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番外編・ヴァルプルギスの夜



 日本が黄金週間に浮かれる中、魔女たちが年に一回集まる夜があることを、みんな知ってるかな?

 私は知ってるよ。

 っていうか、今その現場に向かっているところです。以上、琴子より愛をこめて。



「あああっ~!!?」



 正直、愛だなんだと言ってられない状況の中、私は必死で目の前に座る人の背中にしがみつく。


「ちょっとぉ、少しは落ち着いてよお」


 相変わらず人をいらだたせる口調で魔女が文句を言う。


「お、落ち着いてなんかいられないよ!」


 私はあわあわしながら、必死で魔女の背中にしがみつく。

 本来、こんな状況じゃなかったら、半径一メートルどころか、世界の反対側まで距離を置きたい人だけど、この際仕方がない。


「だいたい、なんだって今回に限って箒で飛ぶの? 前みたいに瞬間移動してよ!」

「駄目よぉ~。それじゃあ、雰囲気でないじゃなぁい?」

「雰囲気なんていらないもん!」


 私はもう涙目だ。

 前世の私に呪いをかけてくれた張本人である人騒がせな魔女は今回もやってくれた。

 私が今いるのは、魔女の箒の上。魔女と二人乗りなうえ、上下左右にと落ち着かない飛行技術なため、危なっかしくて仕方がない。

 だいたい、空を飛んでるんだよ! 高所恐怖症気味の私にとっては拷問に等しい。

 自宅の庭から飛び始めて一時間あまり経ったけど、私はずっと下を見ないようにしてる。

 見たら最後、めまいを起こしてそのまま下に落ちて行ってしまいそうだ。


「……現代っ子ってやわよねえ」

「現代っ子も何も関係ないよ!」


 呆れたように言う魔女に、私が逆に呆れる。


「だいたいねえ、またしても人を誘拐同然で連れ去っておいて、その態度はなに!?」

「ええぇ~。あなただって、ちょっと興味ありそうだったじゃなあい」

「ぐっ……」


 詰まる私を見て、魔女がふふんっと鼻で笑う。

 嫌な女。

 でも、確かに私は興味があった。四月三十日、五月祭前夜に行われる魔女たちのサバトであるヴァルプルギスの夜に。

 その時の事を回想するとこうなる。


「ヴァルプルギスの夜?」


 庭に干していた洗濯物を取り込んでいた私の前に突如として現れた魔女の言葉を繰り返すと、うふんっと無駄に色っぽく微笑まれた。


「そうなのぉ。五月祭を祝う前夜祭なんだけどぅ。まあ、詳しい内容はググって、ウィキでも見て調べてちょうだぁい」

「……超投げやりなんですけど」


 しかし、最近は魔女までもネットをいじる時代なのか。


「だってぇ、めんどくさいんだもぉん」


 口をとがらせて睨むも魔女には通じない。

 箒に乗ってぷかぷかと浮きながら、けだるげに髪をかき上げる。

 ちなみに、魔女。今回は非常に魔女らしい格好をしている。黒い三角帽といい、マントといい、いかにも魔女だ。

 胸の谷間があらわな黒いロングドレスを着て、唯一の抵抗なのかマントの裏地が紫だけど、それがアクセントになっていて中々素敵だ。

 そんな事は口が裂けても言わないけどね。


「とにかくぅ、お祭りの前に飲んで歌って騒ぎましょって夜なの。世界中から魔女が集まるから楽しいわよお」

「ふーん」


 世界中から魔女が集まるのか。なんだか楽しそうな、怖いような光景だ。


「いくつか開催場所があるんだけどぉ。私、今年はブロッケン山に行くつもりなのよぉ」

「はあ」


 聞いた事があるな。確か、ドイツだっけ。

 この時点で、まさか私も一緒に行くとは知らなかったから、あくまで他人事である。

 ちなみに、何故聞いた事があるかという、たまたま知り合ったドイツの首都ベルリンの図書館に住み着いている黒づくめでどうみても見た目おじさんの天使に聞いたからだ。

