79 女子会
何をするにもファンタジー水が要る訳だけど、そのファンタジー水を入れる水瓶を作って貰っている間は動けない。
なので、本日はリリーさんとプリシラさんと共に、私の部屋で女子会を開いている。
そろそろ気になる女性事情。
窓際のテーブルセットを奥へ移動させ、入口すぐにあった応接セットを軽々と持ち上げたリリーさんに窓際へと移動させて貰って、ソファーの配置をL字型にしてゆったり空間を確保。
お茶とクッキーも用意して、女子会の準備は万全だ。
因みに、今日も会いたいと魔王様に言われたのだけど、昼は女子会をする。と伝えると、魔王様が女子会とは何かと聞いてきたので、女同士でしか話せない事を女同士で話すんですよ。と答えると、とても真剣に頷いた魔王様はそれ以上を聞かなかった。
きっと破廉恥の領域だったんだろう。
そして今、部屋に集まった女性3人に囲まれる中、とても、とても恥ずかしいのだけれど、私がこの世界に着て来た、全力で洗濯した新品状態に近い向こうの世界の下着がある。
何だかんだでバタバタしていて話し合えなかったブラ。ようやくその第一歩を踏み出す時が来たのだ。
歳も歳だったので、下着はシンプルだけどしっかりとした、ちょっとお高めなやつを選ぶようにしていたので、構造や縫製的にはいいお手本になるだろうと思った訳だが、皆の目の前に出すと思った以上に恥ずかしい。
しかし、恥ずかしい私の前で、リリーさんのテンションは爆上がりだ。
「これが…凄いわ……考え尽くされた形、何よりこの構成力!何枚ものパーツを細かく組み上げて、沢山の機能を発揮させているのね!!」
リリーさんは瞳を潤ませながら、その頬をやんわり染めて、ブラを崇めるように掲げている。
やめて、下ろして。恥ずかしい。
「…つ…作れそうですか?」
「必ず作るわ!!お手本があるのだもの!作れない方がおかしいわ!!」
そう言って、テンションの高いリリーさんは、下着を横に鼻歌を歌いながら、ほとばしる創作意欲をデザイン画にしたためている。
そしてそんなブラへ向かっておもむろに手を伸ばしたプリシラさんが、ブラのタグを摘まんで陰の籠った笑顔で笑った。
「…ユリエも、実はあるよね……。ふふ…F70ね…………ふーん……」
え…。
「…プリシラさん…それ……よ…読めるんだ」
「…勇者がね。私に向かってAって言うから、私のランクはS+だって答えたら、物凄く笑われた事があるんだよね……」
「あ…ああぁ……」
ゆ…勇者先輩…なんて真似を…。
「ユリエ達が居た世界では、胸のサイズをランクにするんだよねぇ…」
「ら…ランクにしている訳では……」
やばい、怖い。こちらの世界の強さを示す記号。それを私達はアルファベットとして認識してるんだろうけど…こちらの世界では強さを示すそれ、アルファベットで示されるそれは、私達の認識の中では違う意味も籠る…。
勇者先輩マジセクハラ。駄目、そう言うの、絶対駄目ッ!
「何だっけ? AからBに向けて、サイズが上がるんだよね?ふふ、ユリエ、強さのランクはFだけど、胸の強さはFも、あるんだねぇ……」
「……ぷ…プリシラさん…そ、その…」
「けど。 そのサイズにSはない。 Sは違う。 Sは……「プリシラさんっ!!」
耐えられなかった。
とりあえずクッキーを献上した。
「…昔は、胸のサイズなんて気にしてなかったのに…」
そう悔しそうにクッキーの籠を抱えて食べだしたプリシラさんに、何とリリーさんが笑って禁忌の話題を続けてしまう。
「胸なんて大きくても邪魔なだけよ。戦う時に困るもの」
「……リリエラル。それは持つ者の意見」
「あ、でも女の子の大きい胸が好きな種族は多いわよねぇ。柔らかいの好きってよく聞くし、戦う時には小さい方が有利だけれど、求められるのは大きい胸って、困ったものよねぇ」
デザイン画を描く傍らに、ただ素直な感想を述べているだけのリリーさんの胸を、プリシラさんがバシッと叩いて、揺れているそのスイカの上でリリーさんが「くすぐったいわ」と言って笑っている。
そしてプリシラさんがまた盛大に舌打ちしている。
しかし、揺れ方…凄い……。大きな胸ってあんなボインボイン揺れるんだ……。
リリーさん、H以上は確実だな……。
いや、だがしかし、プリシラさんだって正しくブラを着けて、正しくお肉を持って来ればサイズは上がるのだ。
私は頷いてからプリシラさんの肩をそっと持った。
