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プロローグ。クビに至るまでの経緯について


  金髪の剣士が、宝玉に彩られた剣を大上段に構え、まっすと突進する。その先に立ちふさがるは双頭のドラゴン。片方は口から燃え盛る火炎をはき、残る片方は顎をかみならしていた。


「灰燼に帰せよ!(メルティ)」


 城内に凛とした声が響く。声の主、金髪の少女は宝珠を持つ右手を、前方へと突き出した。声と動きに応じて、地面から粉塵が現れ、爆発四散する。その勢いに龍の片方が飲み込まれた。


「あああああああああああっっ!!」

 裂帛の気合と共に、剣士は剣を振り下ろした。銀閃がひるがえり、苦悶の表情を浮かべるドラゴンに、その剣が深々と突き刺さる。


「危ない!」


 その悲鳴のような叫び声をあげたのは少女だった。

 剣士の左から、怒りに我を忘れたもう一匹のドラゴンが首をもたげ、剣士へと襲い掛かる――。

 剣士は宝剣にて反撃しようとしたが、その刀身は深くつきささったままである。回避をするにも、時間がない。

 ドラゴンが、その凶悪な顎を振り下ろした。剣士はかろうじて左手でその攻撃を受ける。顔が苦痛にゆがむ――。見るまでもない。左腕は使い物にならなくなっているだろう。


「大いなる祝福を(ヒール)」


 次いで聞こえたのは、少年の朗々たる詠唱だった。

 少年は大きく、はっきりと、自信と確信をもってその魔法を完成させた。


 剣士の顔が歓喜に変わる。とうに食い破られた左腕は再生していた。両腕で竜の凶悪な顎をねじきると、悲鳴をあげるその顔面に拳を打ち込む。何度も何度も。絶命し、その巨大な口から血の塊が吐き出されるまで――。



 そうして。

 3人の英雄と、魔王と呼ばれた双頭の竜の戦いは幕を下ろした。


 ざわざわと、喧騒に包まれる店内。魔王城から王都へと向かう途中の村にあった、変哲のない宿屋である。一階は受付とカウンターが兼用となっており、日が暮れると地元の住民が集まり、夜な夜な宴会を始める。

 魔王が倒された、という噂がすでに流れていた。自分たちが喧伝した記憶はないから、きっと噂好きの大道芸人がしゃべって回ったのだろう。

 クリムはそんなことを思いながら、目の前にあった麦酒に口をつけた。

 呼び出したのはアランの方だった。宝剣エドヒルゼにその能力を見込まれた少年。半身に神を宿し、剣の腕は超一流、正確は豪放、それでいて気取りのない優しさを見せる、クリムの憧れの存在でもある。

 呼び出されるにあたって、思い当る節はあまりなかった。いつもは神官のクリム、剣士のアラン、そして魔術師のエリッサという三人パーティだった。日常会話程度ならば3人で居るときに済ませばいい。こうして呼び出されたからには、何かわけがあるのだろう。

 新たな敵の出現か。それともどこかの国の反乱か。エリッサには言えない、ということはもしかしたら王都に関連した何かかもしれない。

 あるいは趣旨替えをして、エリッサとの結婚報告だろうか。子供ができたとか。何か重大な役割を自分にまかせたいとか。

 麦酒を飲むピッチが早くなる。酔いのせいか緊張か、自分の鼓動が聞こえてくるような気がした。

「遅くなったな」

 麦酒を1つ、とアランは気取りのない態度でウェイトレスを呼び止めた。ボサボサの金髪。年相応に華奢な体躯。目つきの鋭さに尋常ならざるものがあるにせよ、一見して、誰が彼を勇者だと見抜けようか。そんなクリムの視線に気づいたのか、アランは運ばれてきた麦酒に口をつけると、片眉をあげてみせた。

「なんだ。怒ってるのか? 」

「そういうわけじゃないよ。呼び出した理由が気になっただけ」

「まあな」

 アランは一息で飲み干すと、空になったグラスをテーブルの上に置いた。

 その顔には暗い影が見える。

 やはり深刻な話なのだ。

 クリムは気を引き締めて、次の言葉を待った。

 しかしアランの口から出てきたのは、予想を裏切る――思ってもない言葉だった。


「すまないが、お前とのパーティはこれで解散だ」

「え? か、かいさん?」

 理解ができず、言葉をオウム返しに返してしまう。

「首だよ。平和な世の中に、お前ら神官は必要ない――」


 



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