脱
その後、皆に渡したお礼ロールケーキがお詫びロールケーキのようになってしまった事は致し方ない。
魔王様とは一緒にお菓子を作っていたけれど、ちょっと魔王様が治って色々浮かれておりました…。
しかしながら、皆が魔王様クッキーを食べて「おいしい」と痺れる口でもしっかり伝えた感想に、魔王様はとても嬉しそうだったので、痺れ甲斐もあったと思うし、意図した訳ではなかったにせよ、私のロールケーキを食べると魔王様クッキーで感電した状態異常は治るらしいので、どうかセットで楽しんで頂きたい。
そんなお礼の魔王様クッキーと私のロールケーキは、軍部へ渡す分を収納袋に入れてヨウグさんに渡しておいた。
今はまだ軍部へ行くには騒がしいらしいけど、お礼は早めにしたいので、軍部の厨房さんに配って貰う予定である。
軍部へ渡す魔王様クッキーにも「ありがとう」のアイシングはあるけれど、魔法陣はないので多分ビリビリ問題も大丈夫なんじゃないだろうか。
私も魔王様のクッキーを食べたけれど、魔法陣がなかったそれは普通に美味しいクッキーだったし、ビリビリもしなかったから大丈夫。
な、筈。 多分……。
もし無理そうなら、ロールケーキでどうにか頑張って頂きたい。
そんな魔王様クッキーの痺れを楽しんだ後は、そのままお城でも快気祝いの宴会が始まった。
私が寝ていた3日の間に、ヨウグさん達が作り続けた見事な和食や、ヨウグさん考案の美味しいご飯が並ぶ食堂で、乾杯と共に『おめでとー!』と皆の声を掛けられた魔王様は嬉しそうにパーティー席に座っている。
けれど本日は祝いの席な為か、沢山の料理に並んでお酒も出されており、快気祝いが後半になるに連れてどんどん皆は酔っ払い、どんどん魔王様は絡まれ出している。
「フレン~~こんなに大きくなってぇ~父は嬉しいぞ~~」
「ふふふふふふ~~ほんと~もう少し筋肉を付けた方がいいけれどぉ~隠れ筋肉はしっかりしているものねぇ~~」
「………。」
しっかり顔の赤いお父さんとリリーさんに纏わりつかれ、サワサワ触られながらも眉を寄せるだけで耐えている魔王様。頑張ってる。
「魔王様~~早く結婚の儀式~しましょうよ~~もう治ったんだから~明日しましょうよ~~ねぇ~ねぇ~~」
「そうです。儀式はするだけなら出来るんですから明日にでも魂をお繋ぎになって早々に同室にしてお世継ぎをお作りになるのがよいのですから早く儀式をするべきなんれす」
100歳超えてたらOKなのか、お酒が入ってしまったレイ君とロイ君に、マントの中に潜り込まれて揺らされていても、そしてロイ君が結構な事を言っているので、しっかり顔は赤くなってしまっているけれど、魔王様、耐えてる。頑張ってる。
しかし、レイ君とロイ君には後で酔い覚ましを飲んで貰おう、体は子供なんだからやっぱり心配だ。
「皆ずるいわ!私も触りたい!!」
「私ももっと魔力回路が治った状態を知りたい。触りたい」
「え、じゃあ俺も記念に触りたい」
お母さんとプリシラさん、そしてジギーさんまでにも順番待ちをされているけれど、嫌とは言わない魔王様。偉い。頑張ってる。
きっと皆が嬉しかったり喜んだり、幸せだから触って来る事をしっかり学んだ魔王様。既に髪はユラユラ揺れてるし顔は真っ赤だし、魔力が出そうになってしまってはいるけれど、耐えてる。無言で耐えながらずっとケーキを食べている。
頑張ってるな~と思いながら、私もそんな魔王様を横目にしっかりご飯を食べているけれど、もし魔王様の魔力が爆発したら、今回はしっかりご飯は守ろうと思う。ヨウグさんのご飯、力作。美味しい。
200年待ちに待ったお祝いの日なのだから、今日は魔王様が頑張るべきなのかと、皆が魔王様に絡みまくってお触りし放題になっているのを黙って見守っているけれど、普通にあれだけ触られれば、触れられるとか触れられないとか関係なく、限界が来る気がする。
