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悪役令嬢は婚約破棄してくる王子と結婚したい! ~何度繰り返しても婚約者がラスボス魔王になる~  作者: かむかむ
一章

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04.ブレイズ公爵

「お嬢様! 急に飛び出されては……」


 浮かれた私を止めようとするミリアの声が不自然に止まった。私の動きも同様に止まる。

 こ、これは……いけませんわ……


「……グロリア」

「お、お父さま……ごきげんよう」


 よりによって、誰にでも厳格な父——ブレイズ公爵にぶつかってしまうなんて!

 反射的にドレスの裾を摘まみ、片足が斜め後ろに下がる。逆の足膝を曲げれば、太腿に小さな痛みを感じた。

 ああ、そうね。過去に戻ったなら、身長以外も全てが十八の頃とは違うもの。散々繰り返した淑女の挨拶たるカーテシーも、今は自分が思う角度に保つのは難しいわ。

 それでもよろめきそうになる体を意地でも堪える。このグロリア・ブレイズが美しくない挨拶を晒してしまうなど、私の矜持が許さなくてよ!


 将来の王妃として完璧に磨き上げていた十八の私のカーテシーを、七歳の私が披露する。顔が見えなくとも、お父さまが微かに目を見開いたのを感じた。

 影で氷の公爵と呼ばれているほど表情も感情も見せないお父さまでも、流石に驚いた様子。

 私が顔を上げた時には無表情に戻ってしまっていたけど、叱責は回避出来た——


「……礼儀作法を忘れたのかと思ったが、想像以上に磨き上げているようだ。だが扉から飛び出してくるとは何事だ? お前はいずれ国中の淑女の見本とならねばならない立場なのだぞ」


 と思ったけど、気の所為だったわね。

 何事かと問われていますけれど、生半可な理由では納得してもらえませんわ。貴族たるもの如何あるべきか、を体現なさっているような御人ですもの。

 黙認されるのは……例えば王族のどなたかが危機に陥っているですとか。当然、自分の装いを使用人に見せびらかすなんて理由は通りませんわ。

 まあ私が叱責する立場でも、その理由で仕方ないと納得する事はありませんわね……。


「失礼致しました、お父さま。リュミエールさまが来られる前に準備を整えねばと、気が急いておりました」


 スカートの裾をそっと摘まんで、カーテシーよりも浅く頭を下げる。目線を上げてみると、頭上で私とお揃いの琥珀色の瞳が丸みを帯びている。

 ? どうしてそんなお顔をなさっているのかしら。私、何かおかしな事を言った……?

 困惑する様を見て表情を戻したお父さまが、改めて私の装いを見下ろす。主にネックレスを見られている気がする。


「……その姿で王子殿下をお迎えするのか?」

「はい。せっかくリュミエールさまが贈ってくださったのに、ずっと宝箱に仕舞い込んでおりましたから」


 着けるなら夜のパーティだけにしろと言われるかしら? でも、招待客のもてなしに追われる前に見せたいんだもの。

 流石に侍女や執事の前で行うように回転して父へ見せびらかすわけにはいかず、青い宝石にそっと片手を添えて告げる。何の反応も無いかと思ったのに、お父さまの眉頭が微かに寄った。

 宝箱という言い方が幼かったのかも。でもリュミエールの贈り物ばかりを詰め込んでいるのだから、宝石以外も入っているのよね。宝箱、のほうがしっくりくるのよ。

 嬉しさを隠しきれていないであろう私の笑みを暫く見下ろした後、お父さまが踵を返した。


「では早く済ませるように。殿下は本日の昼食を我が家で摂られる予定だ」

「はい、お父さま!」


 あら? 此方の方向に何か御用事があるから通り掛かったのだと思ったのに、戻られるのね。

 いつも忙しくて無駄な動きは殆どなさらない方なのに、何をする予定だったのかしら。

 不思議に感じつつもリュミエールと一緒に食事が出来るのだと思えば、他の事など全て流れていってしまう。あ、またはしゃいだ声を出してしまった……

 自省する私の様子は気にせず、お父さまが来た道を引き返していった。

 広い背中が通路の向こうへ消えて行くのを見守ってから、侍女のミリアへ振り返る。


「……っ驚いたわね! まさかお父さまにぶつかってしまうなんて……それにしても、リュミエールさまがいらっしゃるのはお昼なのね? 朝からご一緒出来るかと思いましたのに」

「~~お嬢様! き、急に走り出してはいけません……! 転んで怪我をなさっては大変です!」

「分かっているわ。心配を掛けたわね、ミリア」


 私がお父さまに叱られて落ち込まないかハラハラしていた様子のミリアが、一瞬ほっとした後早足で駆け寄って来て抱き上げられた。

 ううん。私、意識的には前々世の二十九歳なのよ……流石に恥ずかしい。


 でも心配を掛けてしまったのだもの、仕方ないわね。好きにさせる事にして、執事長の元まで運ばれる。

 専属侍女の腕に抱かれて現れた私に驚いていた執事長もすぐに笑って、尋ねるより先にお似合いですなと称賛してくれた。

 当然ね。私のリュミエールの色だもの!


 上機嫌で今夜や昼食の準備を確認し、いつも通り静かな食卓で朝を済ませる。時折お兄さまや私に教育の進み具合を確認する事もあるけど、お父さまもお母さまもかなり口数少ない方々なのよね……

 私はお喋りも好きだから、もっとお話したいと思わないと言えば嘘になる。でも王太子妃になってからならまだしも今の私とお喋りしても、お父さまにもお母さまにも、お兄さまにだって何の益も無いでしょうし。

 物心付いた時からずっと婚約者に夢中だからそこまで気にならないけど、リュミエールが居なければ灰色まっしぐらの暗い性格になっていたかもしれないわね。

 それとも、貴族の矜持を取り違えた暴君になっていたかしら。それでも公爵家令嬢としての責務は果たしていたでしょうけど。


 私が今の私で在れるのはやっぱり、リュミエールの存在あってこそね!

 大急ぎで今日の勉学を概ね済ませた頃、そのリュミエールが到着したと聞いて急ぎ出迎えに向かう。


「ようこそいらっしゃいました、リュミエールさま。お茶を用意しておりますので、お寛ぎください」


 急いだ事はおくびにも出さず出迎えた私に、じろじろと観察の視線を注いだ後まだ声変わりしていない声が溜息を吐いた。


「グロリア。気軽に私の名を呼ばないよう、去年言い渡したはずだが」


 えっ。

 冷たい声音に、思わず動きが止まる。頭を上げるのも忘れて固まった私の横を、リュミエールと彼を案内する執事長が通り過ぎていった。

 背後からミリアの心配そうな視線を感じる。通り過ぎ様、執事長からも同じ視線が浴びせられていった。

 目覚めてからこちら、逆行しているのだと気付いた混乱によってすっかり忘れていた事実を今更思い出して内心で天を仰ぐ。


 ——そうだった。七歳と言ったら、もうリュミエールの様子が可笑しくなって一年も経過していたんだった!

花粉症+発熱(恐らく花粉症所以)で少しダウンしていました。人生初体験。大分軽減されてきた為、無理しない程度に更新していきます。

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