第七章『プラチナ枠1000万の超物流網と、魔王軍のヘッドハンティング』
「1000万の暴力と、ドワーフの天才発明家。~現代建材がファンタジーを舗装する~」
「……枠が1000万。これなら、世界地図を書き換えられるな」
プラチナに輝く『エンジェルすまーとふぉん』の画面を見つめながら、俺は悪魔のように口角を吊り上げた。
ルチアナの横暴により借金は580万に膨れ上がったが、そんな絶望はすでに消え去っている。
かつては10万円の枠で「カップ麺」や「ライター」をチマチマと仕入れる自転車操業だった。だが、1000万の枠ともなれば話は別だ。このファンタジー世界に、現代日本の『最先端テクノロジー(重工業)』をダイレクトに持ち込めるのだから。
俺は、シェアハウスの巨大ダイニングルームに、ポポロ村の幹部たちを招集した。
「リバロン。三国間オークションで契約した『ポポロ・ランチ(おでん)』の納品状況はどうなってる?」
俺が尋ねると、完璧な執事服に身を包んだリバロンが、スッと分厚い資料を差し出した。
「生産ラインは、リーザ様の歌バフにより1日1万食のペースで順調に稼働しております。……しかし、問題は『物流』です」
リバロンが眼鏡を光らせ、広大なマンルシア大陸の地図を広げた。
「ポポロ村からルナミス帝国、レオンハート、アバロンへの道は、未舗装の悪路や魔獣の巣食う荒野ばかり。馬車の車輪は頻繁に壊れ、雨が降れば泥濘に足を取られます。このままでは、物流網が完全にパンクします」
「うぅ……私の歌で馬車のお馬さんたちを応援しても、道がガタガタじゃどうしようもないわ……」
リーザが朝食のパンケーキをモグモグと頬張りながら同意する。
「なら、話は簡単だ」
俺は立ち上がり、全員の顔を見渡した。
「道が悪いなら、直すんじゃない。俺たちの手で『新しい道』を作る。ポポロ村から三国へ直通する、絶対に車輪が壊れない、全天候型の『超物流網』をな」
「み、道を作るぅ!? ボス、そんなの国家の一大プロジェクトですよ! どんだけ時間がかかると思ってるんですか!」
リリスが目を丸くして叫んだ。
「何年もかけない。……この『プラチナ枠』の暴力で、一瞬で終わらせる」
俺はスマホの検索窓に、これまで入力したこともないような単語を打ち込んでいった。
検索:『業務用・超速乾アスファルト混合物(1トンフレコンバッグ)× 100袋』。
検索:『最新式・レーザー測量器&GPSドローンセット』。
検索:『大型重機アタッチメント(ロードローラー用数トン鉄輪、ブルドーザー用ブレード)』。
ポチッとな。
【お支払い合計:3,850,000円】
【利用可能額(残枠):10,000,000円 → 6,150,000円】
直後。
ポポロ村の広場の上空に、巨大な魔法陣が幾重にも展開された。
ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォッ!!!
ズッドォォォォォォンッ!!!
空から降ってきたのは、小さなAmazonの段ボールなどではない。
家よりも巨大な『輸送用コンテナ』の群れだった。大地が激しく揺れ、土煙が村を覆い尽くす。
「ひぃぃぃぃぃっ!? な、なんですかあの巨大な鉄の箱はぁぁぁ!」
「ボス! 敵襲!? アバロン魔皇国から隕石が飛んできたの!?」
リリスが腰を抜かし、ダイヤが慌てて天魔竜聖剣を構える。
「落ち着け、俺の『仕入れ』だ。……おーい、キュルリン! 出番だぞ!」
俺がコンテナに向かって声をかけると、土煙の中から一人の小さな影が飛び出してきた。
「ヒャッハー! 待ちわびたわよカナタ! これが異界の超技術ね!!」
現れたのは、黒いフリフリのゴスロリドレスの上に、油まみれの『ガテン系作業着』を着込んだ、奇抜なファッションのドワーフの少女だった。
ドンガン地下帝国から横領罪で追放された天才発明家にして、現在はポポロ村の内務官(裏の密輸管理担当)を務める、キュルリン(100歳・心は乙女)である。
「アタイの設計図通りにアタッチメントを発注してくれたわね! いやん、この鉄輪の重圧感……しゅてきぃ♡ ドワーフの血が騒ぐわ!」
キュルリンは頬を赤らめながら、数トンあるロードローラーの鉄輪にスリスリと頬擦りをしている。
「キュルリン、こいつらを村の『規格外の連中』に装備させろ。今日から突貫工事だ」
「任せなさい! アタイの魔導工学と異界のパーツを融合させて、最強の土木兵器にしてあげるわ!」
カンッ! キンッ! ガガガガガッ!
