表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は婚約破棄してくる王子と結婚したい! ~何度繰り返しても婚約者がラスボス魔王になる~  作者: かむかむ
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/4

01.はじまりの奇跡

 婚約者が死んだ。

 ()婚約者が死んだ。


 唯一愛した人だった。ずっと昔はいと尊き初代国王陛下の生まれ変わりとも讃えられていたのに、いつしか傲慢な乱暴者として恐れ嫌われるようになっていた人。

 それでも、(わたくし)にとってたった一人の愛しい伴侶だった。


 異世界から迷い込んできたという『聖女』に彼が溺れ、学園の卒業式で悪役令嬢と呼ばれ婚約破棄されても変わらずに。

 きっと気の迷いだと。家の外で公言はしなかったものの、彼の——リュミエール第一王子の正しい婚約者は、将来の妻は私だけだと信じていたのよ。

 彼の隣に立つ聖女への嫉妬に身を焦がしつつも未来を信じている私に、家族は何も言わなかった。

 流石に聖女との結婚を知らされてからは、思い描いていた未来が完全に絶たれたのだと理解せざるを得なかったけれど。


 絶望する間もなく、聖女との結婚式で突如リュミエール殿下が国王陛下を殺し——伝承に伝わる『魔王』となって参列者を次々と虐殺し、その後暫く彼が城に籠っていた間に平民も貴族も全員が国外へ逃亡する事態となってからも。

 逃げた先で聖女と鉢合わせし、その国の王族や私の幼馴染たちを含んで結成された魔王討伐の為のパーティに無理矢理同行し始めてからも。

 魔王となった元王子や、何処からともなく彼の元に出現した魔物達と交戦するようになってからも。

 ずっと、彼を人間に引き戻してどうにか一緒になれる未来に頭の何処かで縋っていたのだ。


 故に。

 私たちを迎え入れた国の第一王子であり、傷心していた聖女と結ばれて勇者と呼ばれるようになっていた男。

 その剣にリュミエールの体が貫かれるのを見た瞬間、私の心は砕けてしまった。


 呆然としたまま幼馴染たちに抱えられるようにして戻った私に、勇者の幼馴染である隣国の第二王子が求婚したのは同情半分、打算半分だったろう。

 あまり役に立ってはいなかったとはいえ、勇者パーティに同行していた女を妻に迎えられれば魔王討伐の恩恵を一部なりとも受けられる。

 第二位である王位継承権が動くかもしれない。

 神話の中にしか存在しなかった魔王と王に率いられる魔は、それだけ人々に恐怖を与えていた。


 私は、受け入れられなかった。ずっと愛し続けていた唯一以外の男と一緒になるなんて。

 けれど、婚礼を勧めてくる両親や母国の人々を拒絶し続ける気力もなかった。

 そもそも自分の状況を上手く理解出来る状態じゃなかった、と言うのが正しいかもしれない。

 よく分からないまま、夢見ていた人ではない男性と結婚式を挙げて。




 気付けば、目の前にちょこんと幼いリュミエールが座っていた。


「……は?」

「グロリア?」


 あどけない顔が傾き、不思議そうに私の名を呼ぶ。

 リュミエールは顔立ちも肉体も恐ろしく恵まれた体格の良い美丈夫だけど、幼い頃は男らしさよりも可愛らしさが勝る美少年だった。

 私も容姿そのものは良かったけれど、愛らしさではなく情熱的な美貌と讃えられている。

 昔から気の強さが滲む顔立ちだった為、幼少期の可愛さは圧倒的にリュミエールが上だ。

 わけが分からない状況なのに、懐かしい愛らしさへ反射的に見惚れてしまう。

 ぽかんとしながらも思わず凝視する私に、幼いリュミエールが照れた様子ではにかんだ。

 

 か……かわいい……!

 随分見ていなかった、含みのない笑顔に胸が熱くなる。

 頬が赤らんでいく私を見て、幼いリュミエールがくすくすと擽ったそうに笑った。


「グロリア。そんなに見つめられるとはずかしいよ」

「だって、殿下が……」


 こんなに可愛らしくて——昔のように、私を見て笑ってくださるから。

 夢見心地で手を伸ばそうとし、視界に入った短い腕にぎょっとして動きが止まる。


「グロリア?」


 ああ、私のリュミエールが不思議そうにしている。答えて差し上げねば。

 いえ、でも。これは、なに?

