師を越える【天使偶像の白弓】――③
『皆、皆が。私よりも遥かに凄まじい力を持っているのだよ。
例えば重力を操る力、
理を超越した絶対防御、
万物を斬り裂く烈風、
全てを凍てつかせる冷気の吐息、
無尽蔵の魔力体質、
際限のない再生特質、
はたまた、
偉大なる古き炉の炎を顕現させる召喚術。
星の崩壊爆発に等しいエネルギー爆発。
道義を貫き通すと誓った思いそのものが新たな因果律となって道理を悉く打ち破る力。
あるいは――ある物体が世界に及ぼす影響結果を別の干渉形態へ変換して出力する魔法、とかね。
どれもが、私の理解をも超越した、途方もない力だねェ。
あァー、でも…………。
皆が皆、基本的なところが、疎かだ。
人も獣も。
どうしてか、生物類として生来持ち合せているはずの根本部分が、どうしようもなく――――疎かだ。
私はそれだけで勝ってしまう。
そりゃそうだ、基礎を補い余る力など、この世に存在しないよ。
生物の細胞一個に宿る根源的力には及ばない、及べない。
だが皆に言わせれば、それは私が秀でているということらしい。
理解は及ばない。生来――今その時においてその者に備えられている、純生物的な力でしかないのに。不思議なものだ。
だから。
私に師事するのは、やめたほうがいいねェ。
だって、どうやら私は、私以外の全てを、まったく理解できていないんだから。
理解できないという意味で、まったく五里霧中。そんな人間が、何を教えるというんだ……?
そういうことさ。
分かってくれたかい?』
『――――いいえ。リコロット様、やはりあなたは、ボクにとって、希望に映ります』
『…………? どうしてだい?』
『ボクにはどうにも、あなたの存在が示す体現は、努力をもって到達できる領域であるように、思えてならないからです』
『――――ハハ。フフフフフ。――……そうか。イヤ、私もそのように思っているのだけれど……そんなふうに言ってのけたのは、キミが始めてだよ。うん、なら――……それは、キミが選択する決意なのだろう。私はそれを拒んだりはしないよ、分かった。モノは試しで師弟関係になってみようか』
私のことはお師匠様と呼びなさい。
リコロットという名は、アチラの世界に置いてきた、ある男にあげた名前だから。
そのように仰った。
それから、ボクたちの師弟関係が始まった。ボクはあのときの言葉を、どれだけ本当にできただろうか?
――――目の前の、空恐ろしい青色の瞳を見つめて、そのことをふと、思った。
『さあ、では始めようか。ほんの小手調べと侮らず――――ちょっと待って、エ、死にかけてるかい……??』
『まずは、アー……基礎的な、肉体鍛錬から……やろうか。エー……基礎的な肉体鍛錬……。――ストレッチとか、かな?』
『……リョウガさん、今日から私も、リコロットさんの修行を受けるよ。――うん、もう大丈夫、私は立てるから。――ありがとうリョウガさん、きっと、あなたにたくさん、助けられた――!』
『エー、では今日の修行はコレでいこう。いいかい、くれぐれも、死なないように! まあ最近だとその心配も、徐々にではあるが、薄れてきたがねェ。さて、今日の修練は鬼種の討伐だよ。――おお、いい表情だ、その意気だよ。フッ――さあ、頑張ってきたまえ』
『――――礼? フフ、それはキミたちが強くなってから受け取ろう。励みたまえ、私の弟子たち』
「時間だねェ、私の弟子たち」
ボクはそこに、どれだけ近付けた?
【古き炉の魔法】のイーゼ――父さんのように血筋の特異を宿せなかったボクの前に現れた、鮮烈なる光をまとった|高貴なる完全純潔の白花。
ボクの道しるべ。
「物事、どうにかなるものだ。あァー……、話したいことがたくさんあるはずだったけれど……こうして向かい合うと、なんでか、何も思い浮かばないねェ。――――さて、では……来なさい、私の弟子たち」
「「行きます、お師匠様」」
どのような道筋を辿ろうと、生きる限り直面しただろう今この時。
のどやかな、なんでもない森の中で。
最強との決戦が始まった。




