新生
世界中の秘め事が暴かれた数分後。
陽彩の指示を受けたOrpheusの面々が、各地に出撃していく。
その雑踏の中を、一人歩く少年がいた。
彼の名前は、明星輝夜。
英雄を父に持ち、第零部隊の隊長を務めている。
だが、彼の後ろに続くものはいない。
篝灯魔は死に、篠宮沙織は天霊となり、玖遠玲那は消息不明。
今の彼には、肩を並べて戦うものも、背中を任せられるものはいなかった。
雑踏から抜け、廊下には輝夜以外の人影は無くなった。
「おう。ここにいたのか、輝夜」
「白夜さん。どうしました?」
そんな輝夜を引き止めたのは、Orpheus全部隊統括大隊長を務める明星白夜だった。
「周りに誰もいない時くらい、父さんって呼べよ」
白夜は微笑みながら軽口を叩くが、それに応じる余裕は、今の輝夜にはなかった。
「それで、何の用ですか?」
「……まあいいか。神崎から頼まれたものを渡しに来ただけだ。ほらよ」
白夜は持っていた包みを、輝夜に手渡す。
受け取った瞬間に、それが何なのか理解できた。
「ありがとうございます」
短く感謝を伝え、輝夜は任務へと向かおうとする。
「おい、輝夜。その……大丈夫か?」
思い詰めた暗い表情を浮かべる輝夜を、白夜は引き留めた。
彼を心配する言葉は父親と責任者、どちらの立場としての言葉だったのか。
どちらであっても、輝夜にあっては大した問題ではない。
「はい。特に問題はありません」
「……そうか。お前がそう言うなら、これ以上は何も言わん。任務に励めよ」
すれ違う輝夜の肩を叩き、白夜は彼に激励の言葉を贈る。
輝夜は、そのまま振り向きもせず、任務に向かおうと思っていた。
だが、久方振りに上司と部下ではなく、父と子として言葉を交わしたことが、輝夜の足を止めさせた。
「父さんは、どうして英雄になったの?」
「なんだ、唐突に」
輝夜の急な質問に、白夜は笑ってしまった。
「そうだな。別に、英雄になろうとしてなったわけじゃねえよ。きっかけだって、事故みたいなもんだしな」
しかし、その真剣な瞳に見据えられ、白夜は真剣に答えを返す。
「天霊にあいつを奪われたことが許せなかっただけで、英雄になりたかったからやったわけじゃなかった。今だって、過去の後悔を忘れたくてやってるだけだ。結局、英雄なんてのはな、周りが好き勝手言ってるだけのお飾りの称号だ」
白夜は、輝夜の頭をぐしゃぐしゃと乱雑に撫でて、笑いながら言った。
「本当に大事なのは、お前が誰のために何をしたいかだ。そこに肩書きも役職も関係ねえ。自分の心に正直になることが一番大事なんだよ。だから、うだうだ考えずに、やりたいようにやってこい」
輝夜の背中を思い切り叩き、白夜は、輝夜の元から去っていく。
「──ありがとう、父さん」
鈍い痛みを背中に感じながら、遠く離れていく背中に、輝夜は感謝を伝えた。
◇
Orpheus本部の外に出た輝夜は、目を閉じ、深呼吸をする。
「輝夜さん。向かって欲しい場所をマップに送信しておきました」
「ああ。ありがとう」
輝夜の装着する通信機に、司令室からの連絡が入る。
短く感謝を伝え、目を開けた輝夜はマップを確認し、位置を把握した。
そして、輝夜は、白夜から受け取った包みを解き放つ。
「神崎さんには感謝しかないな。大きな戦いが起きる前に完成させてくれて」
天霊都市での戦いの後、輝夜は神崎の元を訪れていた。
その理由は、自身の霊装を完成させてもらうため。
今までは、試作品の霊装「ベータ・レムナント」を使用し続けていた。
しかし、それではこの先の戦いを生き残ってはいけない。
誰も守れない。
そう考えた輝夜は、霊装を完成させることを依頼した。
「さあ。初陣だ」
ここに来る道中で、霊装の説明には全て目を通し、使用方法は全て理解していた。¥
「君の力を見せてくれ、デーヴァ・レムナント」
そして、輝夜は生まれ変わった自身の霊装「デーヴァ・レムナント」を掲げる。
霊装は主人の声に応じるように、その姿を銃へと形を変えた。
デーヴァ・レムナントは、試作品同様、十二の形態への変化を可能としている。
いくつかの形態は試作品から使いやすいように性能が調整された。
そして、試作品にはなかった機能として、武装の併用が追加されている。
「──帝釈毘沙門天・崩雷武曲陣」
今回、輝夜が併用した武装は、毘沙門天・武曲陣。
仲間たちに勝利をもたらすべく、陣を刻んだ場所に瞬時に現れることができる。
そして、天を穿つ雷撃を、銃身から放つ武装であり、十二の武装の中でも最も攻撃範囲が広い帝釈天・崩雷銃。
この二種を組み合わせることで、輝夜は雷撃に陣を載せ、雷撃が直撃した場所に陣を刻み込むことを可能にした。
これにより、敵を殲滅しながら、敵陣に強襲することができる。
陣からから放たれた雷撃は、標的に向かい飛来し、輝夜を今回の標的の元へと導いた。
「さあ、始めようか」
輝夜は、生まれ変わった霊装を携え、雷光と共に、ゾディアック本拠地を強襲した。




