第一話 最弱職の式神使い
初のダンジョン物です。
土曜日 20時、21時、22時
日曜日 12時、20時、21時、22時
月曜日 19時、20時、21時
連投予定です。よろしくお願いします。
「天地の理に則り、我が霊力をもって汝を結ぶ。契約を受けよ。──我が式となれ」
──来い、風神雷神。
庭に描かれた召喚陣が光を帯びていく。
空が暗くなり、雷鳴が大地を震わせる。
肌を突き刺す静電気が、俺の黒髪を逆立てた。
突風が吹き荒れ、召喚陣が鋭い閃光を放った瞬間──
まるで天が認めたかのように、無数の稲妻が暗雲を裂き、爆音と共に落雷が陣に落ちた。
「呼んだ?」
「来てやったわよ」
突然、場に似合わない楽しげな声が聞こえた。
稲妻が落ちた後の陣の中心には、デザイン違いの巫女服をたなびかせた二人の少女が立っていた。
「俺と契約しろ、風神、雷神」
「しょうがないな? 交渉通りの報酬──ちゃんと払えるんだよね?」
こてんと首を傾げた雷神の金髪がさらりと頬を撫でる。丈の短い巫女服が防風にふわりと舞った。
「契約不履行になったら……あなたの霊力全部貰うから」
長い黒髪を風になびかせた風神が、静かな眼差しで俺を見据える。彼女の意志に呼応するように、長い巫女服の裾がパタパタと揺れた。
その瞳の奥には、どこか愉しむような光が宿っていた。
「契約は成立した。今日からお前たちの名は"風華"と"雷華"だ──」
二人の身体が光を帯びていく。
世界最弱職と呼ばれた式神使いが、一気に頂へ駆け上がった瞬間だった。
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ダンジョンが現れて二十年。
今日は、高校で職業の判定試験が行われる日だ。
「なんで高校卒業してからじゃないと潜れないんだよ」
「そうやって突撃して死ぬ馬鹿が多いからでしょ」
「そうだけどさぁ」
「高校で適性検査受けられるだけマシだろ?並ばなくていいんだから」
クラスメイトの浮足立った声が聞こえてくる中、俺はひっそりと列に並んでいた。
少しずつ列が進み、「次、安倍 蒼真さん」と俺の名前が呼ばれる。
「おい、安倍だ。あいつは絶対"式神使い"だぞ?かっわいそー」
「何のために判定検査受けにきてんだよ、あいつ」
俺の背後からくすくすとした嘲笑が聞こえた。
俺の家は、代々式神を使役し、妖を祓ってきた旧家だ。
ダンジョン出現当初──まだ職業判定すら存在しなかった時代、俺の一族は誰よりも早く迷宮へ足を踏み入れ、その探索に大きく貢献したことで名を馳せた。
ところが、職業判定が始まると風向きは一変した。
旧家の者を除く式神使いたちは、なぜか紙一枚しか式神を使役できず、その評判は急速に落ちていった。
それ以来、式神使いは"世界最弱職"の外れ職として蔑まれるようになった。
学校の話題は、いつだってダンジョンだ。
その中で最弱職になることが決まっている俺は、当然のようにカーストの最下層だった。
運動が出来ても、勉強ができても関係ない。
「どうせ将来は落ちこぼれでしょ?」
そんな言葉を浴びせられ続けてきた。
目の前で光り輝く判定石にゆっくり手を伸ばす。触れた瞬間、掌から温かな力が流れ込み、全身を一気に駆け巡った。
"式神使い"
浮き出てきた文字にどっと周りから笑いが起きた。
だけど、俺はずっとこの日を待っていた。式神使いとして成り上がるための、その第一歩を踏み出す日を。
──式神使いが最弱じゃないってこと、分からせてやるよ。
俺は軽い足取りで踵を返し、嘲笑を向けてくる同級生たちに無言で背を向けた。
こうして、世界最弱職と笑われ続けた俺の高校生活は幕を閉じた。
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皇居ダンジョン──日本で最初に出現したダンジョンに俺は足を踏み入れた。
ピトンと天井から水が落ちる音が響く。薄暗い洞窟の壁には、所々に松明が灯り、薄暗い空間を作り出していた。
「雷華、風華、出てこい」
俺がブレスレットに手をかざすと、黄色と緑の光が勢いよく飛び出してくる。
「お呼びー? 蒼真?」
「……やっとダンジョン?」
雷華が身体を伸ばし、手をぽきぽきと鳴らしている。
「暴れるぞー!」
「怪我しないでね、風華」