「プリシラさん、神を…信じましょう」
「………………うん…。」
そう言うしか出来なかった。
だがプリシラさんはまだ私の下着を見ている。やめて欲しい。何かが籠りそうで怖い。
今までリリーさんが作ってくれていたブラは、伸縮性はあるけれど支えが弱く、パットのないスポブラみたいなやつだった。
作れない私が文句を言うのもどうかと思うが、やはり支えがないと動いた時に頼りないし、揺れるとちょっと痛い時もある。
そしてパットがないと色々気になる。
だが、前の世界のブラを基準に作って貰えたなら、そんな心配のあれこれは一気になくなる。
将来の事を思えばブラは大事。
クーパー靭帯、大事にしていきたい。
じっとりしたプリシラさんはクッキーに任せ、一通り下着の話や制作サイズの話まで詰めた所で、私はとても気になっていた事を2人に尋ねた。
「あの、この世界で月のものってどうなってるんでしょうか。正直上がったのかなって思うくらい来ないんですが……」
「なぁに?それ」
「え?」
分からない、と首を傾げたリリーさんを驚いた顔で見ていると、お茶を飲んでいたプリシラさんが思い出したように頷いた。
「ああ、昔異世界人の女の子も言ってたね。なんだっけ、“生理”だっけ?」
「そうです、それ」
「この世界に生理はないよ」
「え……マジですか…」
私が唖然としていると、リリーさんが更に首を傾げ、それなぁに?と尋ねて来たので、私は向こうの世界の現象を伝えると、青い顔になったリリーさんが眉を顰める。
「そんなに出血したら死んじゃうわ…」
「異常がない限り死にはしないんですけど、結構しんどいですね。人によるみたいですけど」
「こんな下着やお洋服作れる世界だから、きっと素敵な世界だと思っていたのに…よく考えると怖いわね……だって魔法もないんでしょう?痛くても治せないじゃない」
「そう言われるとそうですよねぇ…。痛い時は痛み止めの薬飲んでましたけど…。そう考えるとこの世界で生理ないって凄い楽ですよね。でも私は元は向こうの人間だった訳で、この世界ではその辺どうなるのかな、と」
痛いの…?と青い顔で震えるリリーさんが、辛かったのね、と私に抱き着いてくるのを支えながら、プリシラさんに詳しい話を訊くと、プリシラさんはニヤリと笑った。
「魔力だね」
「魔力、ですか?」
「うん。子供が出来る行程も身体状態も一緒。けど、循環する物が違う。この世界では魔力が循環して体を整えてるから、血を入れ替えて排出する必要がない」
「うわぁ…魔力様様ですね」
「でも、子供産むときは血も出るし、やっぱり痛いよ?私も治療魔法がなかったら、痛くて死んでたかもしれない」
「え!?プリシラさん、産んだ事あるの!?」
まさかの子供産んだ発言に私が目を丸くしていると、プリシラさんがその緑の瞳を細めて柔らかく笑う。
「うん、勇者の子。長命種、特にハイエルフは妊娠しにくいから一人しか無理だったけど、それでもあんな短い期間に子供ができたのは奇跡。嬉しかった」
「でも、お城にいないですよね?今はどこに??」
「軍部にいるよ?あんまり帰って来ないけどね」
「へぇぇ…」
驚きのあまりに私が固まっていると、プリシラさんが、今度会ってやって、と軽く笑った。
まさかプリシラさんが母だったとは…衝撃の真実。
しばらくそんな話で盛り上がった後、私はそう言えば、と話を切り出した。
「後ね、これ作ったんですよ」
そう言って、私は2人の前に2つの瓶を置いた。
瓶自体はプリシラさんに貰ったポーションの容器なのだけど、中身は力作である。
「なぁに?これ、ポーション?」
「いえ。これは脱毛剤です」
「ん?脱毛?どう使うの?」
そう、私がファンタジー水を手に入れて、すぐさま作ったのは脱毛剤だ。
以前薄い魔素水で失敗したけれど、込められる魔法が分散しない為、ファンタジー水で作った脱毛剤は完璧なる神対応だった。
既に実証済みである。
一つは永久脱毛。『二度と毛が生えて来ませんように』と毛根を蹂躙する恐ろしい願いを込めた。
だが悔いはない。
もう一つは[算術]で必要量を計って、ファンタジー水を薄めて作った脱毛剤。込める願いも『毛が抜けますように』と作った普通の脱毛剤なので、今生えてる毛はなくなるけれど、いずれまた生えて来る。
こんな事にファンタジー水を、と思う所もあるけれど、ムダ毛処理は本当に大変。
そしてこの世界のそれは、ナイフで対応しなければならないので私には本当に大変な作業。
