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絆のクラフトマスター ~兄妹で挑む救世譚、鍛冶師の【武器スキル創生】で最凶の魔王を討つ!!~  作者: 羽羽樹 壱理


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師を越える【天使偶像の白弓】――④

 個人用《パーソナル》に重量調整された武器であるが、そこに彼女の面影を感じて柄《え》を握《にぎ》る身に大いなる冷静をもたらす、【銀灰の細身剣】を携《たずさ》えたボクと、そして――。


 モニカが構えるは、一張《いちはり》の、【白い弓】だった。


 本当にクラシックなデザインの、白い弓。

 不気味なほどにシンプルな色合いと質感の、異質な美しさを見せていた。


 ボクたちのための、個人用の武器(パーソナルブレイド)。


「――それが、【天使の肉片】を精錬素材とした武器《アビスハウル》なんだねェ。いったいどんな武器なのか……」


 お師匠様は臨戦中の雑談を交えながら、ゆんわりと歩を進めてくる。


 悠々(ゆうゆう)とした足取りを、ボクたちは身動ぎもせず見つめ、見つめ、機《き》を計る。



 行く。



 数歩の間合いのみ神速を体現できる歩法、身体ごとぶつけるつもりで距離を詰める。


 自信を得ては他者の大きさ、自身の矮小《わいしょう》、対比で形作られる現実を知り、折れた心ごとまた鍛錬し直す、その挑戦、繰り返しの果ての純粋な確信。


 この初撃を避けられる達人は何人もはいない、【幻獣《アビシアン》】でさえも。


 ――――お師匠様はただ、正確な歩幅を体現しているだけだった。


 本当にそれだけ、――それだけのことが、極限の技となる。


 なぜ、ニンゲンが二足歩行を選んだのか。

 手を自由にして器用性をするため? ――違う。それは一側面でしかない。


 これが答えだ。


「速い。けれど、それに頼るのは……あァー、無意味なんだよ。僅かだが、決定的に――粗《あら》い。その限りは速さなど、無意味だよ」


 紙一重の、間合い圏外にある、お師匠様のお顔。


 言葉が交わされたわけではない、けれど刹那、そのような声を頭の中の、閃きという聴覚で確かに聞いた。


 手を自由にした器用性の獲得だけではない。二足になり、滑るような移動を獲得した機微《きび》の性質。歩《ほ》における器用性の獲得もまた、人間《ニンゲン》が二足歩行を選んだ、特段の理由の一つ。


 それをこの一瞬だけで知らしめられる。


 無理な歩法で距離を詰めた反動が訪れる。意識反応の反動《ラグ》、僅か狭まった視界。対してお師匠様はゆるりとしたごく自然な歩法、反動《ラグ》はない、意識の先手はお師匠様が圧倒して握る。


 剣は《正解》の軌道で振り抜かれる。


 本当に正しく振れば。

 力を込めずとも剣は、速《そく》と撃《げき》、斬《ざん》の十分を有《ゆう》する。




 ガギィイイイ――――ィン――……。




「!?」


 正しく振り抜いた剣が上げるはずのない鋼《はがね》の交錯音《こうさくおん》。

 鈍い音、お師匠様の反応がコンマ以下だけ、止まる。


【銀灰の細身剣】を振り抜く。


 正しい軌道じゃない、けれど、ボクの時間全てを込めた、一閃《いっせん》。


 振り 抜 く 。


「――――おお、鬼の目だ。人の本当の眼《め》だ」


 お師匠様は、柔《やわ》く微笑んだ。

 

「――あの少年がねェ」


 ――――再び、鋼《はがね》の交錯音。


 完全に受けられた、けれど――――始めて、お師匠様に剣で受け止めさせた。


 その身の先端に触れた。


「なるほど、多少の粗《あら》さは武器性能の差で、無理矢理に溝《みぞ》を埋められるわけか。今(・)そ(・)の(・)時(・)に(・)お(・)い(・)て(・)鋼(・)に(・)備(・)え(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)、純(・)物(・)質(・)的(・)な(・)力(・)の最効率――を、越える顕現によって。武器性能差……それが戦闘行為においてこれだけの意味を成《な》すとは、今まで知らなかったねェ」


