EP 10
「女神のプラチナカードと、終わらない借金地獄。〜枠が1000万なら、世界が買える〜」
「……借金、500万追加……だと?」
静まり返ったポポロ村の夜空に、俺の呟きが虚しく吸い込まれていく。
呆然とする俺の横で、リリスが『エンジェルすまーとふぉん』の画面を恐る恐る覗き込んだ。
【現在の利用残高:5,856,578円】
【利用可能額(残枠):10,000,000円】
【次回お支払い日まで:あと8日(※最低ご返済額:500,000円)】
「ひ、ひぃぃぃぃっ! 残高がとんでもないことになってますぅ! しかも毎月の最低返済額が50万!? 無理です、カニ工船どころか、マグマの中で一生鉄鉱石を掘る労働行きですぅぅ!」
リリスが白目を剥いて泡を吹き、その場にぶっ倒れた。
無理もない。やっとルチアナの借金90万を返せるだけの現地通貨(金貨)を手に入れたと思ったら、勝手に『プラチナカード』に切り替えられ、初期手数料という名のぼったくりで借金が580万に跳ね上がったのだ。
普通の神経なら、ここで絶望して首を吊るだろう。
だが。
俺の目は、借金の額ではなく、その下の『数字』に釘付けになっていた。
「……枠が、1000万」
これまでの俺は、10万円というちっぽけな枠の中で、100円の塩胡椒やライターをやり繰りする自転車操業を強いられていた。
だが、1000万の枠があればどうだ?
大型の重機、ハイテク医療機器、さらにはプレハブの工場群すら『ポチる』ことができる。
このファンタジー世界において、現代の最先端テクノロジーを1000万円分も一気に持ち込めるということは……もはや『国家のインフラそのものを支配できる』に等しい。
「……くくっ。上等だ、ルチアナ」
俺は、夜空の二つの月を見上げて、悪魔のように口角を吊り上げた。
「借金500万がなんだ。この1000万の枠をフル活用して……この世界の経済、俺の財布の中に入れてやる」
◇
翌朝。
昨夜の戦闘(村長の暴走)で大穴が空いたシェアハウスの1階・巨大ダイニングルーム。
朝日がこれ以上ないほどダイレクトに差し込むその部屋で、スライディング土下座をしている人物がいた。
「本当に、ほんっとーーにっ、申し訳ありませんでしたぁぁぁ!!!」
満月の狂乱から覚め、記憶を取り戻した村長・キャルルだった。
ウサギの耳をペタンと地面にこすりつけ、涙目で震えている。
「私、満月を見ると血が騒いじゃって……せっかくの素敵なお家を、私が壊すなんて……うぅっ」
「頭を上げろ、キャルル。……まぁ、あれだけの金貨を稼ぐきっかけを作ってくれたのはあんたの村だしな。修繕費は経費で落とすさ」
「カナタさん……! ありがとうございます、一生ついていきます!」
キャルルが感動の涙を流す。
その後ろで、リバロンが「村長、経営者に一生を誓うのは労働基準法的に危険です」と冷静にツッコミを入れている。
「さて、腹も減ったし、朝飯にするか」
俺は、真新しいプラチナカードの『枠』を使って、ドカッと食材を取り寄せた。
極厚のベーコン。新鮮な卵。そして現代の叡智『ホットケーキミックス』に、メープルシロップ。
ダイヤが天魔竜聖剣で薪を割り、イグニスが絶妙な火加減でフライパンを温める。そこにルナが魔法で出した果実を添え、リーザが『美味しくなぁれ♪』の歌バフをかける。
ものの数分で、異世界最高峰の『現代風パンケーキ・モーニングプレート』が、巨大な円卓の上に並べられた。
「いただきまーす!!」
「んんんんまぁぁぁい! このフワフワの円盤、甘くて最高ですぅ!」
「ベーコンの塩気とシロップの甘さが、無限ループを誘発するわ!」
「朝からこんな贅沢……俺様、もう日雇いには戻れねえ!」
「朝食配信、同接10万人突破でーす☆ みんなスパチャありがとー!」
ポンコツ美少女たちと、竜人が、顔をシロップだらけにしながらパンケーキを頬張る。
その光景を見ながら、俺は淹れたてのコーヒーを啜った。
「……リバロン。今日の午後にでも、ニャングルを呼んでくれ」
「次の『手』ですか、カナタ様」
「ああ。三大国から巻き上げた金貨45万枚と、この『1000万の枠』がある。次はチマチマしたレーション売りじゃない。……ポポロ村をハブ(中心)にして、大陸を縦断する『超物流網』を構築する」
俺の言葉に、リバロンが眼鏡をキラリと光らせた。
「承知いたしました。……三国は、すでに我々に首根っこを掴まれています。搾れるだけ搾り取りましょう」
完璧な執事が、極悪な経営コンサルタントの笑みを浮かべる。
ド田舎の廃屋から始まった、俺の借金返済スローライフ。
理不尽な女神のせいで借金は580万に増えたが、手札は最強にアップデートされた。
腹を空かせた居候たち。
狂暴だが頼りになる村長と、有能すぎる執事。
そして、俺の『現代知識(プラチナ枠)』。
「さあ、今日も稼ぐぞ、お前ら!」
「「「おーっ!!」」」
異世界最強の資本主義チート(錬金術)が、本格的に大陸全土を飲み込もうとしていた。