だって私に床屋さんスキルはない。
自分を削る自信がある。
この脱毛剤は私の必須アイテムなのだ。
そんな脱毛剤の効果を2人に説明した後、両方塗るだけ。と言葉を括ると、大きく目を見開いて、頂戴!と声を揃えた2人。
やはりどの世界でも、ムダ毛は無駄なんだな。
「本当に塗るだけ!?永久って、ずっと生えて来ないの!?」
「多分?まだ使ったばかりなので永久かどうかは時間が経たないと分からないですけど、願いが入った感じはあるし、何より処理に関しては完璧でしたね。凄く楽」
「これは嬉しい…ずぼらの味方」
「まぁそうとも取れますけど…でも剃ったりすると肌が荒れたりするじゃないですか。それがないし、生えかけのチクチクもないんで肌にも優しいですよ」
「嬉しいわぁ!表面は剃れても、こうナイフだとチクチクしたのってどうしても残るのよねぇ…。それに魔力を這わせた時に体の毛は邪魔なのよ。特に足と腕。感覚が微妙に狂うの」
そう殴るモーションを繰り出すリリーさん。
いや、うん。そうなんだ…それは、うん、すぐさま出て来るのが物理なんだな…。
この世界にもムダ毛を処理するって概念があった理由は魔力なのかと思いながら、眉を寄せて自分の脛を撫でているリリーさんに頷く。
分かる。チクチク気になるよね。どの世界でもやはり感想は同じなのだ。
顔にも使いたいとは思うのだけど、液体を顔に使うのはなかなかに難しい。垂れる。
なんて事を皆で話し合っていると、ナイフの刃を潰して脱毛剤の効果を付与すればいい!とリリーさんが立ち上がり、居ても立っても居られないかのようにジギーさんの元を強襲する羽目になってしまった。
ジギーさんは1階の倉庫に居て、どうやら水瓶の素材を確認していたらしい。
今一番忙しい人だ。本当に申し訳ない。
凄い勢いで脱毛カミソリ作って!と捲し立てるリリーさんとプリシラさんに最初は引いていたけれど、話を聞いて「髭剃り楽そう」と意外と乗り気に作ってくれるジギーさん。
髭…?
ジギーさんに髭のイメージなかった。マスクのイメージしかない。
マスクの下は見た事ないけれど、あるんだな、髭…。
意外、と言う視線になってしまった私に首を傾げながら、慣れた手つきで脱毛カミソリを作ろうとしているジギーさんが、魔法陣みたいな模様の描かれた羊皮紙に素材を乗せて、バチッとその紙に魔力を通したらもう出来上がりだった。
早いし凄い。
付与ってこうやってやるんだ、と呟いた私に、苦笑を浮かべたジギーさんから「付与師泣かせ」と言う称号を貰った。
いや、確かに、私が作ると魔法が願いと一緒に籠ってしまう訳だから、付与は要らない訳だけど、何にでも出来る訳じゃないしな。と思ってその称号は返却しておいた。
そんな脱毛カミソリは永久脱毛ではなく普通の脱毛剤で製作されている。眉とか失敗しても嫌なので、挽回のチャンスがないと顔は怖い。
出来上がった脱毛カミソリで手の毛を剃っては喜んでいるリリーさんとプリシラさんの隣で、お掃除魔法の籠った箒もあると便利だなぁ、と漏らした私に、リリーさんがどんな早業だと思うスピードで、何の素材か分からないけど魔物の何かに見えたそれで作ってくれた茶色い箒と白い雑巾。
それとファンタジー水に[清掃]魔法を込めて渡すと、ジギーさんがついでとばかりに[清掃]が付与されたお掃除箒と雑巾も作ってくれたのはとても嬉しい。
掃除が捗るし、いくつか作って貰えたので、お掃除仲間である魔王様にもプレゼントしたい。
そんなバタバタした感じで女子会は幕を閉じたけれど、また女子会しようって事で楽しみが一つ増えた。
その後、永久脱毛水は頭に掛かると怖いのでお城限定、脱毛カミソリは軍部まで派生して、下着に関してはリリーさんが翌朝には作り上げて、にこやかに渡してくれた下着は多種多様だった。
シンプルな物から綺麗だったり可愛いデザインの物まで、上下セットで色々揃ったぴったりサイズの下着には物凄くテンションが上がった。
可愛い下着を着けていると言うだけで、やはりテンションは上がるものだ。
そして流石リリーさんと抱き着いたリリーさんのスイカはしっかりブラで強化されていて、もんの凄い事になっていた……。
もはや大玉スイカ…。
因みに、プリシラさんのサイズは一つ上がり、神は見捨てなかった!とブラを崇めていたプリシラさんには少し泣けた。
どうか、育ちますように…。