 何故、私がその天使と知り合ったかは長い話になるから、また今度。


「んでぇえ、あなたも一緒に行かなあい?」

「はああ!?」


 あはんと小首をかしげて笑う魔女の顔をまじまじと見つめた時には、もう遅かった。


「ちょっ、や」


 いきなり手を引っ張られたのと、夕食の準備をしていたシオンが私の様子を覗きに来たのはほぼ同時だった。


「琴子~。もうすぐご飯の用意が、あっ!?」


 甘い声で私を呼んだその顔が、魔女の姿を見て強張る。


「ああら、シオン。ちょっと、この子借りてくわねぇ」

「シオ~ン!!」


 全開の笑顔の魔女と、涙目で助けを呼ぶ私。どう見ても誘拐事件の発生である。


「琴子!?」


 エプロン姿のシオンが慌てて手を出し止めようとしたものの、時既に遅し、琴子~っというシオンの絶叫が遥か遠くに聞こえてきた時には、私と魔女は夜に沈みゆく空の彼方へと飛び去っていたのだ。



「……私、ヴァルプルギスの夜には興味はあったけど、行くとは言ってないからね」


 これだけは主張しておきたいので、私は声を大にして言う。


「ふーん」


 が、魔女は超興味なさげだ。

 わかってる。魔女に常識なんてものが通じない事は。魔女が私の前に現れた時点で、全てはこうなる運命だったのだから。

 それに、魔女たちのお祭りに興味があるのも確か。

 こうなったら、楽しんだ方が勝ちかもしれない。そう思っていると、魔女があっさりとこう言った。


「さ、着いたわよ」

「え?」


 私は驚き、呆れる。

 いや、だってまだ一時間ぐらいしか経ってないよ。飛行機でだって、ヨーロッパまで十数時間かかるはずなのに。

 そう考えてから、すぐに私はこう思い直す。魔女には常識が通用しないと。


「ああら、結構みんな来てるわねえ」


 その言葉に、私は魔女にしがみついたまま、顔をあげて怖々周囲を見渡してみる。

 夕方の日本から一時間ぐらいしかたっていないのに時差はどうなってるんだという疑問はこのさい脇に置いておくとして、日はすっかり沈み夜になっていた。

 前方にうっすら見えるのがブロッケン山だろう。山々が連なる中、一際高い。 

 その頂上あたりがうっすら光って見えたけど、私は周囲の光景の方に呆気にとられていた。

 魔女がいた。いっぱいの魔女たちが、箒にまたがり、山の頂を目指し飛んでいたのだ。


「わ、わああっ」


 小さな歓声を上げる私の姿に、魔女がうっすらと笑ったような気がした。


「……すごい」


 暗がりでも彼女達の姿がはっきりと見えたのは、箒に吊るしたカンテラだったり、魔女たちが作った火の玉のせいだ。

 中には、キラキラと身体の周囲を発光させている人もいたし、サーチライトのように輝く瞳で道筋を照らす黒猫を肩に乗せている人もいた。

 私が見ているのに気がつくと、人のよさそうなおばさんが、ふかしていたパイプの煙を使って、ドラゴンを作ってくれた。

 煙で出来たドラゴンは咆哮を一声あげると、空高く一直線に飛び、空中ではじけ、花火となって夜空を彩る。

 すると、負けじと他の魔女たちが我も我もと、魔法を披露しだした。


「……みんな、本当に魔女なんだねえ」

「年に一度のお祭りですものぉ。みんな、気合いが入ってるわあ」


 当たり前の感想になってしまったが、すっかり感心した様子の私の姿を見て、魔女はちょっと誇らしげだ。

 実際、魔女たちはいかにも魔女らしい格好をしている人もいれば、これから舞踏会ですかと聞きたくなるようなドレス姿の人。かと思えば、短パンにTシャツなんていうシンプルな人もいるし、パンクな格好のおねーさんや、はては学校の制服姿っぽい女の子までいて様々だ。

