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64 体験

 皆が帰って来るのをお茶をしながら待っていると、隣に座っていた魔王様が、私との間にある3センチの結界にこつりと頭を預けた。

 伏せた瞼が重そうなので、やっぱり今日は色々あって疲れただろうし、もう眠たいのではないだろうか。


 しかしながら、これだけ眠そうなのにしっかり結界は張るのだから、触れられない感覚は筋金入りだな…。


「魔王様、もう寝ましょう?」

「……もう少し一緒にいたい」

「明日も会えますよ?」

「…明日は、夜まで出なければならない…だからもう少し……」


 眠い子が大人しく駄々をこねるように、必死に起きていようと睫毛を揺らす魔王様はとてもかわいい。

 私も3センチに頭を預け、ゆっくり安心して眠れるようにと魔王様に向けて言葉を紡ぐ。


「じゃあ約束しましょうか」

「…約束」

「明日の晩ご飯一緒に食べましょう?その時に、今から明日までの事、また沢山お話しませんか?」

「ふふ…一緒に……うむ、それは、楽しみだ…」


 眠そうに、でも少し笑って私を見た魔王様に「おやすみなさい」と笑うと、柔らかく笑った魔王様が「おやすみ」と返してパッと消える。

 お城の中で転移は禁止だった筈なのに、きっと相当眠かったんだろう。


 誰も居なくなった食堂でお茶を飲みながら皆の帰りを待っていると、魔王様が消えて程なく、窓に凭れ掛かるように皆が返って来た。


 それぞれが肩で息を切らせ、覚束ない足取りでわらわら帰って来る様は見事にボロボロ。

 皆、一体何して来たの…。


「ま…魔王様は?」

「寝ましたよ。疲れてたみたいなので先に寝に行って貰いました」


  そう、と一言息を吐いたリリーさんがフラフラと私の前まで来て床にへたり込むと、それに続くように帰って来た皆が、椅子までの距離すら億劫だと言わんばかりに床に腰を下ろしてバテている。


 立ってるのも疲れる程に魔力使うって、本当に何して来たんだろうか…。


「…ね…ネクタル…ネクタル頂戴…」

「プリシラ…あれは魔素水…。ファンタジーな魔素水……」


 這いながら手を伸ばすプリシラさんに、胡坐をかいて俯いたままのジギーさんは洗脳を忘れない。


 そんな中でフラフラと立ち上がって、私の腰に凭れるように装着されたレイ君が、疲れました、と言いながらもしっかり腰をホールドしている。

 そしてレイ君が触れていると、今レイ君にどれくらい魔力が足りないのかが、目で見るよりもしっかりと分かった。

 魔王様のお色気バージョンを食らわないように、沢山計算した感覚がとても役に立っている。


「レイ君ちょっと使い過ぎだね。早く飲まないと倒れちゃいそう」

「…ユリエ様、魔力分かるようになったんですか?」

「何となく、分量だけね」

「ユリエ様はやっぱり凄いんですねぇ」


 エヘヘ、と嬉しそうに笑う疲れた顔のレイ君に、私はレイ君が飲んで大丈夫な量のファンタジー水をグラスに掬って渡すと、やっぱりまだ警戒心が残っているのか、一度匂いを嗅いだレイ君が舐めるように口に含み、味を知ったその後はグーっと一気に飲み干して、そして目を見開いたまま固まる。


 するとレイ君から小さな火花がパチパチと散って、そんな自分に驚いたレイ君は急いで私から距離をとった。


 え、分量ヤバかった?


「こっ…れ、はっ凄くっ美味しいっ、ですけどっ、美味しっ過ぎてっ、魔力がっ漏れっますっ」


 レイ君はしゃくりが止まらなくなったように口を押え、言葉が詰まった瞬間には火花を弾く。

 パチパチと火花を散らしている事に私は心配していたのだけど、当の本人はとても楽しそうに光る目を輝かせているので、どうやら分量的にも今の状態も大丈夫なご様子だ。


 そんな楽しそうなレイ君に、最近みるチリチリとかバチバチとかって魔力だったんだな。と思わず観察してしまった。


 そして楽しそうなレイ君を観察していた私のスカートを力強く握ったのはプリシラさん。

 這って進んで今到達したらしい。


「ユリエ…私にも、早く…」

「…うわっ酷っ!もう!プリシラさん!そんなギリギリにしてたら死にますよ!」


 プリシラさんに触れると限界ギリギリ。

 そんなプリシラさんに急いでファンタジー水を渡すと、勢いよくグラスを両手で持って、味わってるのか分からない感じにごくごく飲んでいるプリシラさん。

 恐ろしい事に、プリシラさんに渡した量はグラスたっぷり一杯分。

 さすがハイエルフって事なんだろうか。


「………ぉいし……」


 最後の一滴まで飲み切って、恍惚の表情と言うのを何倍かにしたようなプリシラさんに、私はそっとプリシラさんのマントを取って頭から掛けた。

 プリシラさんの名誉の為には、この顔を外へ出してはいけない。


 その後、皆に少し触れては量を測ってファンタジー水を渡していく。

 一番少なかった三兄弟は物凄い駄々をこねたけれど、危ないので絶対駄目、勝手に飲んだら2度と私が作った料理は食べさせない。と言うと大人しくなった。

 料理も好きだもんね。


 魔力量が一番多かったのはやはりプリシラさん。次いでレイ君、その次がジギーさん、リリーさん、ヨウグさん、そして最後に三兄弟。

 魔王様や自分の魔力量と比べると計った魔力は少なく感じるけれど、一般的にこれが多いのか少ないのかはよく分からない。

 とりあえず、皆が平気そうな量が分かって良かった。


 これでお茶を作る時に下手をする事はないだろう。


 そんなファンタジー水を飲んだ反応は様々で、一番酷かったのはやはり三兄弟だ。

 彼らは毒が得意な分野だと言っていた為か、漏れる!と言いながら再び外へ走って消えた。

 それは漏らさないで欲しいし無事だといい。


 ヨウグさんとジギーさんは落ち着いたもので、とても普通に飲んでその効果や味を検証していたし、リリーさんは頬を染めてうっとりしていたので、少しマントを掛けたかったけれどギリギリセーフ。


 レイ君以外は魔力が漏れる事はなく、魔力が漏れるかどうかは魔力制御の熟練度が関係しているのだと、火花を出し終わったレイ君が悔しそうに教えてくれた。


 けれど魔力制御の熟練度が高くても、集中しすぎたり感情が高ぶると魔力が暴走するのでちょっと危ない。

 主に回りが。

 そして魔族なら使った魔力に比例して目が光るらしいので、目が強く光ってたり得意属性が現れてたら要注意だと教えてくれた。

 分かる。経験ある。


 他の種族は魔族みたいに目は光らないけれど、魔力が漏れたり暴走する時は、得意属性が勝手に現れるらしいので、そちらも注意が必要らしい。


 うん。そうだね。

 危ない事をしない為にも、何事も程々が大事だね。


 そう私は被せたマントを風で揺らしているプリシラさんに苦笑する。


 やはりエルフにファンタジー水を与えてはならないらしい。






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