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62 ネクタル

 食事も食べ終わり、そう言えばファンタジー水採って来たよと伝えると、早く出してと急かされて、今床の上には私の取り出したファンタジー水が入った水瓶が置かれている。

 それに飛びついたのはやはりジギーさんとプリシラさん。


「「これが【死の泉】の魔素水…!」」


 ジギーさんは穴を開ける気かと思う程目を見開いて水瓶を見ており、プリシラさんは涎を拭いた方がいいと思う。


「やっぱり凄く濃いみたいなので、沢山飲むのは危険だそうですプリシラさん」

「…わ、わかってる」


 名指しで注意すると、プリシラさんは涎を拭いた。

 良かった。その整った容姿で涎はヤバい。


「使うのであれば薄い魔素水と数滴程度で混ぜるのがよいと思う。お前たちが思っている以上に濃かった」

「え!?魔王飲んだの!?ずるい!私も飲みたい!」


 魔王様の説明に、水瓶からぐるり視線を魔王様に向けたプリシラさんが、勢いよく魔王様に数歩近付いて、魔王様が素早く私の後ろに避難する。

 プリシラさん、刺激したら駄目ですよ。

 そして何だかんだでよく盾にされるもやしな私。


「下手をすれば魔力過多になるだろう。魔力を消費した私でもワイングラス一杯で酔ったのだ。安易に扱える物ではない」


 私の後ろから再び説明を始めた魔王様に、今度はジギーさんが顔を上げる。


「…何でそんなに消費を…って今はいいや。これ蓋開けても平気ですかね」

「大丈夫だ。結界石の水瓶を使っている。心配はない」


 魔王様に確認を取ったジギーさんがゆっくりと蓋を外し、そして中身を見て「何これ…」と驚愕に言葉を零したその横で、目を潤ませて物欲しそうに匂いを嗅いでいるプリシラさん。

 ああ、やはりエルフに魔素水は駄目なのだ…。プリシラさん…そんな顔したら駄目。美人が台無し…。


「これ、何したの。普通の魔素水じゃない。何このでたらめな魔法」

「魔法?」


 薄っすら目を光らせているジギーさんの言葉に私が首を傾げると、後ろから私を覗き込む魔王様がファンタジー水に対して説明をくれた。


「あの水には採取する際にユリエの魔法が薄っすらと入っている。飲んでしまっても問題ない状態にする為に使われた魔法だが、その効果は存在し続ける。故に、魔法が入っている、と言う事になるのだが、その薄くとも効果を発動し続ける魔法がとても複雑なのだ」

「そんな複雑な事を願った覚えはないんですが…」

「いやいや、魔法が入ってるのに他の魔法を阻害しない状態になってるなんてあり得ない…んだけど、そこはユニークスキルだって事で納得するとして、こんな効果は他の魔法じゃ複雑過ぎて魔素水には組み込めない。とりあえず何入れたの」


 そう魔素水から私に顔を向けたジギーさんに少し考えてから、あの時どんな事を考えていたのか思い出す。


 体にいいとか色々考えてはいたけれど、確か一番強く願っていた想いがある。


「ええっと…『奇跡の水であれ』ですかね」


「「「「「「…!?」」」」」」


 全員からマジかよって視線貰って一歩たじろぐと、魔王様が張っただろう結界に背中が当たる。

 魔王様、隙が無い。


 そんな沈黙の中で、プリシラさんが震えるような声で言葉を零した。


「神の水、ネクタル…」


 ネクタルって前の世界でも聞いた事がある。なんだったか忘れたけれど、何か凄そうなやつだ。

 そしてヤバそうなやつだ。


 飲んだんだけど…。


 私がやや小難しい顔で首を傾げると、後ろに立っている魔王様も首を傾けている。

 だって一緒に飲んだもんね。


「ネクタルではない筈だ。飲んだが不死にはなっていない」


 私と一緒に首を傾げていた魔王様が、不思議そうにそう言って、私の顔は驚きに変わる。


 え。 不死…あるの?不死……あるの??

 2回思ってしまった。頭が付いて行ってない。


 この世界の寿命とかって、何かとりあえず長くない?流石に不死は困るんじゃない?