 魔王討伐に十年かかった事で、私も三十手前になっていた。立派な行き遅れで、当然ながら大人の女。

 なのに、殿下の小さな頭を撫でようと伸ばした腕は……ふくふくと幼子の丸みを帯び、テーブルの向こうなんて到底届きそうにない短さだった。

 冷静に見てみれば、二人で囲っているテーブル自体も小さすぎる。

 まるで、子供たちの為に用意された品であるかのように。


「……リュミエールさま」

「どうしたの、グロリア」


 いつからか嫌がられるようになった、昔は当たり前に呼んでいた名前を口にする。

 大きな瞳をくるりと丸めたリュミエールが、私の名前を呼び返してくれた。


「わたくし、何歳に見えますか?」

 微かに震える疑問符に、きょとんとしたままリュミエールが答える。


「? きみは、私とおなじ三さいだよ」

「さ…………」


 さんさい!?


 私、来年三十歳になるはずだったんですけれど!?

 あまりにも予想外過ぎる年齢に、反射的に水鏡を出現させて自分の姿を映そうとする。

 え? 手応えが、おかし——


 少しだけ手に集めようとした魔力が、驚くほど小さな頼りない掌の中で急速に高まっていく。

 ……そう言えば私、魔力が大きすぎてまともに扱えるようになったのはかなり遅かったんでした。

 今更そんな事を思い出しても、もう手の中のうねりは止まらない。

 このまま魔力が四方に弾け飛べば、小さなテーブル一つを挟んでいるだけのリュミエールまで怪我してしまうかもしれない。


「っ、リア!?」


 咄嗟に硬く握り込んで魔力を閉じ込めようとした手を、幼子とは思えない速度で飛び込んできたリュミエールが握り締めた。

 ふたりきりの時だけ呼ばれていた、いつしか呼ばれなくなっていた彼だけの愛称が焦燥を帯びた声音で紡がれる。

 目の前に見慣れた背中が割り込み、いつでも真っ直ぐ伸びている背筋が丸まって——


 うそでしょ? 私の片手を全身で包み込んで、衝撃を自分の体で受け止めようとしている。

 そんな事したら、痛いじゃすまない!


「だめぇ!!」


 考えるより先に、こちらを庇おうとしている小さな体の前に私も体を捻じ込もうとしていた。

 でも、だめだ。本当にさっきまでの大人の体じゃなくなっている。

 こんなに小さくては、とてもじゃないけど誰かを庇うなんて出来ない。

 大好きな人を傷付けてしまう。そう悟った瞬間、頭の芯がカッと熱くなった。


「わたくしのエルにけがさせたら、こんなうで切りおとしてやるから!!!」


 お腹の底から噴き出してくる怒りのまま、自分の魔力も制御しきれない体に叫ぶ。

 自分の声へ呼応するように、こめかみが大きく脈打った。

 っ、頭が、熱、い……? 奥歯を噛み締めた瞬間、リュミエールに抱えられている片腕へと激しい熱が迸る。


「きゃあ!」

「リア!」


 何かに弾かれたように跳ね上がりそうになった腕を、リュミエールの体が押さえ込む。

 掌に集まっていた無色の光が青く染まり、一気に大量の水が弾けた。


「うわ!?」

「リュミ!」


 水圧に押し出された小さな体を後ろから抱き締めると、私も一緒に押し飛ばされてころりと二人で地面に転がる。

 え? え、どうなったの?

 三歳と言ったら、まだ怒った時に漏れ出した魔力だけでも離れた場所の花瓶を粉々に割ってしまっていた頃だと思うけど……

 よく分からないまま温もりを抱いた右手に力を込めると、私の左手を抱えていたリュミエールが顔を上げた。

 お互い全身びしょびしょで、髪からも頬からも大きな水滴が滴っている。


 おおきな瞳からも雫が溢れ落ちて、どきりと胸が波打った。

 この頃の愛らしい相貌とは全く異なる、男らしく成長した——勇者の聖剣に貫かれた魔王の、リュミエールの最期が頭に過ぎる。


 ずっと、私から目を背けていたくせに。

 最期の一呼吸を吐き出す瞬間、あの男は私だけを真っ直ぐに見つめた。

 憎しみだったのかしら。苛立ちだったのかしら。今でも何の感情が映っていたのか分からない瞳が、目の前の涙を湛えた眼差しと被る。

全年齢モノ書きた~い!という気持ちになった為、原初のヘキこと逆行・ループ物開始しました。

シリアスも大いにありますが、恋愛が主軸です。


ブクマや下の★評価いただけると励みになります!

感想や各話のリアクションなどもとても嬉しいです(新着感想が本文下に出るシステムになってしまった為、過度の展開予想など先のネタバレになりそうな感想は控えていただけると助かります。場合によって反応できなかったり、削除させていただく場合もございます)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