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EP 10

「枠が足りない!? 狂気の『クレカ自転車操業(ロジハラ錬金術)』」

「ルナミス帝国軍から、100円ライター1万個の大量発注や。……金はいくらでも出す言うとる」

 ニャングルの持ってきた特大のビジネスチャンスに、俺の頭脳は最高速でソロバンを弾いていた。

 100円ライターは、ネット通販のまとめ買いで10本500円(1本あたり50円)。

 1万個用意するには、仕入れ値だけで『50万円』が必要になる。

 しかし、現在の『ルチアナ・カード』の利用可能額(残枠)は【140,622円】しかない。完全に枠不足だ。

「……にーちゃん、なんか難しい顔しとるな。うちの商会が前金を出してもええんやで?」

 ニャングルが煙管を吹かしながら提案してくるが、俺は首を振った。

「ダメだ。俺の『仕入れルート(ネット通販)』は、指定の口座クレカからしか引き落とせない。外部からの現金は直接使えないんだ」

「なんや、融通の利かん問屋やな。ほな、1万個の納品は無理か?」

「いや、やる。……『分割即日納品』と『繰り上げ返済』のコンボで、無理やり枠をこじ開ける」

 俺はリリスからスマホを奪い取り、凄まじい速度でフリック入力を開始した。

「リリス、今から俺は、この残枠14万を限界まで使い切る。お前のスマホが警告音でうるさくなるが、絶対にビビるなよ」

「ひゃい!? ま、また借金生活に戻るんですかぁ!?」

 俺はカートに「100円ライター(10本セット・500円)」を、現在の枠で買える限界値の【2,800セット】、つまりライター『2,800個』分をぶち込んだ。合計140,000円。

【お支払い合計:140,000円】

【利用可能額(残枠):140,622円 → 622円】

 ポチッとな。

『ピピピピッ! ご利用残高が限度額に到達しそうです!』

 リリスのスマホが悲鳴のような警告音を上げる。

 直後、ボロ家の天井付近の空間が歪み、俺の頭上に「Amazon」のロゴが入った特大の段ボール箱が数個、ドカドカッと音を立てて降ってきた。

「痛っ! ちょっと、重いですぅ!」

「文句を言うな。……ニャングル、まずはこの『2,800個』だ」

 俺は段ボールをニャングルの前に押し出した。

「ルナミス帝国軍への売値は、1個あたり『銀貨1枚(約1,000円)』だ。軍の経費なら痛くも痒くもないハシタ金だろ」

「銀貨1枚!? 仕入れ値がいくらかは知らんが、えげつないボロ儲けやな……! ほんで、残りの7,200個はどうするんや?」

「お前がこの2,800個をルナミスの駐屯地に納品して、売上金を受け取ってきた瞬間に……『次の2,800個』が現れる」

「は……?」

 ニャングルが呆気にとられる。

「いいから、この街で一番足の速い馬車を飛ばせ! タイムアタックだ!」

「お、おう! まかしとき!」

 商人の血が騒いだのか、ニャングルは部下を呼び寄せ、段ボールを装甲馬車に積み込むと、猛スピードで国境の駐屯地へと爆走していった。

          ◇

 数時間後。

「持ってきたでぇぇぇっ!!」

 砂埃を上げて戻ってきたニャングルが、ドサァッ! と麻袋を床に叩きつけた。

 ライター2,800個の売上。つまり、銀貨2,800枚(金貨280枚=約280万円)だ。

「よし! リリス、スマホだ!」

「ひゃいっ!」

 俺は利益の折半だのなんだのという計算は後回しにし、まずは仕入れ値にかかった「14万円分(金貨14枚)」を引っ掴んで、スマホの入金スロットにねじ込んだ。

【140,000円の繰り上げ返済を確認しました】

【利用可能額(残枠):622円 → 140,622円】

 シャラーン! と心地よい電子音が鳴り、枠が完全復活する。

 クレジットカード特有の「使った分をすぐ返して枠を空ける」という、究極の自転車操業だ。

「枠が空いたぞ! 追加の2,800個、発注ポチッ!!」

 ドサドサドサッ!!

 再び空から特大の段ボールが降ってくる。

「ひぃぃっ!? に、にーちゃん、なんやこれ……魔法陣もなしに、金を入れた瞬間に物が出てきよったで!?」

 ニャングルが目をひん剥いて驚愕する。

「驚いてる暇はないぞ、ニャングル! 次の配達だ、走れ!!」

「わ、わかった! ロックバイソンに鞭打ってでも往復したるわ!!」

 それから、丸一日。

 俺とニャングルは、狂気の「納品マラソン」を敢行した。

 納品して金をもらう。

 金を入れて枠を空ける。

 枠を使って物を出す。

 ルナミス帝国軍の兵站将校は、「ゴルド商会の凄腕商人が、たった一日で見たこともない魔法の着火器を1万個も調達してきた」と大パニックに陥りながらも、嬉し泣きして金を払ったらしい。

          ◇

 そして、深夜。

「……終わった……。もう、一歩も動けん……」

 ニャングルがボロ家の床に大の字になって倒れ込んでいる。

「お疲れさん。最高の手際だったぜ」

 俺は、床に山積みになった金貨と銀貨の山を見下ろし、口角を吊り上げた。

 1万個のライターの売上。諸経費とニャングルへの折半分を引いても、俺たちの手元に残った純利益は……金貨で『約120枚(120万円相当)』。

 たった一日で、ルチアナの借金90万を一括で返済して、お釣りが来る金額を稼ぎ出してしまったのだ。

「ぼ、ボスぅ……これ、夢じゃないですよね? 私たち、大金持ちですぅぅ!」

 リリスが金貨の山にスリスリと頬擦りをしている。

「ああ、借金はいつでも完済できる。だが……俺はあえて、まだ全額は返さない」

「えっ? なんでですか?」

「全額返したら、このチート級の『仕入れカード』を取り上げられるかもしれないからな。毎月最低額だけ払って、残りの金は『事業投資』に回す」

 俺は窓から、月明かりに照らされるポポロ村ののどかな風景を見下ろした。

「今はまだ、隙間風の吹くボロ家だ。だがな、リリス、ニャングル。……俺たちはここから、このド田舎の村を、世界経済の中心地シリコンバレーに作り変えてやる」

 現代の知恵と、悪魔的な商魂。

 俺たちの「借金返済スローライフ」は、早くも「異世界経済の完全支配」へとその牙を剥き始めていた。

【第五章・借金90万とポンコツ女神のポポロ村スローライフ編 〜完〜】

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