勇者の資格 2
「ほんとかっこいいよねぇー、クランさん。
この前、お風呂のお湯持っていったら薄着でねっ。もうあの引き締まった筋肉。」
じゃぶじゃぶと、水が泡立つ。
シーツを桶にいれて裸足で踏みつけながらマリーはうっとりと呟く。
その桶に井戸から汲み出した水を加えながらルドルフはため息混じりに呟く。
「筋肉なら料理長の方がついてるじゃないですか。」
「父さんのは無駄についてるだけよ、無駄に。あの必要でついてる引き締まった筋肉………あんたとは全然違うんだから。何回でも聞くけどあんた、ほんとに男なのよね?」
「料理長に確認までさせて、まだ疑うんですか?」
「だって白いし。」
「森育ちなんですよ。」
きめ細かい白い肌を羨ましそうに見る。
「細いし。」
「体質です。筋肉つかないの気にしてるんですから止めてくださいよ。」
「耳長いし。」
「僕の村の人はみんなこうです。妖精の血が混じってるってじっちゃんが村に来た商人に大ホラついてました。」
「本当に、まじってるんじゃない?」
「いくら小さな村でも全員が全員が家族な訳じゃないですよ。
食べ物のせいじゃないかって、村の………警備隊の人が言ってました。というか、耳の長さは男女の違いに関係ないじゃないですか。」
「あとはー……。」
「無理矢理捻り出さなくていいですよ。」
「クランさんとおんなじ翡翠色の瞳は羨ましいわね。」
「緑の目なんて珍しくないですよ………はぁ。」
「そんだけ、細っこいなら無理せず学者にでもなればいいのよ。商人は………無理ね。舐められそうだし。」
「物心ついたときから、狩人として生きてきた人間に無茶言わないでくださいよ。」
「狩人って言うけど、森で行き倒れてたじゃない。」
「それは…………仲間に置いてかれまして。それも、かなり乱暴に。」
その時のことを思い出したのかルドルフは眉間に皺をつくる。
彼が加減が分からないのは仕方ないと言えば仕方ないのだけれど。
せめてもう少し、どうにかならなかったのか。
黙ってしまったルドルフをマリーはいけないことを聞いてしまったかと視線を泳がす。
「ま、まぁ、奴隷にならなかっただけいいんじゃない?」
「ぁ………まぁ、そうですよね。」
誤解を与えたことは分かっていたものの、ルドルフは曖昧に笑って言葉を濁した。
その方が、聞かれなくてすむから。
じゃばっと。
ルドルフが桶に水を入れる音が沈黙に響く。
「く、クランさん。
暫くはこの村にいるみたいよ?お母さんに宿代まとめ払いしてたから。」
マリーが無理矢理、話題を絞り出すとそれは大抵宿泊客のことだ。
他所の人というだけでどんな人でも話題になり得る。
それも、昨日からはカッコイイ大人の男性のクランさんに夢中なのだ。
口を開けばクランさん、となるのも仕方がないと言えば仕方がない。
そういえば、この村にはあーいう青年で少し野性味のある人は居なかったなー………なんて、思ってしまうと年頃の女の子らしい所に思わず頬を緩めてしまう。
それを、誤魔化すように口を開く。
「あれって、一週間からでしたよね?冒険者か傭兵の人が………珍しい。」
「なんか、探し物みたいだったよ。この頃、変わったこと無かったかって聞かれたわ。」
「……僕が来たことくらいですかね?」
「あたしもそう答えたわ。」
多分、売ったことにも気がついていないマリーの様子に思わずため息をつく。いや、でも、ほら。そのうち他の人から聞いてたはずだし……。
何か、厄介なことに巻き込まれないと良いと思いながらクランの顔を思い浮かべる。
……思い出せない。
そういえば、まじまじと見ていなかった。
何より目立っていたのは
「そういえば、クランさんのあのマフラーって。」
「ルドルフも気がついた?!
最近、噂になってる人助けをしてまわってる赤マフラーの人ってクランさんなのかな?!」
興奮した様子で鼻息を荒くするマリーにルドルフは少し距離を取る。
「小さな事件から大きな事件までほら、最近王都であった神殿の宝杖の窃盗事件。
あれを解決したのも赤マフラーの人のお陰だって。」
「……あー、義賊の仕業にされかけてた話ですか?
確かに、神殿に赤マフラーの人が宝杖を返却したって騒ぎになりましたね。」
「そうそう!誰も赤マフラーの正体を知らないっていうのがいーよね!神殿からの褒美も受け取らなかったみたいだし………やっぱり、クランさんなのかなぁ?」
「あははは。」
ルドルフも流石に憧れている本人の目の前で、多分あのマフラー最近売られてる王都のお土産品だと思う。
なんて、言えず空笑いを浮かべる。
今日も、平和である。