そしてそろそろ限界かな、と絡まれまくる魔王様を見守っていたそんな食堂に、花束を抱えたエスさんがやって来た。
「あはは、何か面白い事になってる」
いつもの調子で、絡まれまくる魔王様を笑いながら現れたエスさんは、まず私に向かって「当日の事は聞いてるよ、頑張ったね、お疲れ」と笑顔で花束をくれて、「ありがとう」と笑顔を返していると、次に魔王様を見たエスさんを救世主だと言わんばかりに立ち上がった魔王様は、まだ魔王様の服を引いている皆の中からもぞもぞ脱出して来た。
「え、エス!その、渡したい物があるのだ!」
「ん?そうなの?けどとりあえず、魔王もお疲れ、おめでとう」
「ふふ、うむ…ありがとう、エス」
エスさんのお祝いの言葉に、とても嬉しそうに笑った魔王様がエスさんの前まで足を進めると、アイシング魔法陣入りクッキーを渡した魔王様は、やっぱりエスさんにもしっかりハグをする。
お城の中では今日一日ありふれた光景だけれど、そんな事は知らないエスさんが魔王様の腕の中でキョトンと目を見開きながら、でも魔王様の背中を軽く叩きながら嬉しそうに笑って、しかしそのまま物凄くニヤニヤしているいつもの笑顔に変わり、あ、あれは何かする気だな。と思ったら、しっかりエスさんはかまして来た。
「……魔王」
「何だ?」
「温かい…」
と、当日の事をガッツリ弄ったエスさん。
ぶれない。
そんなエスさんの言葉でやっぱり真っ赤になりながら、しかし無言で眉だけを寄せて耐えた魔王様に、そこまでで終わっておけばよかったものの、エスさんは更に追い打ちを掛けてしまった。
目を閉じて、「ん~~」と口を突き出してキス待ちしているエスさん。
身を張った弄りだ。今の魔王様にそれはアウトだろうし、本当にされたらどうする気なんだろう。
そんなエスさんの様子を見ながら、私はそっと席を立った。
温かい、までは呆れたような顔をしていた魔王様ではあるけれど、その後のキス待ちに、フワッと浮いた魔王様の髪とマント、そして耳まで真っ赤に染まった魔王様。
ジギーさんの「退避!」って声が響いた時には辺り一面が真っ白に染まったこれは、一番厄介な消し飛ぶ系。
けれど私、今回はちゃんとお料理も守った。テーブルは無事だし、私の周りに密集している皆も無事。
因みに、魔王様の腕の中に抱えられていたエスさんは見事に魔王様の魔力を【魅了】で防いだけれど、それでも魔力を使い果たしてその後はしっかりと倒れた。
けれど、魔王様に貰ったクッキーをしっかり守っていた事にはホッコリしたし、そこまで身を張って魔王様を弄りたいのなら、もう何も言う事はあるまい。
仲良きことは良きことかな、である。
お城を直すジギーさんの文句が響く中、それでも続く快気祝いには料理を出しきった厨房組も参加して、笑顔が溢れ、たまに涙し、明るい笑い声が絶えないお祝いは夜遅くまでずっと続いている。
さすがに深夜もいい時間になって来ると、ここ3日ずっと逃げ続けていた魔王様は、その後も色々あってか流石に眠そうだし、私もまだ無理はいけないとの事で、お祝いを楽しむ皆におやすみの挨拶をしてその場を離れたけれど、もう少し一緒に居たいと言った魔王様とは現在私の部屋のソファーで寛いでいる。
いつものように、膝に乗せた私を後ろから抱え、私の肩に頭を乗せている魔王様はとてもマッタリしているけれど、このまま寝てしまいそうだと思う程には魔王様はうつらうつらと睫毛を揺らしているので、そろそろちゃんと寝た方がいいんじゃないだろうか。
「魔王様、3日ろくに寝てないんでしょう?そろそろゆっくり寝た方がいいですよ?」
「……うむ。しかし、もう少し…」
そう私の肩に額を擦らせ、ぐずりながらもウトウトしている魔王様が私に回す手を撫でながら、何か前にもこんな事があったな、と思い出した。