 年齢も色々で、何百年も生きているようなお婆さんもいれば、お母さん魔女に抱っこされた赤ちゃんまでいた。その赤ちゃんが手に持っていた王冠をかぶり、どこか愛嬌のある顔をした金色に輝く鳥の置物を、ヒョイッと無造作に放る。

 あっと思った時には、鳥は生を受けた生き物のように羽を羽ばたかせ、赤ちゃんの周りを楽しそうに飛び回り始めた。

 末恐ろしい事この上ないけど、無垢な笑顔とそれを微笑ましそうに見守る魔女たちの姿を見ると、なんだか人間とあんまり変わらないんだなあって思ってしまった。


「さあ、着いたわよぉん」


 そうこうしている内に、山の頂上へと着いたようだ。

 広場に降り立つと、まさにそこはパーティー会場で、老若男女入り乱れ騒いでいた。

 魔女によると、女だけでなく男の魔法使いも参加するし、シオンのような吸血鬼やモンスターたちも最近は参加するらしい。


「魔女も国際化しないとねぇ。いつまでも女だけとか、他のモンスターたちは立ち入り禁止とか言ってられないのよぉ。じゃないと、やれ差別だなんだと騒ぐ連中がいるのよねぇ。ホント、やんなっちゃう」

「……なんか、そっちの世界も大変だね」


 はあっと魔女の初めてかもしれない本当のため息を聞き、私はほんの少しだけ同情した。

 だいたい、このパーティー会場自体、結構人間的だ。

 基本、野外移動遊園地のような感じで、観覧車やメリーゴーランドがあって遊べるし、屋台が立ち並ぶ一角では美味しそうな匂いが蔓延し、射的や占いまでやっていたけど、銃は本物だし、占い師はガチに魔女なのだからやっぱり他とちょっと違う。

 テントや簡易小屋を作って中でくつろげるスペースもあって、近辺の山々に住んでいるというドワーフたちよって結成されたバンドが曲を奏で、やたら低音ボイスの雪男がDJをしていた。

 食べ物も、トカゲの煮込みスープなんて出てきたらどうしようと思ったけど、結構普通。っていうか、美味しい。

 全身包帯だらけのコックさんが作ったという、生クリームと木イチゴのジャムがたっぷり入った大きなシュークリームもどきを食べながら、魔女の話を聞いていると、ものすごく聞き覚えのある声が耳に入ってきた。


「琴子、いたあ! 探したんだよ!!」

「ぶっ。シオン!?」 


 おもわず口の中のものを吹き出してしまった。

 人込みをかき分けながらやってきたシオンにぎゅうっと抱きしめられながら、シオンの肩越しに目を向ければ、ポチに竹蔵・梅吉兄弟、それに高尾先生まで来ていたことが分かった。

 ちょっと何よ。私より先に来てるって。どこでもドアでも持ってるわけ?


「……なっ。なんで、みんなまで」

「僕と君の愛を引き離すことなんて出来ないのさ」


 シオンが瞳をキラキラさせて顔を近づけてこようとするので、顔を挟んで思いっきり両手で叩く。


「こ、琴子~」


 ケッ。答えになってないんだよ!

