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黒き竜は空を舞い  作者: サモト
赤竜王の結婚
34/44

1.

本編終了後から、主人公の結婚までのお話。蛇足的内容です。

 ハルミット家の食卓は、まれな客人をむかえ、会話が弾んでいた。

 といっても、いい方向にではなかったが。


「小僧、おまえ、少しは遠慮して食べたらどうだ。闖入者の分際で。態度でかいぞ」


「ごちそうを出されたら、残さず食べるのが礼儀だろうが。だいたい、黒トカゲ、おまえこそ一人で食べすぎだろ。どこに栄養いってんだ。頭でないことだけは確かそうだけどな」


「おまえこそ、食べるわりに身になってなさそうだなあ。よわっちいし」


「もう一回地面にたたき落とすぞ、トカゲ」


「そっくりそのままセリフ返してやる、はなたれ小僧」


 羊肉の串焼きを挟んで、オーレックとまれな客人――シグラッドが火花を散らす。

 二人は向かい合わないように、隣り合わないように席をはなしてあったが、ムダだ。

 アルカもバルクも、鉄串や小ぶりのナイフが凶器に代わりそうな雰囲気にハラハラしていた。


「お義母様も、陛下も、お食事ぐらいで喧嘩なさらないで。お代わりならたくさんありますから。――はい」


 キールが机の中央のまな板に、羊肉の鉄串を突き刺す。

 酒壺を机の中央に置き、料理をぎっしり食卓に並べ、二人の視線をさえぎって散らす。

 その場しのぎではあったが、とりあえず悪口はやんだ。


「さすが母さん……」

「カカア天下は世の安泰ってのはホントっすね」


 アルカもバルクも、物怖じもせず二人の間に割って入ったキールに感服した。


「バルクさん、お義母様にお酒を注いで差し上げてね。アルカは陛下にお注ぎして。ほら」

「合点承知!」

「はい!」


「ま~、それにしてもウワサ通りものすごい美形ね~。シグルドを見て予想はしていたけれど、目の保養だわ~」


 キールは不敬にならない程度に皇帝の尊顔を拝見しつつ、ため息をもらした。


「あれでお義母様に挑む気概も持っているんだから、文句なしにイイ男じゃない。よかったわね~」

「う……うん、まあ。……ホント、そう思うよ」


 本人の目の前で同意を求められるのは気恥ずかしい。

 アルカはごにょごにょと口内に言葉をこもらせた。

 酒壺をかたむける手がすべる。


「ごめん、シグ! ――じゃなかった! 失礼いたしました、陛下」

「わざわざ言い直さなくても」

「申し訳ございません、お召し物にも……」


 近い。ものすごく近い。服をぬぐうせいで、シグラッドとの距離は吐息がかかるほどだ。


「本当に、久しぶり」


 熱い手の感触と、力強い声音と、金褐色のうつくしい目。

 体中が甘くしびれる。

 アルカは頭の中が真っ白になった。


「陛下、こちらもどうぞ」


 ドン、と大きな音を立てて、イーダッドが皿を置く。


「今日の食事の中で、一番貴重な部位です。舌や目玉も食べられますよ」


 羊の頭が半割にされ、でん、とふてぶてしく、挑戦的にのっていた。


「……キールさん、アレ、半ば嫌がらせじゃないんスか?」

「どうかしらねえ。一応、あれは、ティルギスでは賓客にお出しする料理ではあるけれど」


 バルクとキールのやり取りが聞こえているのか聞こえていないのか。

 イーダッドは無表情で、ずいと皿を押す。

 アルカはようやく我に返った。


「陛下、まだ他の料理もございますから。べつのものを」

「うん、なかなか。頭は頭でうまいな」


 シグラッドは羊頭に、顔色一つ変えずに食いついた。


「無理しないで!」

「別に無理してない。地方に行ったり、違う国にいったりすると、もっとすごいものが出てきたりするからな。毒が入ってなければ、何でも食べる」


 シグラッドは平然と、舌も目玉もさらえた。

 キールにむかって、大変満足だったと、笑顔で礼を言うのも忘れない。余裕だ。


「すばらしい。陛下はどこでも生き抜けそうですね」

「ゴキブリめ」


 イーダッドの称賛を、オーレックが端的に言い直す。

 アルカは二人をうらめしげにした。


「シグ、これはおいしいから、口直しに」

「いや、もう」

「お腹いっぱい? それとも、気持ち悪くなっちゃった?」

「胸がいっぱいで食が進まない」


 シグラッドはアルカを見つめて、うっとり酒杯をかたむける。

 オーレックがぺっと、皿に小骨を吐き出した。


「うちの娘をつまみにするな、このスケコマシ」

「お戯れはほどほどにお願い申し上げますよ、陛下。アルカ様はしずかな生活を望んで、王宮を辞し、ここにいらっしゃいました故」


 アルカはオーレックと共に王宮を出た後、バルクの紹介で、アンカラにいたイーダッドと再会し、一緒に暮らしていることになっている。


 シグラッドは、イーダッドが生きていることに、そしてイーダッドとオーレックが一緒にいることにも驚き、ふしぎそうにしていたが、そこはイーダッドがうまく言いくるめた。


「陛下、あれからどうなすってるんですか? お妃様の一人くらい、取られたんです?」


 バルクがテーブルの隅っこから、こわごわ口出しした。

 おお、とオーレックも勢い込んで口出しする。


「めとったんだろう。おまえがアルカにちょっかいだして、おまえの嫁が怒りだしてみろ。面倒だ。やめろ」

「……面倒なんて起きない」

「ってことは、いるんだな? いたら起こる。絶対問題が起こる。たとえ形だけの伴侶でも、浮気したら怒るもんなんだ」


 アルカは心の内を悟られないよう注意して、酒をつぎ足した。

 オーレックの言うことはもっともだ。

 自分が本物だったのは嬉しかったが、結局、遅かったということだろう。


「ぼっちゃん、ごはんはもういいのかな?」

「おなかいっぱい」


 シグルドは口の端にパンくずをつけ、目をこすっている。

 いつもより夕食がゆっくりなので、気づけば、シグルドにはもう眠たい時間になっていた。


「じゃ、おぢちゃんと二階に行こうね」

「私が連れていくよ」


 食事中、あまり構っていなかったからか、シグルドは甘えて抱っこをねだってきた。

 生まれたときよりだいぶ重たくなって、抱えるのも大変だが、これも幸せの重みだと思えば苦にならない。

 小さな手でぎゅっと肌をつかまれると、痛みより愛おしさで胸が苦しくなった。


「オーレックの子供だって、ごまかしちゃえばよかったかなあ」


 食堂を出るまで、シグラッドの目はずっと二人を追っていた。

 離縁した場合、子供は夫の家の子供になるのがふつうだ。

 シグルドの愛らしい寝顔をながめるにつけ、アルカの胸に後悔が押し寄せる。


「さすがに無理があると思うぞ。あのババアの子供がこんなにかわいいわけがない」


 アルカはかろうじて悲鳴を飲み込んだ。

 いつの間にかシグラッドが背後に立っている。


