EP 3
「アジトを要塞化して温泉を掘ったら、S級の防衛拠点が完成した件」
ジゼルが仲間に加わってから丸二日。
俺たちのアジト『シャドウ・ハウス』は、外見こそ古い洋館のままだが、中身はとんでもない魔改造を施されていた。
「よし、テスト稼働クリア。外周防衛システム、オールグリーンだよボス」
モニター室で、ジゼルがドヤ顔でキーボードを叩く。
画面には、屋敷の周囲に設置された無数の防衛兵器が映し出されていた。
「ボクが組んだ『H&K』型・自動迎撃タレットだ。ショートストローク・ガスピストン機構を魔導で再現したから、作動不良の確率はゼロ。軍や法執行機関の特殊部隊が求める、実戦レベルの絶対的な信頼性を持たせたよ」
「……お前、本当にこの世界の住人か?」
俺は呆れながらも、そのオーパーツじみた完成度に感心した。
しかも屋敷の構造自体も、ジゼルの指示で基礎工事から徹底的に補強されている。一級建築士の審査があっても一発合格するレベルの堅牢な設計だ。これなら聖騎士団が軍隊規模で押し寄せてきても、指一本触れさせずにハチの巣にできる。
「で、ボス。頼まれてた『アレ』も終わったよ」
「おお、ついに地下水脈に当たったか」
俺はインベントリから大量のタオルを取り出した。
そう、スパチャで買った『超大型ボーリング・ゴーレム』に庭の地下を掘らせていたのだ。目的はもちろん――。
「リズ、マリア! 一番風呂の準備ができたぞ!」
◇
屋敷の裏手、ガラス張りのドーム内に作られた巨大な大浴場。
こんこんと湧き出るのは、魔力回復効果のある乳白色の天然温泉だ。
「わぁぁぁぁ! おっきいお風呂ですー!!」
リズが歓声を上げ、トップロープからのボディプレスの勢いで湯船にダイブした。
ザバァァァン!!
「ちょっ!? バカ犬、お湯が跳ねるでしょ!!」
「わふっ! ジゼルも早く入ってください! すっごく気持ちいいですよ!」
湯船の中で犬掻きをするリズ(銀髪・抜群のプロポーション)と、脱衣所で文句を言いながらもタオルで隠して入ってくるジゼル(褐色肌・華奢なスレンダー)。
カメラを回せば一瞬で同接100万を超えそうな光景だが、さすがに身内の入浴シーンは配信しない。俺はそういうところの線引きはしっかりしているプロデューサーだ。
「……はぁぁ、生き返るぅ……。ゴミ山暮らしだと、お湯に浸かるなんて何年ぶりか……」
「ジゼル、背中流しますね!」
「あ、ストップ! 力加減! アンタの筋力だとボクの背骨が砕け……あだだだだっ!!」
風呂場から響く賑やかな声を聞きながら、俺はモニター室で一人、コーヒーを啜っていた。
幽霊メイドのマリアが、トレイに乗せた夕食を運んでくる。
『ご主人様、本日のサパーはわたくし特製の「カツカレー」でございます』
「おっ、いい匂いだ。スパイスの配合も完璧だな」
サクサクに揚がった分厚いカツに、濃厚なルゥ。湯上がりのリズが匂いを嗅ぎつけて、バスタオル一枚のまま飛んでくる光景が目に浮かぶ。
拠点が充実していくこの感覚、悪くない。
「マリア、飯を食ったら出陣の準備だ」
『かしこまりました。……教団への報復ですね?』
俺は頷き、メインモニターに視線を移した。
そこには、王都の中央広場で大規模な設営作業を進める『聖光教団』の姿が映っていた。
明日、教団はここで『聖女ルミアの大ミサ』を決行する。
難病の信者たちを集め、聖女の「奇跡」を見せつけて信仰心と莫大な寄付金を集める、教団最大の資金源だ。
「ジゼルに作らせた『仕掛け』の準備は?」
『すでに小型ドローンで、広場の地下とスピーカー群へのハッキングデバイス設置を完了しております』
マリアの報告に、俺は仮面の下でニヤリと笑った。
病気を治す奇跡。光の雨を降らせる神の力。
それらが全て、魔力増幅器を使った「違法なトリック」であり、信者の生命力を吸い取って発動しているペテンだとしたら?
「――楽しみだな。明日のライブ配信、全世界の信者がどんな顔をするか」
俺はカツカレーを一口放り込み、キーボードを叩いて明日の配信枠を作成した。
【タイトル:聖女様の奇跡(笑)のタネ明かししてみた 〜真実の暴露SP〜】
【待機人数:すでに300,000人突破】
さあ、反撃の狼煙を上げよう。
神様気取りの詐欺師たちに、俺たち(インターネット)の恐ろしさを教えてやる。




