英雄の話
「おと……領主様!賊ですお逃げください!!」
「分かってる。………館には私とお前しかもう居ないな。」
「えぇ、他の者は全員…………そちらは、どちら様ですか?」
娘が首をかしげて、こちらを見る。
そんな娘を手で招き、ひさしぶりに頭を撫でてやる。
娘は困惑げな目を俺に向けるが、なにも言わず俺は視線をそらした。
その様子を哀しげに眺めていた友人が口を開く。
「……本当に良いのですね?」
「あぁ、宜しく頼む。」
「いえ……………本当にすみません。」
その謝罪は俺に向けたのか。
それとも、娘に向けたのか。
問う前に、アイツは娘に手刀をいれ素早く気絶させると娘を抱えて執務室の窓から飛び降りた。
着地した音は、聞こえない。
娘は大丈夫だろう、妻ももう居ない、領民も避難させた。
だから、俺は正々堂々と賊を迎えられる。
「みつけたぞ、まおう!」
執務室の扉を開けたのは子供だ。
6~7才程の少年。
黒髪に黒目。
きめ細かい薄黄色の肌。
情報通りの容姿。
彼が『勇者』
両手で『聖剣』を持ち、純粋な敵意を向けるその黒い目は
幻術を見せられている者特有の濁った瞳。
「ねんぐのおさめときだまおう!
せかいせいふくなんて、させないからな!!」
『勇者』は力を蓄えた俺の領地を弱体化させるために隣国が送り込んできた生け贄で。
「さらわれたおひめさまもナカマがたすけだしてるし…。」
使い捨てにでき、なおかつ俺を殺せる人材が居なかった隣国は生け贄を他の世界に求め。
「おまえをたおして、いえにかえるんだ!」
『勇者』を召喚した。
それが、たまたま子供だった。
たった、それだけの話。
生け贄は成功すれば同行した『仲間』が殺し、この国へ借りを売り付け。
失敗しても、どう辿っても出身が出てこない少年など証拠にもならない。
上手く、出来た話しだ。
そして、勇者にとっては救いのない話だ。
俺の血筋を考慮しなければ。
「やああぁぁ!!」
掛け声とともに繰り出された『聖剣』の突きを避けることもなく腹に受ける。
痛みはない。
そんなものを感じられるほど俺の体は正常でない。
だから、突き刺さっている『聖剣』は無視し『勇者』の頭に手をのせる。
土気色の手で少年の、頭を撫で…。
「き…そう…。」
絞り出した声は掠れひび割れ。
それでも、ワードに反応しあらかじめ床に描いていた魔方陣が輝き始める。
じんわりと、黒が視界を侵食していく視界の中。
扉に漸くたどり着いた少年の『仲間』が驚愕に目を開く。
ざまあみろと、俺は笑い。
心臓から聞こえた、鉱石の割れる音と共に急速に視界が暗転した。
「全く、無茶をしたね?」
「でも、ありがとう。僕が果たせなかった事をしてくれて。」
「少し休むといい。」
「この世界が終わるまで。」
設定
アレン
この世界で一番最初に放り出された異世界人の末裔。
御先祖様は帰還の為の魔術を完成させることなく死亡。
異界の知識と共に帰還の術を完成させることを子に託した。
それは、子から子へと伝わり膨大な余計な知識と共にアレンまで受け継がれている。
龍退治後(結局アレンが一人で殴り殺した。)助けた領主の娘にストーキングされ、なんやかんだでいつのまにか結婚。
何故か回り回ってきた領主の座をもて余すも、増えていく魔獣の被害に頭を抱え。
冒険者時代に築いたコネというコネを使い、冒険者の学校を設立。
ものすごく、人が集まり軽くパニックになった。がんばった。
娘ができ、妻に先立たれ、自分も病魔におかされた辺りで勇者登場。
まぁ、色々あったが先祖の無念も晴らせたし中々いい人生だと思っている。
結局、龍に呪いのペンダントしか渡さず。
最後の最後に核が負荷で壊れるほど魔力を絞り出したせいで十一の借魔力が凄いことになり。
龍に借魔力の形に魂を回収されるのは後の話である。