「キールが見に行くのを勧めてくれたものだから」

「足音消すの、上手だね」

「起こしたら悪いと思って」


 引き続き足音を殺して、シグラッドは枕もとに回り込んだ。


「かわいいな」

「……うん。私の宝物なの」


 シグラッドの長い指が、やわらかな頬をつつく。

 息子の存在をかわいいといってもらえてうれしかったが、アルカの心は粗いやすりで削られたようにざらざらした。

 たずねる声がかすれる。


「シグルドのこと、連れていくの?」


 つい、責めるような口調になってしまった。

 自分に権利がないと分かっていても。


「一人で育てるのは、大変だろう?」

「全然大変じゃないよ。私一人じゃなくて、オーレックたちもいるし。大丈夫だから」


「私には育てる責任がある。引き取っても、アルカも会いに来ればいい」


「シグに他に子供ができたら、王宮でシグルドがどんな思いをするか。かわいいって思うなら、見なかったことにして。王宮で争いに巻き込まれたらかわいそうだもの」


「そんなこと――」


 シグルドが身じろぎした。

 二人ははっと、お互いに言葉を飲み込む。


「陛下、今晩はいかがなされます? 我が家にお泊まりなされますか?」


 戸口から、キールがおだやかに声をかけた。

 オーレックはじとっとシグラッドをにらむ。


「おまえの護衛が外にいるせいで、うちが目立って仕方ないんだが」

「そうだったな。今日のところはこれで」

「またお出でになるときは、ぜひ先触れをくださいませね。ごちそうをたっぷりご用意してお待ちしておりますから」


 どこまでも敵意丸出しのオーレックと違い、キールは始終好意的だ。

 自然、シグラッドの表情も和らぐ。


「アルカはハルミットに育てられたのだとか。キールもアルカの面倒を?」

「ええ。あなたの元へ旅立つまで、自分の子供たちと一緒に、お世話をさせていただいておりましたわ」


「血は繋っていなくとも、親子だな。あなたの中にある清さと公正さは、親しみを感じる」

「この子と親子といっていただけるのは、私にとって、最高の褒め言葉です」


 敬意を表して、シグラッドはその手に口づけた。

 慣れない慣習に、キールは、あら、と恥ずかしそうにする。


「――また来ても?」

「二度と私が姿を現さないことが、離婚の条件だったはずだけれど。シグがそれは破ってもいいと思うなら」


 アルカのいいように、オーレックやイーダッドたちが物珍しそうにした。

 アルカも、自分でも、らしくない、かわいくない、あてつけがましい物言いだと思った。

 しかし、シグルドのことを思うと、止まらなかったのだ。


「足、本当に良くなったんだな」


 アルカに言い返しもせず、シグラッドは別のことを持ち出した。


「別れた後に、治療を受けていると聞いていたから、どうなったかと思っていたけど。良かった」


 一言も責められず、気遣われて、アルカはかえって居心地が悪くなった。

 あんなに冷たく言い返さなければよかったと後悔する。


「あなたが陛下とお別れしたあとね。アデカ王のところに、陛下から内密に贈り物が来ていたのよ。色々と。

 大事な愛孫を傷物にして申し訳なかったって。足が不自由では暮らすのも大変だろうから、くれぐれも便宜を図ってくれってね」


 食卓を片付けながら、キールがいった。

 手伝うアルカの口に、余っていた果物を放り込む。


「竜って本当に、一度懐に入れた相手にはとことん甘いのね」



*****



 翌日、シグラッドからパンや肉や野菜、果物が大量に届けられた。昨晩のお礼だ。

 キールは使者から言付けを聞き、困った顔をする。


「今日明日はお仕事で、明後日いらっしゃるそうだけれど……困ったわね。明後日から私とお父さん、一緒にアデカ王のところへお話に行こうと思っていたのよ」


「アデカ王、もういらしているの?」


「この町にはまだよ。でも、この町に入られる前に、色々とご事情をご説明しておいた方がいいと思って、こちらから会いに行くのよ。

 なんの打ち合わせもなく、この町で陛下とアデカ王が突然ばったりお会いになられたら、混乱しそうでしょう? お父さん、アデカ王には明かしてもいいけれど、陛下には明かしたくない事情があったりするから」


 オーレックとイーダッドが親子だという点は、特にそうだ。

 あらかじめアデカ王に口止めをしておかなければならない。


「だからアルカ、明後日、陛下をおもてなしして頂戴ね」

「延期させてもらった方がよくない? オーレックとシグが喧嘩をはじめちゃったら、私、止める自信がないよ」


「じゃあ、いっそ、一日陛下と外に出てきたら? お店のことはバルクさんにお任せできるし、シグルドのことはお義母様にお任せすればいいし。陛下に町を案内していらっしゃいよ」

「でも……」


 アルカはシグルドの話がでたらと悩んで、返事が煮え切らない。


「こんな機会、めったにないでしょうに。城の外を、二人で自由に歩き回れるなんて。ねえ、お義母様、ちがいます?」

「シグルドの話は一切するなと、私が釘を刺しておこうか?」


 子供もいる大人の身でそれは情けない。

 過保護なオーレックの言葉に負け、アルカは重い腰を上げた。


「ま、姫サン、気楽に気楽に。デートだと思ってサ。キールさんの言うとおり、こんな機会、後にも先にもきっとないヨ」


「シグにはお妃さまがいるのに?」


 申し訳なさそうにするアルカに、バルクは頭をかいた。

 キールやオーレックも、たかがデートくらいと思っていたが、こういう点に関してアルカは頑固だ。


 イーダッドが木片を削りながら、口をはさむ。


「とりあえず、行け。おまえもアデカ王にお会いすることになる。その時のために、情報を集めてこい。

 ニールゲンの皇帝が今誰と結婚しているのか、子供が他にできそうなのかどうか、結婚相手がどのくらいの力を持っているか。聞き出してこい。イーズ」


 イーダッドはわざと、アルカを呼びなれた名で呼んだ。

 こう呼ばれると、アルカは嫌だといえない。

 子供のころ、父親の言うことは絶対と刷り込まれているせいで、そうそう逆らえないのだ。


「あなた」

「大丈夫だよ、母さん。行くよ」


 アルカはまなじりをつり上げる養母を止めた。

 つくづくこの父親にはかなわないと、くすぐったく思う。

 娘がデートに行きやすいよう、わざわざ大義名分を作ってくれたのだから。


「そうだね、父さん。そのくらいは調べておかないといけないよね」


「最初はうちの船でも見せてやれ。あの王なら食いつくだろう」


 イーダッドは木くずをふいた。できあがったのは、独楽だ。回すとシグルドがよろこんだ。


「そうっスね。あとは港で白い帆船をながめながらイカ焼きを食べて、タイルがキレーな噴水前でアンカラ名物の激甘お菓子をぱくついて、丘の中腹で海をながめながらヨーグルト水飲んで。言い忘れた、大通りに屋台が出てる綿菓子みたいなお菓子が絶品で」