キュルリンが巨大なハンマーを振るうと、現代の重機パーツとドワーフの魔導技術が一瞬にして組み合わされていく。
「よし、お前ら! 準備はいいな!」
俺は、ヘルメットを被った超人たちに号令をかけた。
「ダイヤ! お前は先頭を走って、邪魔な岩山や魔獣の群れを聖剣で『整地(物理)』しろ! 山があれば切り拓き、谷があれば木を切り倒して埋めろ!」
「ええっ、国宝級の天魔竜聖剣で土木工事!? ……まぁ、お風呂付きのシェアハウスのためなら仕方ないわね! 【月影流奥義・大地の散髪(整地乱れ斬り)】!!」
ズバァァァンッ!!
ダイヤの放った強烈な斬撃が、村の前の小高い丘をケーキのように真っ二つに切り開き、一瞬で平坦な道を作り出した。
「キュララ! ドローンを飛ばして上空からレーザー測量だ!」
「はーい! 『天使の土木作業ドローン配信』スタートしまーす! みんなスパチャよろしくねっ☆」
「イグニス! お前はこの『キュルリン特製・魔導ロードローラー(手押し式)』を押せ! 俺たちが撒いたアスファルトの上を走りながら、火炎ブレスで適温に加熱して一瞬で定着させるんだ!」
「オラァァァァッ! 俺様は竜人だぜ! 数トンの鉄輪を押しながらブレスを吐くなんて、極上の筋トレじゃねえか! ギャオォォォォッ!!」
イグニスが凄まじい闘気をみなぎらせ、猛烈な勢いで数トンの鉄輪を押して走る。
現代の『超速乾アスファルト』と、竜人の『大火炎&超絶パワー』が完全に融合した結果、恐ろしい速度で真っ黒な一本道が荒野に伸びていった。
「はっはっは! 素晴らしい! これぞ資本主義と暴力の完璧な融合! 究極のインフラ整備です!」
リバロンが、スコップでアスファルトを均しながら、狂気じみた笑い声を上げている。
常識外れの突貫工事。
何千人もの土木ギルドが数年かけて行うはずの国家プロジェクトが、たった数時間でルナミス帝国との国境付近まで到達してしまった。
「よし、このペースなら今日中にルナミス側の主要道路と接続できるぞ!」
俺がガッツポーズをした、その時だった。
「……ボス。大変です」
先行して整地を行っていたダイヤが、血相を変えて戻ってきた。
「どうした? Aランクの魔獣でも出たか?」
「いえ、魔獣なら私が一秒でミンチにして路盤材に混ぜてます。……問題は『橋』です。国境にある巨大な石橋が崩落していて……その真ん中で、ヤバい奴が『事務作業』をしてるんです!」
「……事務作業?」
俺とリバロンが顔を見合わせ、現場へと急行する。
そこには、崩れ落ちた巨大な石橋の上で、身の丈ほどある『獄炎の大剣』を背負った、筋骨隆々の赤髪の男(魔族)がいた。
彼は、その恐ろしい大剣を定規代わりに使いながら、ブツブツと何やら紙の書類に書き込んでいた。
「……くそっ。この石材の修繕費だけで金貨30枚は飛ぶ。我が魔王軍の今月のインフラ予算は、残り『1万円(銀貨10枚)』しかないというのに……どうやって稟議を通せばいいんだ……」
男の背中からは、圧倒的な魔力とともに、現代の中間管理職(社畜)のような『途方もない哀愁』が漂っていた。
魔王軍四天王の一角、炎魔将軍グレン。
プラチナ枠1000万の『ホワイト企業』と、予算100万の『超ブラック企業(魔王軍)』の、数奇な出会いの瞬間だった。




