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1−8.女伯爵

 機械仕掛けの乗り物、自動車が国教会の敷地内に急停車する。最近開発された魔鉱石を使わない化石燃料で動く乗り物だ。自動車には屋根はなく、幌が後部に折りたたまれている。馬がいない軽馬車といった風情である。

 後部座席から三つ揃いのスーツに身を包んだ二人の青年が降りてきた。一人は銀灰(ぎんかい)色の髪の青年で、眼鏡を掛け知的な印象があり、もう一方は赤褐色の髪をした何処となくヤンチャな雰囲気を醸す青年だ。どちらも美形と言って良い。

 銀灰色の髪の青年が運転席のドアを開け、赤褐色の髪の青年が恭しく手を差し出すと、運転席に座る女性は、保護眼鏡(ゴーグル)を外し、差し出された手に黒い革手袋に包まれた手を重ねた。襟や袖口に黒革を配した深紅の上着(ジャケット)に、太もも部分が膨らんだ同色のジョッパーズ、足元は黒革の編み上げブーツ。世間一般の女性達に比べれば、かなり斬新奇抜な装いと言える。

 紅い髪を靡かせ、唇に紅をさした華やかな美女、ロードナイト伯爵はにっこりと微笑んだ。


「あら、アンバー君がお出迎えなんて嬉しいわね」


 アンバーは不機嫌を張り付けた顔で硬直したように立っている。女伯爵はアンバーの眉間を人差し指で軽く突いた。


「ふふふっ、表情が硬いわよ。エリオン様は聖堂かしら」


 女伯爵は聖堂に向け颯爽と歩みを進め、二人の従者がピッタリと付き添う。赤褐色の髪の青年がアンバーとすれ違う際、見下したような視線を向け、ニヤリと笑った。

 アンバーは前を行く二人の従者の背中を苦々しく睨め付けながら、その後ろを渋々と付いていく。アンバーは現在不在の所長である次兄の名代だ。形だけとは言え、席を外すわけにはいかない。美貌の女伯爵が三人の美男子を従えて歩く姿に巫女達が黄色い声をあげている。


「別にコイツらに案内なんて要らないじゃないか」


 ポツリと漏れた声に銀灰の髪の従者が振り返る。


 ――少し大人になられた方が良いですよ。


 眼鏡越しの瞳がそう語っていた。


     ***


 『巫女送り』は王都の空に浮かぶ二つ目の月に巫覡を送り込む神事である。巫覡は強い魔力がある者のみが通れるという国教会にある『門』と呼ばれる遺跡を使い、二つ目の月に送り込まれる。その際、地上側の見届け人として高位の貴族―――公爵や侯爵、一部の伯爵が持ち回りで儀式に参加することになっており、今回の当番家がロードナイト伯爵家だった。その打ち合わせに伯爵が二人のお供を引き連れ国教会を訪れたのだ。


 アンバーは彼らを非常に不快に思っていた。彼ら自身を、というよりは、その関係性に嫌悪感を抱いていた。

 ロードナイト伯爵といえば、男性が継承することが多い爵位を若くして継いだ有能な女伯爵として知られている。しかし、その有能さ以上に世間では、若い男を侍らせる女伯爵として有名であった。

 今も二人の従者が女伯爵に必要以上に近づき、側に控えている。赤褐色の髪の従者は、チラリとアンバーを見遣ると主の艶やかな紅い髪を一房掬い、口付けした。


 『ウラヤマシイカ?』


 唇が動き声にならない言葉がアンバーを煽る。カッと頭に血が上った。グッと拳を握りしめ、口から溢れそうになる言葉を飲み込む。


 ――羨ましいものか。俺はお前らのようにはならない。お前らのような女に媚を売るみっともない使い魔になどなってたまるか。


 二人の従者、彼らは先祖返りの魔物筋であり、女伯爵を主人とする『使い魔』だった。


「では、三日後、巫女送り当日に伺いますわ」


 ロードナイト伯爵とエリオン神職が立ち上がり、三日後の再会を約束し握手を交わした。いつの間にか打ち合わせは終わっていたらしい。フッと力が抜ける。

 女伯爵を従者が慣れた仕草でエスコートし、退席する。

 己の未来から逃れるようにアンバーは目の前の光景から視線を外した。


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