「バルク、よだれよだれ」


 色気よりも食い気の紹介でも、アルカはだんだんと心が浮足立ってきた。

 アルカも人様の逢瀬を見て、憧れたりはしていたのだ。

 シグラッドとは結婚が前提だったため、恋人らしいこともしていない。


「きれいにしていきなさいね。男の人の口を軽くするには、やっぱり色気が大事だもの」


「そうだな。めいいっぱい着飾って、きれいにな。なあに、おまえがちょっと色目使ったら、あの小僧なんてイチコロだ。べらべらしゃべるぞきっと」


「色気も色目も使ったことないから、自信ないけど。努力する」


 シグラッドからも快諾があったので、アルカは一日、町を案内することになった。


 出かける朝、早くから髪を結い、紅を刷き、着替える。

 この地方の衣服は、襟のない、前開きの、ゆったりとしたガウンのような上着に、帯かサッシュを締める。

 今日は花の刺繍が入った上着に、ビーズの帯を締めた。持っている中では一番上等な服だ。


「めかしこんだなー」


 オーレックに冷やかされ、アルカは顔を赤くした。

 普段つけない耳飾りや首飾りもつけているので、シグルドなどは母親を物珍しそうにしている。


「どうかな、母さん。変じゃない?」

「胸もと、開けた方がいいわね」


 ためらう娘に代わり、キールが胸元をくつろげた。


「陛下のご命令で、再婚もできない身なんだから。今日くらい、女の楽しみを味わっていらっしゃい。恥ずかしがってちゃだめよ」


「でも、こういうの苦手で。どうしていいのか」

「お妃さま教育では何を教わっていたの?」

「……こういうのは、課外授業かな」


 ちなみに一度も行われたことはない。


「そろそろ行きなさいな。遅刻は厳禁よ」

「うん。母さんたち、道中気を付けてね。オーレック、シグルドのこと、よろしく。じゃあ、行ってきまーす――」


 意気揚々と玄関を開けてすぐ、アルカは動きを止めた。

 家の前に人だかりができていた。

 近所の女性陣が集まって、一人の若者をかこっている。


「あらー、そうなのー。ハルミットさんのお知り合いなの」

「まあまあ、これでも食べながら待ってたら?」

「飲み物もあるわよ」

「暑いわねえ。あおいであげる」

「絨毯持ってきたから。ほら座って座って」

「うちに上がって涼んでいたら?」


 熱烈な接待を受けている青年は、シグラッドだった。

 正体も明かしていないだろうに、王様のような待遇を受けている。


 オーレックとバルクが、アルカの後ろから外をのぞきこんだ。


「何やってんだ、あいつ?」

「家の前で待っていたら、近所の女性陣につかまったってトコでしょうネ。地味なカッコしてても、目立つヒトはやっぱ目立つんですネー」


 今日のシグラッドは、土地に合わせて、アルカと似たような格好をしていた。


 ゆったりとしたガウンのような上着――女性とちがって、帯は締めない――に、綿の上衣と下衣。

 上着の色は黒で、金の刺繍が入っているが、落ち着いた雰囲気だ。

 身分が高ければ高いほど、上着の丈は長く、刺繍や飾りも凝り、素材も絹であったりするが、そんなこともない。一般市民と同じ。


 ふだんは豪奢な装飾品たちに飾られる手足も、今日はルビーのついた金の指輪一つ。

 護身用の剣も、装飾的でなく実用的なもの。

 特徴的な真っ赤な髪は、頭に布巻いているので目立たない。


 アルカよりよっぽどおとなしい格好をしていた。

 ――が。


「……ごめん、やっぱちょっと。今日はやめとく」


 アルカは扉を閉め、片手で顔をおおった。


「私、まちがってた。がんばってどうにかなる問題じゃなかった。雀がちょっと着飾ったくらいで、孔雀に釣り合うわけないのに。どうかしてた」


「いやいやいや! 姫サン、そんな弱気にならないで!」

「おい小僧! 待ち合わせはここじゃないだろ! なんでいるんだ!」


 オーレックが扉を開けて、怒鳴る。

 オーレックが怒ったときの物騒さはよく知られていたので、人だかりは瞬時に掃けた。


「待ち合わせ場所に早くつきすぎて。暇だったから」

「早すぎだろ。まだ半時以上あるぞ」


 オーレックのあきれた反応を、シグラッドは見ていなかった。

 見ているのは、今日一緒にでかける相手だけ。

 戸口でうじうじしているアルカをじっと見つめ、表情をとろけさせる。


「待っていたら、女がガラの悪い男に絡まれている場面に遭って。アルカもそんな目に遭うといけないと思って、迎えに来た」

「ど――どうも。ありがとう」

「迎えに来て正解だった。今日のアルカを見たら、善人だって出来心を起こしかねない」


 シグラッドは自分より小さな手に、うやうやしく口付けた。

 集まっていた女性一同から、ほうっとため息が漏れる。

 キールも感心してため息をついた。


「きっと陛下は課外授業も満点でいらしたのね」

「? 授業はだいたい満点でしたが」


「アルカ、何をしているの? どうして首飾りを外すの」

「え? だって、こんなに着飾っていたら、シグの言うとおり、強盗に襲われると思って」


 アルカは落ちこぼれ街道まっしぐらだった。


「しっかりしなさい、アルカ。いい? 自分からキスぐらいして帰ってくるのよ」

「無理だよ。近いだけでドキドキしてるのに」

「できるまで食事抜き」

「せめて――手をつなぐぐらいで」


 キールは一児の母となっている娘を、シグラッドの胸に飛び込むよう突き飛ばした。


「――っ!!!」 

「では、陛下。私たちは用事がございますので、これで。おもてなしできなくて、申し訳ございません」

「キールの手料理が食べられないのは残念だが」


 シグラッドはしっかり手料理代わりの品を抱き留めた。

 行こう、とアルカを促す。

 さりげなく腕を組むのも忘れない。


「門限作らなくてダイジョーブですかネ?」

「いっそ明日の朝にしてやった方がいいんじゃないかしら」

「キール、アデカ王とアレの処遇について話がつくまで、それはまずい」

「小僧、日が沈むまでに返さなかったら、城を破壊するからなー!」


 家族に温かく見送られ、ともかくアルカは出かけた。



*****



 イーダッドの勧めに従って、アルカはまず港にむかった。

 歩き始めてすぐ、シグラッドが名残惜しそうに家をかえりみる。


「今日は、シグルドは一緒じゃないんだな」


 途端、アルカは身体をこわばらせた。


「ただ会ってみたかっただけだ。連れていこうとか、そんなことまではまだ全く考えていない。

 なんというか、信じられなくて。すごい驚いて、うれしくて……もう、どういっていいか分からないくらいで」


 声が弾んで、熱っぽい。アルカの固くなった心が溶けた。


「名前も、私のつけたがってた名前だし。覚えていたんだな」

「それはもちろん。シグ、女の子の名前もしっかり考えていたものね」


 アルカはあきれていたが、シグラッドはうれしそうにうなずくばかりだった。


「悪かったな。足、悪かったのに」