駆け出していく雷華を、風華がゆっくりとした足取りで追いかける。その頼もしい双子の背中を俺も追いかけた。
少し奥へ進むと、バタバタと騒がしい足音が洞窟の奥から響いてきた。
「グギャギャ!」
「ぐぎゃ! ぐぎゃ!」
三体のゴブリンがダラダラと涎を垂らし、棍棒を振り回しながらこちらに向かって走ってくる。その目は俺を獲物としか見ていない。
──やばい、殺される。
覚悟はしていても、初めて実感する命の奪い合いに、膝がガタガタと笑った。だが、ここで挫けるわけにはいかない。
俺は自分に喝を入れ、腹の底から声を張った。
「雷華! 風華!」
式神の名を呼ぶと、一迅の風が通り抜けていった。
──ビュンッ、ドガーン
風の刃が空間を引き裂き、暗い洞窟に稲妻が走る。
ゴブリンの首が涎を撒き散らしながら宙を舞う。焼け焦げた臭いを残し、その身体は力なく崩れ落ちた。
双子の風神と雷神の圧倒的な神威の前では、ゴブリンはなす術すらない。ただの蹂躙だった。
「これで最弱だって?」
世間との評価の差に呆れていると、雷華が俺を振り向いた。得意げにニコッと笑う。
「蒼真、倒したよっ!」
楽しそうに笑う雷華に対し、風華は少しむくれている。
「最悪……裾、汚れた」
雷華と並んだ長い黒髪の少女──風華が小さくため息をつく。巫女服の裾が泥で汚れてしまったらしい。視線を落とし、わずかに眉を寄せていた。
「だから裾を私みたいに短くすればいいって言ってるのに!」
「長いのが好きだから」
雷華が自分の巫女服の裾をヒラリと上げた。真っ白な太腿が飛び込んできて、なんとなくいけないものを見てしまった気分になる。
誤魔化すように、「帰ったら洗うか?」と尋ねると、「いい。これで綺麗になるから」と言って風華は裾を手でなぞった。
手が離れた服は、シミひとつ残っていない。
「ならいいじゃん」
「よくない。気分的にやだ」
「そうですか」
双子の風神雷神の圧倒的な力に、俺は完全に油断した──その瞬間だった。
──シュンッ
何かが俺の髪先を掠り、黒髪がパサりと散った。
「なっ!」
ひゅっと息を呑む。
ここはダンジョンだ。何やってんだ俺。
視線を奥に向けると、ニヤニヤしながらこちらに矢を構えているゴブリンアーチャーと目があった。
ゴブリンアーチャーは風華や雷華には見向きもせず、俺に狙いを定めている。新たに放った矢が真っ直ぐに俺に向かって飛んでくる。
「ヤバいっ」
俺は思わず固く目を閉じ、反射で手を前に突き出した。
霊力を練って咄嗟に腕に纏わせる。
──バキッ
俺の腕に当たった矢は、跡形もなく霧散した。
「危ねぇー」
俺を狙っていたゴブリンアーチャーは、雷華の雷に撃たれて絶命する。
「気ぃ抜きすぎだよ、蒼真」
「流石にちょっと緊張してたんだって。本気の殺意を向けられたことなんて初めてだったし」
俺のことを獲物としか見ていないゴブリンたちの目を思い出す。ぞわりと鳥肌がたった。
「余裕そうなこと言っといて、全然じゃん」
ケラケラと笑いながら奥に進んでいく雷華の背中を睨みながら、ゴブリンの魔石をポシェットに放り込む。
ゴブリンの身体から浮かび上がった淡い光が俺の手のひらへ吸い込まれた瞬間、身体がすっと軽くなった。
ダンジョンで魔物を倒すことで得られる恩恵──その効果を、俺は初めて実感する。
話には聞いていたが、想像以上だった。全身が軽くなり、力が内側から湧き上がってくるような感覚に思わず息を呑む。
「結構変わるもんだな……」
普通の初心者は、ゴブリン一体殺すために命懸けで挑み、大半が挫折するらしい。
その点、俺は式神たちがサクサクと殺してくれ、俺は順調に恩恵を得ることができる。
「やっぱり、間違ってなかった」
ぽつりと漏れた言葉に、雷華が首を傾げた。
「何が?」
「式神使いは最弱職なんかじゃない。最強職ってことだよ」
そう言って笑ってみたものの、身体の芯まで染みついた嘲笑が、ふいに耳の奥で蘇る。
高校の教室で浴びせられ続けた、くすくすとした笑い声。
俺はその記憶を振り払うように頭を振った。
もう、俺は一人じゃない。
俺には、この二人がいる。
身体に霊力を纏わせると、俺は二人へ向かって笑ってみせた。
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