「それは本に書かれる伝説。エルフの言い伝えでは別の存在を意味する。それは『奇跡を叶える神の水、その名はネクタル』なら、これは…ネクタル…エリクサーなんて比じゃない…ユリエ……」


 あ。ヤバイ。ヤバイヤバイ。


 どうしたら…とプリシラさんが悲壮な顔を私に向けて来るけれど、私もどうしていいのか分からない。

 この世界に来て一発目に作ってた訳だし、飲んでたし、魔王様治すのにも必要だし、そして既に存在してしまっているのだ。

 10壺程。


「大変申し上げ難いんですが…既に10壺程存在しております……」

「……っ10壺…!壺!…価値観が…ユリエ、私の価値観が誘惑に負けそう…!」


 そう崩れ落ちたプリシラさんの肩を、ジギーさんがそっと持った。そして、プリシラさんを覗き込むように視線を合わせ、悪魔のように何度も呟く。


「黙ってれば、バレない」

「黙っていれば…バレない…」

「魔素水。これは魔素水。ただの濃いぃ魔素水」

「ただの…濃い、魔素水」


 俯いたプリシラさんは、何度も呟かれるジギーさんの言葉を繰り返している。ジギーさん…それは精神魔法でも使ってるんですか?もしくは洗脳スキル?

 怖い。


 しでかしたのは私なので何とも言い難いけれど、複雑な光景だ……。


 結局、ただ言い聞かせていただけのジギーさんの言葉によって、これはネクタルではなく凄く濃い、ただの魔素水になった。

 名前は『ファンタジー水』。命名は私。


 ファンタジー水って表現は、私が言い慣れてしまってポロッと出るのだ。かっこ悪い命名だけれど許して欲しい。


 そしてこのファンタジー水はお城以外では使わない事でも落ち着いた。そこから作られたアイテムに限り、物によっては軍部に出すけれど、それでも城壁内止まり。

 プリシラさんが今は露見する可能性を潰しておきたいと強く言ったので、そこは素直に頷いた。


 そんな中、まずはこれでお茶を作りたいと言ったら、プリシラさんとジギーさんからとても切ない視線を貰ったけれど、あまりファンタジー水に興味がなかったレイ君が喜んでくれたので良しとしよう。

 任せて、美味しいの作るから!


「服作りには使えないのかしら…残念だわぁ」


 ファンタジー水の処遇も決まり、落ち着いたその場でリリーさんが残念そうに溜息を吐いているけれど、確かに分かり易い用途としては、薬や魔道具って事になるんだろうけど、果して服作りに使えないんだろうか。可能性はあるのでは?と思ってしまう。


「魔法を込めた魔素水に生地を染める要領で漬けこんだら、効果が染み込んだりしませんか? 例えば[掃除]の魔法に漬けこんだら自浄作用とか付きそうだなって思うんですけど…」

「………。 確かに、今までだと薄くて意味のなかった魔法でも、あの水の中だとそのままの効果で入るのよね……」

「試してみる価値はあるんじゃないですか?お布団にだって魔法は入った訳ですし」

「!! そうね、そうよね!やるわ。絶対やるわ!!繊維から作れば何だって出来そうだし、魔法の重ね掛けして詰め込んで、ある意味何でも出来そうよね!? ちょっと、私にも分けて!!!」


 そう言って、とりあえず5壺出したファンタジー水を誰がどれだけ持って行くか、その配分を決めていたジギーさんとプリシラさんにリリーさんが加わった。


 10壺採って来たファンタジー水の内、1壺は魔王様、1壺は私。お茶や野菜の件もあるので、3壺は厨房行き。

 なので今渡せるのは5壺になるのだけれど、半分ずつで決着しそうだった所にリリーさんが入って、その5壺のやり取りは苛烈を極めた。


「お前らだって魔道具使ってるだろ!転移とか込められたら歴史すら変わるんだぞ!」

「そんな大げさなの要らないわ!逆にほいほい転移されたら迷惑よ!それに比べて服は毎日着るじゃない!怪我だって減るわ!」

「怪我なら薬で治せばいい!治せるんだから服も魔道具も要らない!私が2。これは譲れない。3でもいい」

「「プリシラは飲みたいだけだろ!」でしょ!」


「また採って来ますよ?」


 そう声を掛けたけれど、無言で首を横へと振られた。

 次までが大事なんだそうだ。






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