「産む前に治ったから。大丈夫だったよ」


「でも、大変だったろう」

「産むのはだれだって大変だよ」


「生ませるのが危ないと、ずっといわれていたんだ。子供かアルカか、選ぶことになるかもしれないって……」


 アルカは一向に気にしなかったが、シグラッドはこだわった。

 足が悪かったときに関係を作ったことを、負い目に思っているらしい。


 アルカはシグラッドの頭にその懸念があったことに驚いた。

 シグラッドはいつでもアルカを、自分の妃と公言してはばからなかった。悩みも気にもしていないと思っていたのだ。


「今思うと、それでも妃に望んでいた自分が怖い。自分本位で怖いもの知らずだった」

「もう気にしないで。足が悪くても、私も産みたいと思っていたんだから。後悔なんてしないよ」

「……アルカは、国のためなら身も心も捨てられるからな」


 シグラッドのいいように、アルカは違和感を覚えた。

 どうもいいたいことが食い違っている。


「シグ、そうじゃなくて」

「こんにちは、お嬢さん。旦那様のおっしゃっていたお客様は、そちらのお方ですか?」


 歩いているうちに、港についていた。

 ハルミット家が雇っている船長が近づいてくる。イーダッドに案内を頼まれ、待っていたらしい。


「これはまた、ずいぶん男前で」


 船長は、シグラッドが平凡な服装からは予想もつかない容姿をしていたので、驚いたようだった。

 嵐にも喧嘩にも動じない肝だというのに、シグラッドに見下されるとたじろぐ。どういう素性なのかと、探るような目つきをした。


「船を見学してもいい? 町を案内しているところなの」

「ええ、大丈夫ですよ。修理中ですが。ご案内しましょう」


 船長が先導しかけ、ふとふりむいた。


「どこかで拝見した顔だと思ったら。ひょっとして、シグルドぼっちゃまのご親戚ですか?」


 正直者のアルカは返答に詰まった。

 代わりにシグラッドが切り返す。


「そんなに似ていますか?」

「ええ。似ておいでですよ?」


 シグラッドはにこやかに笑んだ。回答ははぐらかしたまま、船の話題に移行する。慣れたものだ。


「現行の船より、長細いな。船尾も丸くない。櫂が見当たらないが?」

「完全に帆だけで進むようになっているんですよ。この船は長距離船です。遠くの海に出ると、波が高くて漕げないので、櫂はありません。今、舷梯を降ろします」


 シグラッドの目が、縄梯子にむけられた。早く登りたくてうずうずしているらしい。


「私もあれで大丈夫ですから」

「ですが、そのかっこうですと」

「お二人が先にお願いします」


 アルカは最後に上がるつもりでいたが、船長が上りだした後、体が浮いた。


「じっとしててくれよ」

「う――うん」


 アルカを肩に担いで、シグラッドは水夫さながらに梯子をするすると登っていく。

 くらくらするのは、梯子の高さのせいだけではないだろう。腕の力強さを感じて、脈が速くなった。


「船首楼と船尾楼が低いな」

「それもこの船の特徴ですね。吃水が浅いので、速いですよ」

「具体的には、どのくらい?」

「そうですね――」


 シグラッドは食いつく勢いで、船を見て回る。


「この船の建造は、ハルミットがしたんだろう」

「ええ。旦那様が設計図を持ってきましてね。最初はへんてこな船だと思ったものですが、これが意外と理にかなっている」


「なるほど。昔言っていた、ジュールマーレンの最終形がこれというわけだな。大砲はついていないのか」

「大砲? 予算の関係で、これにはつけられなかったそうですが。よくご存じですね」


「まあな。……私も一隻欲しいなあー」


 実のこもったつぶやきだった。

 遠巻きにしていた水夫たちが、首をひねる。


「ハルミットの旦那の同業者?」

「ううん。そういうわけじゃないんだけど。珍しいものを見ると、欲しがるたちなの」


「ハルミットも欲しいなあー」

「嬢ちゃん、まさかあの若造はコッチ?」

「ちがうよ。そういう意味じゃないから!」


 頬に片手を当てるしぐさをされ、アルカは思い切り否定した。


 船底から食糧庫、水夫たちの寝室から食糧庫、重しに至るまでつぶさに見て回り、シグラッドはようやく船に満足した。

 見学が終わるころには、船長が疲れていた。好奇心に駆られると、まわりが見えなくなるのは相変わらずらしい。


「じゃ、降りるか」


 シグラッドが帰りもアルカを担ごうとすると、水夫たちが冷やかした。


「あんまり馴れ馴れしくすると、海に落とされっぞ、色男」

「お嬢は姉御のお気に入りだからな」


 姉御というのは、オーレックのことだ。


「こっから放り投げられて、むこうの舷縁超えて、海にドボンだ」

「あのババア、アルカに相変わらずだな」


 ババア、の一言に、その場が凍り付いた。

 水夫たちはオーレックを女王のように崇めている。宣戦布告といっていい一言だった。


「……こんの若造ぉ」

「口の利き方に気ぃ付けろや」

「みんな、落ち着いて! シグ、次行こう! 次!」


 水夫たちのこぶしがパキポキ鳴る。

 シグラッドは逃げる気も隠れる気もなく、ババアをババアといって何が悪いと泰然としている。


「やっちまえ!」


 アルカは舷門に駆け寄り、青年二人組を呼んだ。ひそかにシグラッドを護衛している者たちだ。


「あのっ! 喧嘩がっ!」

「それは大変だ」

「すぐに上がってきてください」


 アルカは焦っていたが、青年二人はのんびりしたものだった。


「船、燃やしそうです?」

「は?」

「陛下が燃やしそうだったらいってください」

「私たち、陛下を周りから守る、というより、陛下から周りを守る役なので」


 護衛二人は、甲板の騒ぎなど気にも留めず、海鳥にエサを投げていたりなんかした。

 アルカはそんな馬鹿なと思ったが、護衛たちの言うとおり、心配の必要はなかった。

 ドボンドボンと、景気のいい水音が響いている。


「ふん。私だってここからむこうの舷縁超えて、海に投げこむくらい造作もない」

「くそー!」

「まだまだー!」


 水夫たちはだんだん、喧嘩を売りに行くというよりは、進んで投げられにいった。

 アルカは最後の一人――船長が海に落ちていくのを、階段に座ってみていた。

 そしてだれもいなくなった。


「あー、いい運動した。肩こり治った気がする」


 ふたたび地面に降りると、護衛たちは猫にむかって、にゃんにゃん話しかけていた。


「次、どこ行く?」

「露店でも見る?」


 アルカは胸を押さえた。

 自分がドキドキさせたい側なのに、自分の方がドキドキしっぱなしだった。いろんな意味で。



******



 正午の前までは、大通りには露店が立ちならぶ。

 買い物客の波もおさまったのか、人通りは多くなかった。ゆっくり見て歩くにはちょうどいい時間だ。


「こういう露店を見て歩くのは好きなんだ」

「良かった。あれ、シグ、好きだったよね」

「安くしとくよ、奥さん」


