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EP 2

「スパチャ(投げ銭)で殴る、簡単なお仕事」

「な、なんだ貴様……! 騎士団を敵に回す気か!?」

 騎士団の隊長が剣を抜き、殺気を放つ。

 S級相当の実力者だ。まともに戦えば、レベル1の俺なんて瞬殺される。

 だが、俺は慌てずカメラ(虚空)を指差した。

「敵に回す? 違うな。俺が敵に回すのはお前らだけじゃない」

 俺は視界に流れるコメント欄を凝視する。

『え、これマジ映像?』

『合成だろw』

『場所どこ? 裏通りのあそこか?』

『おい、あの騎士……第三部隊長のガストンじゃね?』

『うわ、ガストンだ! あいつ賄賂疑惑あったけどマジだったのかよ』

 ――食いつきは上々だ。

 俺はニヤリと笑い、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

 さっき『遠隔視』で商人の懐からスリ取っておいた「裏帳簿」だ。

「おい視聴者ども、よく見ろ。これが『ガストン隊長』への賄賂の記録と、違法奴隷のリストだ。先月だけで金貨300枚? 税金泥棒が過ぎるんじゃねえか?」

 カメラのズーム機能で、帳簿の数字を全世界に晒す。

『うわああああああああああ』

『ガチじゃねーか!!』

『最低だな騎士団』

『拡散しろ拡散しろ!』

『炎上確定演出きたこれwww』

 コメントの流れる速度が倍になった。

 同接数が跳ね上がる。【25,800人】。

「き、貴様ぁぁぁ!! デタラメを!!」

 顔を真っ赤にしたガストンが、踏み込んでくる。

 速い。殺す気だ。

 だが、その剣が俺の首を刎ねる直前――俺の脳内に無機質な声(システム音)が響いた。

『ユニークスキル【扇動者インフルエンサー】が発動しました』

『現在の視聴者熱狂度ヒートを魔力に変換します』

『――初回ボーナス:魔力出力100倍』

 全身に、熱い力が奔流となって駆け巡る。

 これが、俺の新しい力か。

「――遅いんだよ、公務員」

 俺は半歩だけ体をずらす。

 スローモーションに見える剣劇を紙一重でかわし、ガストンの横っ面を裏拳で殴りつけた。

 ドゴォォォォン!!

 鈍い音と共に、大の大人がピンボールのように吹っ飛び、商会の壁にめり込んだ。

「……は?」

 腰を抜かした商人が、口をあんぐりと開けている。

 俺自身も驚いた。ただの裏拳が、オーガの一撃みたいな威力になってやがる。

 コメント欄が爆発する。

『ファッ!?』

『つええええええええええ』

『あいつ魔法使いじゃなかったのかよw』

『スカッとした!! もっとやれ!!』

『ナイス拳! スパチャ投げるわ!』

【システム:視聴者「名無しの冒険者」より、1,000エールの投げスーパーチャットがありました】

【システム:視聴者「正義の味方(仮)」より、10,000エールの投げ銭がありました】

 視界の端に、金貨のアイコンが雨のように降り注ぐ。

 チャリン、チャリンという音が止まらない。

 俺のインベントリに、とんでもない額の金が自動で振り込まれていく。

(……なるほど。視聴者の「興奮」が魔力になり、「投げ銭」がそのまま俺の所持金になるのか)

 最強の換金システムだ。

 俺は壁に埋まったガストンを見下ろし、カメラに向かって肩をすくめた。

「見たか? これが『民意の鉄拳』だ。……さて」

 俺は震える商人の元へ歩み寄る。

「ひっ、ひぃぃ! 助けてくれ! 金ならやる! いくらだ!? 倍払う!!」

「金? ああ、もらうよ。全部な」

 俺は商人の胸ぐらを掴み上げ、カメラの前に突き出した。

「ただし、お前の命(社会的地位)はここで終わりだ。顔も、名前も、やった悪事も全部アーカイブに残る。明日からお前は、この街でパン一つ買えなくなるぞ」

「や、やめろ……それだけは……!」

 商人が涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして命乞いをする。

 その無様な姿が、最高画質で配信される。

『ざまぁwwwww』

『飯がうまい』

『この配信者、容赦ねえなw 推せるわ』

『チャンネル登録した』

 俺は商人をゴミのように放り投げると、店の奥にある金庫へ向かった。

 鍵? そんなものは必要ない。

 溢れかえる魔力スパチャで強化された脚で、金庫の扉を蹴り飛ばす。

 中には、山のような金貨と宝石。

 そして――

「……あ」

 檻の中にいた、獣人の少女と目が合った。

 泥だらけで、怯えた瞳。

 俺は一瞬だけ配信者エンターテイナーの顔を崩し、その檻を素手で引きちぎった。

「立てるか?」

 少女は震えながら頷く。

 俺は金庫の中身をすべて収納魔法インベントリに放り込むと、少女に手を差し伸べた。

「行くぞ。ここにいたら、お前も『証拠品』として処分される」

「……どこへ?」

「さあな。少なくとも、このクソみたいな檻よりはマシな場所だ」

 少女がおずおずと、俺の手を握る。

 小さくて、冷たい手だった。

 遠くから、衛兵の笛の音が聞こえてくる。

 そろそろ潮時だ。

「よし、撤収だ! 視聴者諸君、今日の配信はここまで。……ああ、忘れてた」

 俺は最後に、カメラに向かって最高の「悪役ヴィラン」の笑みを向けた。

「俺の名前は『アノニマス』。また次の『炎上』で会おうぜ」

 配信停止オフ

 静寂が戻った路地裏を、俺は少女の手を引いて駆け抜けた。

 心臓が早鐘を打っている。恐怖じゃない。興奮だ。

 ステータス画面を確認する。

 そこには、俺がS級パーティで5年かけても稼げなかった額の数字が輝いていた。

【獲得賞金:5,800,000エール】

【チャンネル登録者数:42,000人】

「……ははっ、ボロ儲けじゃねえか」

 雨上がりの夜空を見上げ、俺は嗤った。

 これならいける。

 俺を捨てた連中も、この腐った国も。全部、俺の掌の上で踊らせてやる。

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