互いに思いを告げて、【死の泉】でバタバタして、婚約して、ファンタジー水で色々あった日。
あの夜も眠そうなのに、必死で起きていようとしていた魔王様は、次の日の約束でようやく眠ったんだった。
「明日も一緒にいましょう?だから今日はもう寝ないと、体に悪いですよ?」
「…明日……夜は?昨日は一緒だった。その前も、その前の日も……」
そう少しゆっくりと、眠い中で話している魔王様の言う“夜は一緒だった”とは、私が起きなかった3日間の事だろう。
「んー…じゃあ今日も一緒に寝ますか?」
「……一緒に」
「はい。一緒なら眠れますか?」
そう私が肩から眠そうな目で私を見ている魔王様に首を傾げると、きっと照れるだろうと思っていた魔王様が軽く頷いて、私を抱えたまま転移した。
転移した先は魔王様の部屋、と言うか寝室のベッドの上。そこへ落ちるように転移したので既にベッドで横になっている状態で、私を後ろから抱えたままの魔王様からはもう寝息が聞こえている。
早い。
余程眠かったんだろうとは思うけど、余りの急展開に何の反応も出来なかった。そしてこれはかなりレアな状況なんだろうけど、まずお布団被りたいし靴も脱ぎたい。出来ればお風呂にも入ってから寝たかったし、更に言うなら着替えてから寝たかった。
しかし、一緒に寝ようと言ったのは私なので、この状況も仕方あるまい。
……とは思うけど、せめて靴は脱ぎたいと思って動いてみると、何と本日の拘束はゆるりと外れた。
初めて私の前で魔王様が寝落ちた時は、拘束が強くて抜け出せなかったものだけれど、何と本日は私を抱えていた魔王様の手ががっしり組まれていなかった為か、その手はするりと外れ、すんなり脱出できたのでソロソロと這うように脱出成功。
私が動いて起きないかと振り向いた魔王様は、安らかな寝息を立てたまますやすやと眠っていて、ずり落ちた魔王様の腕を私が動かしても起きる事はない。
そんなしっかりと眠っている魔王様の髪を笑顔でそっと撫でてから、これは好機だとまず靴を脱いだ。
お風呂は流石に無理だろう。もし抜け出している間に魔王様が起きてしまえば、もう一度一緒に寝ようと言っても、今度こそ照れてしまって寝るのがもっと遅くなる。
しかし、お風呂以外ならば、ここでモゾモゾするくらいなら、多少の事は許されるのではないだろうか。
そんな思いに靴を脱いで、ちょっとゆとりが欲しくてカーディガンとベストも脱いだ。
流石にワンピースから寝間着に着替えたら、以前服を着てと言われていた寝間着姿は、明日の朝危険な事になりそうなので、限界ギリギリはこの辺りじゃないだろうか。
そんな自分にお掃除魔法を掛けて、明日の朝は絶対お風呂に入ろうと思いながら、次に手を伸ばしたのは魔王様の靴。
ベッドの上で靴履いてるとかちょっと無理。
魔王様が起きないかを窺いながら、そろそろと魔王様のブーツの編み上げを解いて緩め、ちょっと強めにブーツを引っ張ると、ズボッと抜けたそこで一旦魔王様を確認する。
よし、起きない。
好機とばかりにもう片方のブーツも脱がせると、次に気になるのは魔王様が着ているマントとかジャケット。
フル装備のままで寝るのはきっと寝苦しいだろうし、お疲れなのだからゆっくり寝て欲しい。
となれば、魔王様の装備を脱がす必要があるので、ベッドを這って魔王様に近付く。
マントは、簡単に取れそうな気がするな。
そう思って魔王様の胸元でマントを固定している金具を外すと、それはすんなり外れる、が、魔王様の下敷きになっているマントを引き抜くのはまだ無理だ。
なので、マントは後で、と一旦マントから離れ、今度はジャケットのボタンに手を伸ばす。
しかしながら、すやすや眠っている魔王様を窺いながら魔王様を脱がす私。