 アルカは店主の愛想に顔を赤くした。

 指さした果物と同じように、ほんのり赤くなる。


「一つ銅貨二枚? むこうの露店はもっと安かったぞ」

「しっかりしてるねえ、旦那」

「こっちの傷のあるのも買ってやるから。二つで二枚でいいだろう?」

「ハイハイ。毎度あり」


 アルカが口出しする間もなく、商談も会計も終わってしまった。


「ん」

「そっちの傷のある方で」

「もうかじったから無理」


 アルカは自分の顔色と同じ果物を、もじもじしながらかじった。


 前から歩いてくる若い夫婦を見て、ふっと夢想する。

 お互い一市民に生まれていたら、今頃あんな風に暮らしていたのかもしれない。

 夫婦とまちがえられても、シグラッドが迷惑そうにしていなかったので、アルカはそんな希望を抱いた。


「シャールとエイデなんかは、休日はああやって歩いているんだろうなあ」

「うらやましいの?」

「いや? 今はべつに」


 アルカは落胆とともに、最後の一口をかじった。

 シグラッドの休日も充実しているらしい。

 あれこれ女性の顔が浮かんでは消え、甘いはずの果汁が苦くなった。


「アルカは? うらやましい?」

「私? 休日は思い切りシグルドと遊んで、楽しいけど。オーレックがあちこち飛んで連れて行ってくれるし」

「……そういう長期的な話じゃなかったんだが」


 シグラッドはきまり悪そうに、古道具屋の店先にならんでいるものを手に取った。

 貝殻の化石だった。てきとうに手に取ったはずだが、興味をそそられたようで、なかなか手放さない。


「おもしろいな」

「買う?」

「土産にしようかな」


 だれに、の一言が聞けない。

 いつも自分だったのになあと思うと、アルカは胸が痛くなった。


「……お土産にするなら、こっちな方がいいと思うけどな」


 アルカは同じく店先にならんでいた、東国風の香水瓶を指さした。


「おもしろいのもいいけど。女の人なら、こっちの方が喜ぶんじゃないかな」

「……いったこと、あったか?」

「予想つくよ」


 アルカはむりに笑った。自分にもお土産をくれていた時代から、その相手にも送っていたような言い方だ。正直、二重にショックだった。


「今はこういう東国風のものが流行っていると聞くし。これにしよう。アルカは? 何がいい?」

「私はいいよ」


「遠慮するな。今日の礼だ」

「お礼してもらうほどのこと、してないし。――悪いから」


 恋敵に遠慮は無用というが。

 できないのがアルカだ。


「じゃあ、こっちの化石をシグルドに」

「いいよ。シグルド、壊しちゃいそうだから」

「おもちゃの方がいい?」

「おもちゃはイーダッドおじ様やバルクが作ってくれるから。いるなら、自分で買うし」


 母親としての意地が出て、アルカは強く断った。

 シグラッドが無意識に漏らしたため息を聞き、ずんと気分が重くなる。

 異性としては近づきたいのに、伴侶としては近づきたくないというのは、とても厄介なことだ。


「そういえば、金の錨亭っていう店がどこにあるか知らないか?」

「知ってるよ。オーレックがよく行く食堂だから。お昼も近いし、行く?」


「朝、助けた相手が、そこの店員だったんだ。ごちそうするからぜひって誘われてな」

「ガラの悪い男の人に絡まれていたんだっけ」


 露店を冷やかしながらむかったので、店は、昼の混雑が終わりかけのころだった。

 入ってすぐ、店員の一人が駆け寄ってきた。はじけるような笑顔とともに、元気よく出迎えてくれる。


「いらっしゃいませ。良かった。来てくれたんだ。ありがとう!」

「災難だったな」

「本当に。お兄さんのおかげよ」


 物おじしない性格らしい、娘はシグラッドの腕にすり寄った。

 アルカは視線の置き所に困った。別に何も悪いことはしていないのに、この場にいづらい。


「オーレック姉さんのとこの――そう、イーズちゃん。イーズちゃんの知り合いだったんだ?」

「知り合いっていうか、お客さんっていうか」


 わざわざ訂正しなくてもいいのに、アルカはさらによそよそしいふうに言い直した。

 なんだって自分はいつも弱気なんだろう、と情けなくなる。さっきの露店でのことが尾を引いて、まったく強気になれない。


「イーズって?」

「偽名だよ」


 アルカはひやりとした。銀竜のふりをしていた時も、この名を名乗ってしまっている。


「銀竜のやつ、偽名までアルカのをまねたのか。そんなことまで知っているなんて、どれだけつきまとっているんだ」


 シグラッドは徹頭徹尾、銀の竜に対して腹を立てていた。


「なんにする? なんでもどれだけでも頼んでね」

「そういうと、あの品書きを端から端まで頼むぞ」


「あたし、たくさん食べる人って大好き。いいよ、全部ね。

 イーズちゃんは? もちろんイーズちゃんの分もごちそうするから、何でも頼んでね」

「じゃあ、私は……」


「取り皿くれ。一緒に食べるから」


 娘は一瞬、意外そうにしたが、注文を厨房に伝えに行った。


 まもなく、豆を裏ごししたスープや、野菜をこまかく刻んだサラダ、豆のペーストとリング状のパン、野菜の肉詰め、肉団子の煮込み、串焼き、魚介の酒蒸しなどの料理が運ばれてきた。


 たちのぼる湯気と香ばしいにおいが、食欲をそそる。


「うまい。アルカも、ほら、どんどん食べろ」


 シグラッドは口にした料理を、アルカの取り皿に次々のせていく。

 昔と同じ食事方法に、アルカは胸がいっぱいになった。

 が、娘に興味津々に見つめられると、すぐにどんな顔をしていいのかわからなくなる。


「仲いいんだね。懇意にしているお客さんなの?」

「ああ、ええっと」

「イーズちゃんってちっちゃくて、妹みたいだもんね。兄貴分みたいに世話やきたくなる気持ちわかるかも」


 娘は屈託なく笑って、串焼きや魚介の酒蒸し、炊き込みご飯をおいていった。

 アルカはどういう表情で食べればいいか分かったが、もちろんうれしくはなかった。


 料理の最後に、乳と茶葉を煮た甘い飲み物が出された。

 運んできた店主が、ちらりとシグラッドの顔をうかがう。


「うちの子を助けてもらったから、俺からもお礼を言っとこうと思って。助かったよ」

「どうもご丁寧に」


 シグラットは店主の含みのある視線を、澄まし顔で流した。


「イーズちゃんも。連れてきてくれてありがと」

「私までごちそうになって、すみません」


「いいって。オーレック姉さんにはよく通ってもらって、お世話になっているし。今後は、イーズちゃんも食べに来てよ。おいしかっただろ?」


「はい、とても。こっちの料理って食べたつもりだったんですけど、知らない料理が多くて驚きました」

「ニールゲンでも一番二番を争うくらい、この地方の料理はおいしいからね。食べないと損だよ」


「その中でも、ここが一番おいしいって、オーレックがいってました。オーレックがここの肉団子の煮込みが好物だっていっていたから、私も食べてみたんですけど、すごくおいしくて」


