのが楽しいのか、青年の顔には笑みが浮かんでいる。
『この世界で新しい生命が誕生することはないけれども、こうして愛をはぐくむのは良い事だよね』
『なぜ成長を許さないのですか?』
『老いは人を弱くする。例外はあるかもしれないが、それが殆どだ』
『私には神様が美しい物を美しいままで保存したいだけのように思えてなりません』
『ある意味正解だね』
美しい物は美しいままにしておきたい、青年はそう言うとモニターの画面をティタニアのアップに切り替える。
『美しいと思うだろう? 彼女は恋を知って、愛を感じて、今まさに美しさの絶頂にある』
『人間とは裏切るものではありませんか?』
『シンヤに限ってティタニアを裏切る事はないよ』
『それは予言ですか?』
『いいや、確信だよ』
『ティタニアもシンヤも永遠なんてものは信じてはいない。それでも明日と言うものを信じている。それは永遠と何が違うんだろうね』
青年の言葉に女性は答えを持たないとでも言うように沈黙を保つ。
『まあいいさ。明日を生き抜くこと、それが彼らに課せられた運命だからね』
『明日をも知れぬ命なのに、明日を生き抜くのですか?』
『そうだよ』
青年は長い髪を揺らして女性を振り返る。
『君がそうであったように、彼らもまた生き抜くんだ』
『私は……、ただあなた様に選ばれただけの存在、それだけです』
『それが何よりも重要なのさ』
青年は笑うとモニターを見てにこやかに笑う。
それはあまりにも美しい笑みだった。
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