 情けない声を上げるシオンを無視して、竹蔵達の元に駆け寄ると、頭をなでられた。


「無事で良かった。また魔女に誘拐されたなんて聞いたから心配したんだよ」


 竹蔵に優しく言われると、こっちも心配かけちゃったなあって反省してしまう。


「よくここだって分かったね」

「うん。これを見て、情報を集めたんだ」


 と言って見せたのは、竹蔵のiPhoneだ。

 画面に表示されているのは……。


「……ツイッター?」

「うん。モンスター用のね。あと、これ」

「……モンスター・ブック」 


 ふざけたネーミングのSNSに私は目が点だ。


「ったく、ふざけてるぜ。モンスターの分際で」 


 私と同じ意見の高尾先生がむかついた様子で顔をしかめるが、右手にビール、左手に焼き立てのプレッツェルという塩味の焼き菓子を持ってる。あんた、満喫しすぎだっつーの。

 梅吉も屋台で買ったらしい、切り分けた焼き立てのソーセージにカレー粉とケチャップをかけたものを食べている。

 狼姿のポチが羨ましそうに見ているのが分かると、大きく開けた口に一個、二個と放ってあげるものの、私の視線に気がつくと、二人揃ってばつが悪そうな顔をした。

 悪戯がばれた子供みたいで可愛かったけど、ここはちょっと怒った顔をして睨みつけてやると、大きな身体を小さくさせてうなだれる。

 ポチなんて、本当に小さくなって、子犬サイズになってしまった。二人とも可愛すぎだ。


「でも、こんなのがあったなんて知らなかったなあ」


 竹蔵に借りて、iPhoneをよく見ると、事実私の目撃情報があちこちから寄せられていた。

 怖すぎる。プライバシーの侵害だっつーの。

 誰だよ、さっきおばさんが作ってくれた花火に見とれるあまり馬鹿面になっている姿を写真にとってアップした奴。ユーザー名、魔女っ子シシーだと? 舐めとんのか。

 ちなみに、この魔女っ子シシーとは後日会偶然出会うことになるんだけど、詳しい話はまた今度ね。


「僕が作ったんだよ」


 シオンがドヤ顔で、怒り気味の私を落ち着かせるように、背後から腕をまわして抱き締めてきた。


「シオンが!?」

「そう。モンスターも現代の波にのってIT化が必要だからね。結構評判なんだよ」

「まあ、ハンター側にもこういうのはあるけどな」


 高尾先生が不肖不肖といった感じで認める。


「陰陽師にもありますよ」


 竹蔵の言う事に、梅吉が同意するように頷くのをみて、先生がぼそっと呟く。


「……現代の忍者は全然忍んでねーな」


 まったくだ。と、そこで気がつく。


「あっ。先生の名前が書かれてますよ」

「え、どこに?」

「ほら。いつか殺すハンターリストコミュニティーに」 

「ふ、ふざけんなあっ!?」


 私からiPhoneを奪い取った高尾先生が激高する。


「何が、高校教師をしている日本のTAKAOだ。個人情報もろバレじゃねーか?」

「ある意味、有名人ですよ。いいじゃないですか」

「そうですよ」


 よく分からないフォローを竹蔵と一緒に入れていると、急に周囲が静かになった。


「シオン?」


 私を抱きしめるシオンの腕の力が強くなった事に気が付き、その名を呼ぶものの、シオンは答えず、緊張した面持ちで顔をあげ、何かを見つめている。

 ポチたちも同様で、警戒するようにシオンと同じ方向を見て、身構えていた。

 一緒に見ていると、誰か背の高い人がこちらに向かっている事に気がついた。人をかき分け、というかその人のためにみんなが道をあけている。まるで、モーゼの十戒のようだ。

 ようやく全貌を現したその人は、ずいぶん背の高い人で二メールぐらいありそう。そして、その顔は……。

 私はあんぐりと大きな口をあけて呆け、シオンが強張った声を絞り出す。



「……メフェストフェレス」



 神。神がいましたよ。いや、大天使? ううん。悪魔だって! 

 ヤバい、混乱してる。悪魔だ。我らがメフェストフェレス様ですよ。


 禍々しいほどの美しさはまさしく人間離れしていて、ポチに並ぶ美形だ。っていうか、人外だけあって、その美しさはもはや人知を超えたものだ。常識外れの美しさだった。

 いつの間にか姿を消していた魔女が隣に立ち、甘えるように腕を取ってしな垂れかかっている。

 魔女だって口を開かなければ、とんでもない美女なので、二人の姿は目の保養になるっていう次元じゃなかった。生きた神話でも見ているような感覚だ。

 メフェストフェレスは見た目、三十代半ばぐらい。

 鼻筋の恐ろしく通った白人の男性で、漆黒のような髪に瞳、服の上からでもギリシア彫刻のような体つきをしていることがわかった。

 残念ながら黒い翼ははやしていないけど、黒い毛皮をあしらったマントの似合う事。不思議なことにマントの下は高級そうな三つ揃いのスーツだったけど、もちろんそれだって似合う。