「俺の料理の中でも自信作。香辛料の割合が工夫してあってさ。よかったら教えようか? 本当は内緒なんだけど」


「いいんですか? 家でも作れれば、オーレックが喜びます」

「ほかならぬイーズちゃんにならね」


 にわかに厨房がさわがしくなった。

 鉄なべから火柱が上がり、もうもうと煙が上がっている。

 店主はなんだなんだと驚いて、あわてて引き返していった。


「あの人、いつもオーレックにおまけしてくれるんだ」

「将を射んとすればまず馬からか」

「? ああ、そっか。だから丁寧にいつも私に挨拶してくれるんだ」


 どちらが馬かについて、シグラッドはあえて訂正しなかった。

 厨房では、まだ料理人たちが激しい炎の扱いに手を焼いていた。

 護衛たちが小声でシグラッドをたしなめる。


「陛下、あのくらいで目の色変えて怒らなくても」

「やりすぎですよ」

「アルカ、次に行こう。次」


 席を立つと、娘が見送りにきた。シグラッドの腕をぐいと引き、頬にキスする。


「また来てね」


 見ていたアルカの方があっけにとられた。

 どう店を出たのか記憶がない。

 今朝、キールに出された課題が重たく肩にのしかかってきた。


「何かついてる?」

「ううんっ。朝夕は涼しいけど、昼は暑いね」


 アルカはぱっと目をそらし、日差しよけのベールを深くかぶった。

 意識すると、ますますできる気がしない。


「なんか――気持ち悪いな」

「大丈夫? 何か口に合わなかった?」

「そうじゃなくて。出かける前に、どういう関係なのか、はっきり決めておけばよかったと思って」


 シグラッドは客だったり、夫婦だったり、兄妹のようだったりと、さまざまな見方をされることが、落ち着かないらしい。

 それはアルカも同じだった。

 が、どうなのか、はっきり決めるのはむずかしい。


「うちにきたお客さん、でいいんじゃないかな?」

「昔から付き合いのある?」

「あと……仲を前向きに検討してる仲、とか」


 アルカはぽそっとつぶやいてみたものの、すぐにつぐんだ。

 迷惑そうにされたらと、怖かった。

 第一、とても変ないい方だ。


「なんて?」

「べつに、何も」

「前向きな仲って?」


 聞こえていたらしい。アルカはどっと汗が噴き出た。不愉快に思われないような補足をする。


「た、たとえるなら、ティルギスとイルハラントみたいに。今はよくはないけど、今後は善処する、みたいな」

「ふうん。で、アルカの善処は、どこまで?」

「私は、長く、平和的に、きょうりょ――協力して」

「鎖国でなくてよかった」


 シグラッドはふたたびアルカの腕をとった。満腹に眠気を誘われたのか、あくびをもらす。


「シグ、どこかで休もうか。日中は暑いから、動き回るとつらいし」

「日陰を探して、適当に休むか」

「ちゃんと建物に入らないと危ないよ。そうだ、この先に、休憩できる所があったはず」


 アルカは大通りを突き進み、横道に入った。細い路地で、人影もなくしんとしている。

 一度迷い込んで来たことがあるだけだったが、ほどなく、目的の店を見つけた。


「宿だけど、休むだけもできるところなんだよ。ほら」


 店の看板には、休憩と宿泊の料金がわけて書かれていた。

 アルカは安心してシグラッドを手招きした。

 しかし、はるか後ろで、護衛たちは戸惑った顔をしている。


「ここだと、いけませんでしたか?」

「いいえ! まさか」

「殿下がよろしければ、わたくしどもに異存はございませんが……」

「ここでいい。入ろう」


 窓が小さいために、中は薄暗かった。老婆が奥からのそりと現れ、二人を値踏みするようにねめつける。

 前払いだよ、とつっけんどんに手が差し出された。


「休憩で」

「奥から二番目。エストマの花が描いてある。間違えないようにね」


 アルカが金を渡すと、老婆は三角形の香に火をつけた。これが燃え尽きるまでが、滞在できる時間だという。終わると、老婆はさっさとまた奥に引っ込んでしまった。


 正直、アルカは宿を数えるほどしか利用したことがない。それも、手配は全部バルクがやってくれていた。お香をのせた皿を両手で持って、おっかなびっくり、廊下を先導する。


 宿の扉は、部屋ごとに、派手に赤か紫で塗られていた。タペストリーは端がほつれて色あせていたが、配色がいやにどぎつい。店の外観からは思いもよらない内装だった。


 部屋に入ってからも、予想を裏切られる。寝台が一つしかなかったのだ。他に簡易的な寝台があるようでもないので、アルカは焦った。


「気にしないで。私は寝るつもりなかったから。シグ、寝て。上着、あずかるね」


 アルカは服をかるくたたんで、壁際の椅子に置いた。

 壁に飾られた石のレリーフが目に入り、ぎょっとする。堂々と男女の猥褻な浮彫がされていたのだ。


「頭のも外す? 寝るならその方がいいよね」


 アルカは動揺をおさえて、レリーフを隠すように立った。シグラッドを寝台に押しやり、ともかくレリーフが見えないように気をつける。

 なぜなになんで、そういうお国柄なのかと、アルカは頭が沸騰しそうだった。


 追い打ちをかけるように、隣室の壁から、みだらな声が漏れ聞こえてくる。

 階上の部屋の振動で、天井からはぱらぱらと漆喰が落ちて来た。

 なやましい甘い香が、鼻にまとわりつく。


 だんだんと、アルカは事情を把握してきた。

 逢引き宿という単語は知らないものの、この宿は、いわゆる普通の宿とは違うものだと悟った。

 ただ休憩するだけの場所ではないのだ。


「アルカも寝ればいい」

「え?」

「寝台、大きいから、二人でも寝れる」


 寝るときいつもそうするように、シグラッドは上着も脱いだ。

 よく鍛えられたたくましい体が、嫌でも目に入る。

 シグラッドは耳がいい、隣の声や上の物音が聞こえていないことは絶対ない。


「アルカ」


 ささやきに、ぞっと背筋がしびれた。全身の力が抜けて、寝台に座り込んでしまう。頬にかかる手の大きさと熱さに、心臓を締めあげられる。


 たしかに口づけしたいと思っていた。

 前向きに検討したい仲だとも思っている。

 しかし、いきなりここまで先進的な仲になる予定はない。


「――おやすみ」


 おでこに、かるい衝撃を受けた。

 目を開けると、明るい黄褐色の目が、いたずらっぽく笑っていた。


「ここがどういうところか、やっぱりわかってなかったんだな」


 くつくつ、シグラッドは肩をふるわせて笑う。

 アルカのパンパンに膨らんでいた緊張が、一気にしぼんだ。


「……ごめん」

「いや、おもしろかったし」


 シグラッドは何か思いだしたらしい、吹き出して、腹を抱えた。


「壁見てすごいびっくりしてるし」

「………知ってたなら最初から教えてよ。そんなに笑わなくてもいいじゃない」

「聞かなかったふりが全然できてないし」

「早く別の場所行こ!」

「ここでいい。三日間寝てなかったから、限界」


 シグラッドはごろりと、アルカに背を向けて横になった。


「今日が楽しみすぎてずっと眠れなかったんだ」


 寝息はすぐに聞こえ始めた。

 一方でアルカは、顔を赤くして、一睡もできなくなった。



*****



 宿を出ると、日はやや西に傾いていた。