 剣撃《けんげき》を縫《ぬ》うように躱《かわ》しながら、間隙《かんげき》に剣を振るいながら、それは実際の言葉にして仰《おっしゃ》った。


「だがまあもう、知った」



 ギキ――――ィィン…………。



 どこか澄んで鳴り響く鋼《はがね》の激突音、破壊を避けるため力を逃がす過程で押し込まれていたお師匠様の剣が、【銀灰の細身剣】と対等に鍔迫《つばぜ》り合いしている。


「うん」


 理解が及ばない――――その単純だと言うことに、悉《ことごと》く。

 ――そうして畏敬《いけい》していたのは、昔のことだ。


 僅かにも乱れた呼吸を楽《らく》に整える、感覚を研ぎ澄ます。


 そうすると、他のモノの呼吸も感じ取れてくる。


 お師匠様の呼吸。お師匠様の――腕、脚、胴、思考、連動したそれぞれの呼吸。


 それだけではない、振るう力を介して生まれる、剣《つるぎ》の――鋼《はがね》の呼吸というものさえも。




 ガギィイイイ――――ィン――……。




「――――……」


 お師匠様。


 ボクは貴方《あなた》に、どれだけ近付けましたか?



「【属性転換《マジックコンバート》】――《物理衝撃》⇒《暴走魔力奔流(ほんりゅう)》!」



 静観し機《き》を窺っていたモニカの放った弓矢が、極限の速度でお師匠様に迫る。


「――――避けれるのかい?」


 お師匠様の呟きだ。


 軽々と身を避《よ》け躱《かわ》されて、地に着弾した弓矢は――――何かの象形《しょうけい》を模《も》して輝《かがや》き、うねり奔《はし》る狂った奔流《ほんりゅう》を生み出して爆薬よりも凶悪な衝撃を周囲に拡散し始めた。


 だけど、そんな中で。


 モニカと共にお茶を楽しむ、なんでもない一時《ひととき》くらいに、呼吸が落ち着いている。嬉しい感情が無い分、あるいはそれ以上に、静かに。


 奔流《ほんりゅう》の影響が、呼吸として感知できる。


 炉で鋼《はがね》を叩いている時《とき》くらい鮮明に――炎の温度を、鋼《はがね》の状態を《感覚の眼》で感じ取れる、あの時くらいに、魔力奔流が生み出した熱、弾き出された岩石の状態、風の一筋までもが理解できる。


 脳処理が追い付いている。

 情報として現実を認知し、処理できる。


 ボクは貴方《あなた》にどれだけ近付けましたか?


 ボクは貴方《あなた》を越えます。



「――――なるほど」



 狂った奔流の生み出した現象結果を、ボクは悉《ことごと》く避けきった。


 お師匠様は。


 ――避けきれず、衣服に幾筋《いくすじ》もの、擦り切れを作っていた。


 存在が波紋《はもん》のように世に落とす影響結果を汲み取り、『辿るであろう只唯一の道筋』を察知するお師匠様の才覚。それに対する――【影響力自体を変革《へんかく》する力】というクリティカル。


 加えて。


「あの【天使の肉片】の白弓《しらゆみ》は、そういった特性を備えているんだねェ」


 そう、【天使偶像《てんしぐうぞう》の白弓《しらゆみ》】は、あなたを討ち超えるそのための【アビスハウル】でもあります。



「やあ、史上、一人目の快挙だ」



 奔流のうねり狂う中、ボクの放った一太刀《ひとたち》は――岩粒よりも切れ込み深く、お師匠様の衣服を、裂《さ》いていた。


 この段階《ステージ》まで来た。


 明(・)ら(・)か(・)に(・)単(・)純(・)な(・)干(・)渉(・)力(・)変(・)換(・)と(・)は(・)思(・)え(・)な(・)い(・)質(・)量(・)値(・)の(・)破(・)壊(・)力(・)が、甘皮にも届かない僅かにも影響するのは、この一回のみだろう。けれど。


 お師匠様。


 きっとあなたは未だ、あの白弓《しらゆみ》の力を、ほとんど察知できていません。




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