 惚れ惚れと見とれていると、サタンが高い鼻をあげ、くんっと鳴らし艶然と微笑んだ。


「人の子よ」


 メフェストフェレスの声は深く響くテノールで、その顔は悪魔的に美しかった。


「何故、ここにいる?」


 その瞳は真っ直ぐ私に向けられていた。

 恐ろしくて私は声が出ない。死という一文字が脳裏をかすむほど、メフェストフェレスからは重々しいオーラが発せられていた。


「そこの魔女に無理やり連れてこられたわけであって」


 シオンが私の代わりに説明する。


「彼女自身の意思ではない。もし気を悪くしたのなら、申し訳ない」

「ほお」


 メフェストフェレスの関心が私からシオンに移ったのが分かった。


「お前の事は知っているぞ」

「それは光栄です。必要であれば、すぐにでも我々は出ていきます」


 シオンは他のモンスターを相手にするより丁寧だ。

 やっぱり、悪魔が相手となると他のモンスターとは違うんだな。


「ふうん」


 互いに牽制しあうように見つめあった後、メフェストフェレスの方から視線を外した。


「まあ。よい。今宵は前夜祭。みなで春の到来を祝おうではないか」


 シオンが気を抜いたのが、私を抱きしめる腕の力から分かった。

 竹蔵たちも同様だ。

 シオンとポチ以外、私達は人間で、彼らの祭りを邪魔したと思われてもおかしくない状況だったから、正直何をされても文句はいえなかったと思う。


「もうっ。メフェスト様ってばぁ、お人がいいわぁあ」


 魔女がぶりぶりと言うが、そのつまんなそうな顔を見ると、どうやら何か文句をつけて欲しかったらしいい。

 まったく、この女はそれが今回の目的だったのか。二度と、付いていかないんだから!


「お前が連れてきたのだろうが」


 メフェストフェレスは少々呆れたようでいて、楽しそうな顔をしている。

 どういう関係なんだろう。この二人。

 世にも美しい悪魔は改めて、私達の顔を順に見つめていくと、最後に魅入られるような笑みをたたえた。


「祭りの夜を楽しむとよい」


 そう言うが、マントを華麗に翻し、魔女を引き連れ人込みの中に入って行ってしまった。



「はあ~。緊張した」



 メフェストフェレスの姿が見えなくなると、私は盛大に息を吐く。

 シオンの支えがなかったら、その場に倒れこみそうだった。


「……やっぱ、こういう場で会うとちげーな」


 高尾先生が感心したように言い、煙草に火をつける。


「普段は上手く隠しているけどね」


 シオンが相槌を打つけど、私は不思議だ。


「え? 何? 二人とも、メフェストのこと知ってるの?」


 そう言うと、逆にビックリされた。


「ん? お前、知らないのか?」

「……ああ。入学式の時、会ったきりだしねえ」


 シオンがしたり顔で頷く。


「まあ、普段は爺の姿だからな」


 先生が同意しながら、煙草をふかす。


「……へ?」


 私はまだ分からない。どういう事?

 そこで、はたっと気がついたように竹蔵が手を打つ。


「ああ。じゃあ、前に言っていたのはあの人のことだったんですか?」

「うん。そうだよ」


 シオンと二人、会話が進んでるけど、こっちは一向に見えない。

 同じく何も知らない、ポチと梅吉と共に、どういうこと? と改めて聞くと、三人そろって答えてくれた。


「あいつはうちの理事長だぞ」

「普段は姿を偽って、老人の姿をしてるんだ」

「悪魔が学校経営って恐ろしいよね。まったく」


 私の中で入学式に一度見たきりの、ちまちました白髪の老人の姿がちらつく。



「……え? え、ええっ~~!!?」



 私の絶叫が、ヴァルプルギスの夜に一際高く響き渡った。


 後日、メフェストフェレスはどういう気まぐれか、理事長の孫と偽り、今の姿で新理事長の座に付き、生徒のみならず先生たちにまで、ピンク色の悲鳴をあげさせるんだけど、詳しいお話はまた今度ね。




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