 二人は町の高台までのぼることにして、ゆったり歩き出した。


「この角を曲がるとね、ヴォーダン夫人の家があるんだよ」

「私にとってはいいことではないけど、いいこと聞いた。レギンが気にしていたんだ。元気にやってるのか、あのババア」


「前みたいに、とはいかないけど。私のお産も助けに来てくれて」

「レギンの子供も見に来てやればいいのに。連絡したけど返事がないって、レギンのやつさみしがってたぞ」


「自分の役目は終わったからっていってた」

「らしいといえばらしいな」

「本当は、離れがたい気持ちの裏返しなんじゃないかな」


 夫人はきっと今日も、先代皇妃の愛したロサの花を手入れしていることだろう。


「レギン、どうしてるの?」


「今は城で、私の代役やってる。長いこと巡察に行かせていたから、今頃、城で娘にデレデレしているんじゃないか。たまにローラが妬いてる」


「あはは。子供、好きそうだもんね。シャールはどうしてるか、知ってる?」


「もちろん。去年、長男が生まれた。新婚当初は一人旅に出かねない勢いだったから、エイデがハラハラしっぱなしだった」


 旅に出る目的は、当然、アルカを探してのことだろう。竜王祭で、自分の主人だと思っていた人間が、銀の竜になって飛んで行ってしまったのだから、混乱は想像に難くない。


「だから、まあ、なんだ。会って、安心させてやった方がいいと思うぞ。シャールにも、レギンにも。二人とも、心配してる」

「……そうだね」


 高台から見る景色は、絶景だった。町の線は海に向かってゆるやかに下り、遥か彼方で、青い海と空が交わっている。陽光が海に乱反射してまぶしい。


 もう、イーダッドとキールはアデカ王と会ったのだろうか。


 アルカは石垣に寄りかかって、今日旅立った養父母のことを考えた。自分も、数日後には、アデカ王と会うことになる。先々のことが、悶々と頭をめぐった。


 とりあえず、シグルドのことはニールゲンに引き渡すようにいわれるだろう。そうなれば、自分はついていかないわけにいかない。


 しかし、ニールゲンにいったとして、自分が耐えられるか。

 今は、二番目でも三番目でもいいなんてことが、いえない。

 シグラッドの隣にだれがいるのか聞くことは、任務と割り切っても、勇気が要った。


「シグ――い、今さ」

「うん?」

「……喉、乾いてない?」


 アルカたちのように、高台に上ってきた通行人を待ち構えているのだろう。飲み物の屋台が出ており、人がたむろしていた。

 待ち時間の手持無沙汰を、屋台のそばの踊り子がつぶしてくれる。


『たとえば糸であったなら。赤と金の糸であったなら。自在にむすんで蝶結び、ほどいてむすんでたて結び、ほどいてむすんで綾つなぎ、むすぶもほどくも心のままに』


 褐色の肌の踊り子だった。歌に合わせて、金と赤の――糸では細すぎるからだろう――紐を結んだり解いたりしている。身動きするたび、紐の端についた鈴がかろやかに鳴った。


『けれど私とあなたは縄のよう、あざなえる縄のよう。一つでむすんでもつれても、ほどけば変わらず元の一つ』


 二つの紐をより合わせて縄にし、結んで、ほどく。

 人々は屋台で買った飲み物を片手に、踊り子に見惚れていた。


『銀のはさみが縄を切っても、私とあなたはともに落ちるだけ。これがさだめというのなら、あきらめきれぬとあきらめましょう。良き出会いだけがさだめでないから、もう一度縄をつないで銀の竜』


 より合わせた紐をぴんと張って、踊り子は優雅に一礼した。

 踊りはそれで終わりだった。人々が小銭を投げるのと一緒に、アルカも小銭を投げる。


「若い男女に聞かせる歌じゃあねえよなあ」


 屋台の店主が、二人のためにカップを用意しながら、苦笑した。


「すてきな歌だと思いましたけど」

「おうおう、嬢ちゃん。ダメ亭主と縁を切りたいのに、別れたいのに、でもあきらめきれないって泣く女の歌だぞ?」

「あきらめきれぬとあきらめたって泣くにゃあ、まだ早いだろ」


 他の客からも冷やかされ、アルカは口をつぐんだ。歌声に聞きほれて、歌詞までよくわかっていなかったのだ。


 踊り子が申し訳なさそうに微笑している。


「本当は由緒ある歌なんですよ。赤竜妃が歌ったものだから」

「赤竜妃様が?」

「もうそんなこと、だれも覚えていないけれど」


 踊り子は小銭を拾い集めると、ふと、二人にむかって声をかけた。


「そうだ。どちらか歌ってくださいませんか? 相手のために。そしたら、ここは私がおごりますから」


 踊り子は拾い集めた小銭を、屋台のカウンターに置いた。

 店主はおもしろそうに眉を動かし、他の客たちも娯楽に飢えているのか、二人に期待を寄せる。

 アルカはおろおろうろたえた。


「すみません、ちがうんです。私たち、ただの知り合いで。今日はたまたま一緒にいるだけで」


『つれないあなたは、今日もいう、ご無沙汰してます。たまにはいわせて、また来たのって。

 やさしいあなたは、惚れさせ上手。愛想笑いとわかっていても、浮き立つ心、私がばかなの、知ってるわ。

 いいよる人の親切より、あなたの思いやり。あなたが拾ってくれたなら、銀のピンも、金のピン。

 あなたが来るまで、あれこれ考え、いえたの一つ、できたの一つ、これが私の精一杯。

 帰るあなたは、ありがとうと、頭を下げるだけ。また来るといってくれたなら、私はもっと楽なのに』


 シグラッドが歌ったのは、店屋の娘が来る客に想いを寄せている歌だった。


 アルカの方が店の娘と思われそうな選曲だが、歌い手が相手を見つめて歌うので、どちらが店屋の娘なのかは明白だ。


 いかにも言い寄られそうな方が、しおらしい気持ちを歌うので、客たちはにやにや笑った。


「とてもお上手ですね」


 歌い終わったとき、踊り子が手をたたいた。他からも拍手が起きる。後から来た客は勘違いして、小銭を投げた。


「いい声してるな。まさか本職だったのかい?」

「いや? でも、ふだん、喉はよく使う」


 号令をかけたり怒鳴ったり演説したり、皇帝陛下はお忙しい。

 店主は満足して、踊り子からのお金を受け取らず、二人に飲み物をおごった。


「ところで、彼女はただの知り合いっていっていたけど?」

「そうなんだが。今後を前向きに検討している仲なんだ」

「なるほど。前向きに」


 全員から意味ありげな視線を投げかけられて、アルカはじわりと胸が熱くなった。


「……シグ、ちょっといい?」


 アルカは店をはなれると、シグラッドを人目につかない木陰に呼んだ。呼び出したからには、逃げことはできない。深く息を吸って、勇気をふりしぼる。


「立ち入ったことを、聞いてもいい?」

「うれしいな。なんでも聞いてくれ」

「今のシグのお妃さまって、だれなの?」


 すると、耳を疑うような答えが返ってきた。


「銀竜」

「え?」

「竜王祭で銀竜が妃役して以来、家臣が大げさに吹聴したせいで、世間では私の妃は銀竜ってことになってるんだ。おかげで、私の隣は半永久的に欠番」


 アルカはとっさに二の句がつげなかった。予想だにしない、まったく思いもつかないことだった。


「それ、いいの?」

「いいも悪いも、知らないうちに勝手にそんなことになってたんだ。大衆は英雄が好きだからな。銀竜が妃の皇帝なんて、誇らしいだろう?