何かいけない事をしている気分になって来るけれど、全部脱がす訳じゃないしな、とジャケットのボタンを外して問題はこの後だ。
マントも下敷きだし、ジャケットは袖を通している状態だから、腕を下げて貰わなければならない訳だけれど、寝ている人にそれは頼めない。
下に向かって引いてれば脱がす事が出来るだろうか…。
そう腕を組んで考えながら眺めている魔王様は、物凄く安心しきった寝顔ですやすやと眠っていて、そんな無防備な寝顔にやはりじわりと罪悪感が湧いて来る。
そう言えば、脱がすって魔王様的には破廉恥案件じゃなかったっけ…。
そう考えると、ちょっとやってしまった感を感じるけれど、ここまで来たらジャケットがあろうがなかろうが、半分脱げているのだから一緒か、と再び作業開始。
この状態でジャケットを脱がそうと思えば、一旦うつ伏せになって貰わないと無理なんだけど、その体勢にすれば流石に魔王様が起きてしまうだろう。
どうしようかとうんうん悩んで、結果ガッツリ魔法を使った。
キノコ園でヒカリタケを部屋から放り出したあの魔法。試しにやってみたら成功した。
掃除で掃き出す感覚のあの魔法、何とジャケットとマントはここに要らない!と魔力で包むと、マントもジャケットも一瞬でスポっと抜けたのだ。
さすが【生活魔法様】、やる事が違う。
あれこれ脱がされ、シャツとボトムスだけで身軽になっている魔王様に満足の笑みで頷く。
ふふふ、こっそり脱衣ミッション達成である。
そう笑顔で足元にあった掛け布団を引っ張り上げ、魔王様の上に掛け直してからその中へと潜り込む。
何となく触れてないのが嫌だったので、お布団の中で魔王様の腕を腰の上に乗せ、目を閉じると魔王様の温かさと重みがいい感じ。
やりたい放題やってしまったなぁと思いながらも、すやすや眠る魔王様の体温が温かくて、反省する間もなく眠りに落ちた。
そして次に気付いたのは朝の鐘。
まだ少し暗い中で凄くゆっくり眠ったな、と目を開けたそこには、10センチ程先でまだ眠っている魔王様の寝顔が見える。
相変わらず綺麗な寝顔。
何度か続く朝の鐘が鳴る間、そんな魔王様の寝顔をじっと見ていると、鐘が鳴り止んだ余韻の中で魔王様の目が薄っすらと開いた。
また転移するのかな、大丈夫かな、と伺うように見ていた魔王様は、やはり寝起き一番はやや寝ぼけるのか、開き切らない目で私を捉え、布団が擦る音を立ててこちらに手を伸ばして、ちょっと考えた後に私の頬を優しく撫でた。
そして嬉しそうに微笑んだ、と思った魔王様がじわじわと覚醒し、その目がしっかりと開ききったそこには真顔があって、その真顔が今度はじわじわ赤くなる。
うんうん。魔王様だなぁ。
そんな事に安心してしまう私が笑顔で「おはようございます」と挨拶してから、しっかり赤くなった魔王様の頬を撫でると、ちょっと情けない声で「おはよう…」と返した魔王様の眉が困った。
「…ユリエ、何故か、身体がスカスカしている…」
「ああ、はい。多少身軽になって頂いております」
「……それは…」
「譲れない思い的な。ベッドで寝る時に靴履いたままは無理だ的な」
私が真面目にそう告げると、そうか…と赤い顔で目を閉じて、頑張って何かしらを耐えている魔王様の頬をヨシヨシ撫でる。
どうかこのヨシヨシで脱がした事は許して頂けないだろうか。
そう願いながら撫でていた魔王様の目がまた開いて、「無理なら仕方ないな…」と言って私の頬も撫でた魔王様が恥ずかしそうに笑ってくれたので、どうやら寝ている間に脱がした件のお咎めはないようだ。
しかし、そろそろ起きましょうかと言って布団から起き上がった私がワンピース一枚だった事は見事にアウトだったようで、物凄くパニくった魔王様から久々に頂いた「破廉恥な!」は、平和な朝に良く響いた。




