少年は混乱する
「目、覚まさないにゃ?やっぱり死んでるにゃ?敵討ちかにゃ?」
「生きてるから忙しなく尾を動かすな、煩わしい。」
……あれ?
「動いたにゃ?!」
「……あぁ、起きたか。」
寝起きで頭が上手く動かない。
ただぼんやりと目の前に広がる茜色の空が綺麗だと思う。
「やはり丈夫だな。これも補正というものか?」
「……にゃ、にゃんの話しにゃ?」
視界の端で女の人が二人、話しています。
そのうちの大きいほうと目が合って―――強い既視感を感じて。
鈍く痛む頭を必死に捻ると、記憶の最後は彼女と同じ金の目に見つめられたことを思い出しました。
「……僕は……何で倒れて?」
「………………覚えていないのか。」
問いかけに答えた金の目をした彼女は無表情に僕を見下ろします。
その目に底の無い『何か』を感じてぞくりと背筋が震えました。
けれどもまるで吸い込まれるように僕はその目から逃れることができなくて。
本当は一瞬だっただろう長い時間を終わらせてくれたのは、白い獣の耳を頭につけた幼女。
無理やり僕と彼女の間に割り込んで、その視線をさえぎってくれました。
小さな背中がとても大きく見えます………毛を逆立てて膨らんでいる尻尾のせいでしょうか?
「ルドルフをいじめるにゃっ!」
「いじめていない。」
「減るからみるにゃっ!!」
「それはさすがに横暴だろう。」
……僕はどうしたらいいんだろう?
「そこをどけ白猫、まだ言わなきゃいけないことがある。」
「嫌にゃっ!!!」
「……………………………………もう一度、つぶされたいか?」
金目の彼女が地を這うような声を出すと、あっという間に幼女の尻尾は見るからに元気をなくしとぼとぼと僕と彼女の間から退きました。
彼女は僕から少し目線をそらしながら、言う言葉を悩んでいます。
「……名前を、聞いてもいいですか?
あっ、僕はルドルフです。」
「知っている、そこの白猫が馬鹿みたいに連呼していたからな。
私のことは………とりあえず、龍と呼ぶといい。今では唯一の固体、名の替わりとしても使えるだろう。」
「あの……それで僕はどうして倒れていたんでしょうか?
多分、あなたと目が合ってから記憶が無いんですが……?」
「………………そこから、無いのか。」
彼女が一瞬言葉に詰まる。
本当に一瞬だったけど。
「簡単に言うなら、お前と目が合った瞬間お前は私に襲い掛かり私がそれを撃退したからお前は地に伏しているわけだが。」
……え?
「詳しく説明するなら、まずお前が何者であるかから話さないといけないな。」
「…え?僕は、生まれも育ちも、あの村で……っ。」
「生まれも育ちもこれに限っては関係ない。だからこそ厄介ともいえるしそうで無いとも言える。」
言葉遊びのような言葉に答えを促すように金の目を見つめ返す。
「お前は人間の……人間の為の人間に選ばれた、勇者なんだよ。ルドルフ。」