 私もはじめは嫌だったんだが、それなら無理に結婚を勧められないから、ちょうどいいと思って取り消さなかった」


 銀竜が妃では、どんな淑女も太刀打ちできないというわけだ。


「唯一困っていたのが、跡継ぎだったんだが」


 シグラッドはアルカをうかがうようにした。

 こちらの意思を尊重する気があることを察して、アルカはほっとする。


「つきあっている人とか、いないの?」

「どうして。だいたい、やることとやりたいことが多くて、遊んでいる暇なんてあるわけない。仕事と結婚しているようなものだ」


「でも、さっき。……あの、お土産買っていた方は? いいの?」

「母ことか? 反対なんて、絶対しないぞ。母もアルカを気に入っているし」


 アルカは自分の勘違いを恥じた。まさかお母上宛にだったとは。しかし、母親の仇を討つくらいにシグラッドの母親への愛情は深いのだから、考えついてもいいことだった。


「だから、いっただろう? 妃がいたって、何も面倒なんて起きないって。

 安心してくれ。シグルドのことは守る。他に結婚もしないし、アルカ以外との子供を作る気もない。信じてくれ」


 肩透かしをくらった気分だった。アルカは脱力とともに、カップの中身をすする。全部自分の取り越し苦労だと知ったら、どっと疲れた。


「じゃあ、最後の質問なんだけど。……シグ、いつ戻るの? 私もシグルドも、準備しておかないといけないから」

「準備なんて。身一つで来ればいい。全部こっちでそろえるから」


 アルカはひゃっ、と悲鳴を漏らした。両脇を抱え上げられて、ぐるぐる回される。


「シグ、こぼれる! こぼれるから!」

「絶対? 絶対だな? アデカ王がこの町に来ても、気まずいからって、逃げだしたりするなよ?」


「逃げないよ。っていうか、どうしてアデカ王がいらっしゃることを知ってるの?」

「どうしてって、国王が他国を訪れるときは、相手の国に一報入れるだろう、ふつう」


 あ、とアルカは間抜けな声を漏らした。いわれてみれば、当たり前のことだ。


「本当は都でお迎えする予定だったんだが。銀竜の呼び出しがあるせいで、できなかったんだ」


 聞けばアデカ王もアンカラに用があるということだったので、二人はアンカラで落ち合うことにしたらしい。


「アデカ王が、探し人がアンカラにいるというから、いったい誰なのかとふしぎだったんだが。アルカに再会して、すぐ納得した。アルカと、それにハルミットをお探しだったんだな」


「すごいね。シグとおじいさまと、それに私とイーダッドおじ様と、四人がここにそろうなんて」

「たしかに。できすぎたぐらいの偶然だ」


「銀竜様のお導きかな?」

「してやられたみたいで、腹立つな」


 シグラッドはむっとしていたが、再会を恨んでいなかった。抱きあげる姿勢を少し変え、アルカを強く抱きしめる。


「アデカ王とお会いしたら、都に帰るつもりなんだ。一緒に帰ろう」

「二度と姿を見せないことが離婚の条件だって、いっていたのに。私のこと、顔も見たくないくらい嫌いになったんじゃなかったの?」

「それこそあのクソババアと同じ心境」


 シグラッドがババア様と呼ぶのは何人もいるが、この場合のババア様はヴォーダン夫人のことだろう。

 離れがたい気持ちの裏返し。


「顔見たくないくらい嫌いなのは、アルカの方じゃないのか?

 だれにも何も言わずにいなくなって。ティルギスにも帰らないで。黒トカゲと一緒だから万が一の事はないだろうけど、全然、何もわからないから心配してたんだからな。

 いくらなんでもひどい。お互いがお互いを嫌いにならないうちに別れたいっていうから、別れたのに。そこまで避けるなんて。子供がいるのを教えてもくれないなんて反則だ」


 今まで押し殺していたのだろう、シグラッドの三年分の恨み言が、怒涛のようにあふれ出て来た。


「ごめん、ごめんなさい。全部私が悪かったから。嫌ってそんなことしたわけじゃないよ。だから、ちょっと、下して」

「やだ」

「やだって。これじゃあ、ちゃんと謝れないよ」


 アルカは浮いている足をばたつかせた。

 しかし、シグラッドはぐいぐい頭を押し付けてくるばかりで、下してくれない。相当拗ねている。


「……じゃあ、この状態でするけど」


 アルカは仕方なく、届く範囲にある頭にキスをした。


「ごめんね。ずっと」

「……」


 ようやく地面に足がついた。

 シグラッドがずい、と顔を寄せてくる。


「もう一回。ちゃんと」


 アルカはちゃんと、仲直りに口にキスをした。

 真っ赤な髪が夕日に映えて、やっぱりきれいだと思った。


「よくわからなかったからもう一回」

「はい」

「もっと気持ちを込めて」

「…はい」

「再会した時の分も」

「……はい」

「離婚した時のお別れ分も。皇位奪還のお祝い分も。子供が生まれておめでたい時の分も。過去三年分の誕生日祝い分と、アルカの誕生日を祝う分と、そうだ、シグルドの誕生日を祝う分も」


 ここぞとばかりに突き付けられる要求を、アルカはすべて呑んだ。以前はとまどったであろう強引な要望が、うれしいわがままに感じる。これが恋かと、くすぐったくなった。


「許してくれる?」

「まだ。利息分があるから」

「利息?」

「十日で一割。三年分だから、だいぶあるな」

「……そんなものの貸し付け、聞いたことないけど」

「前例は、ないなら作る、が私の信条だ」


 アルカは、さすがにそろそろ笑顔がこわばってきた。


「ここだと人が見てるし」

「いいじゃないか、べつに。見られて減るものでもないし」

「恥ずかしいよ」

「じゃ、もっと奥に行くか?」


 雑木林の奥は人気がなく、何をしても気づかれなさそうだった。


「私は全然かまわないが」

「……。そ――そろそろ日暮れだから、帰ろう」


 アルカはくるりと身をひるがえした。

 劣等生にこの先の課外授業はキビしすぎた。


「返済」

「分割払いで!」

「百年の分割払いなら許す」

「一生終わらないよ!?」


 アルカは屋台にカップを返し、早足に歩き出す。

 シグラッドも屋台にカップを返し、早足に歩き出す。


「もっと誠意を見せろ!」

「次の課外授業で見せるから!」

「だから課外授業ってなんだ!」

「どうせ私は一生、頓珍漢で意気地なしで才能のない劣等生だよ!」

「こら、逃げるなー!」


 アルカが走り出したので、シグラッドも走り出す。


「相変わらずで」


 石垣に座っていた踊り子が、歌を止めて苦笑した。


 ――良き出会いだけがさだめでないから


 銀髪の踊り子の歌声が、風に乗って、二人の後を追った。


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