ハグと刺激
再び泣いていた皆が落ち着いた頃、軍部から戻って来たレイ君とロイ君、そしてお父さんとお母さん。
やっぱりお母さんは食堂にいる魔王様を見付けると、即行魔王様に突撃しようとしたそれを、「待って頂きたい!」と立ち上がって止めた私、なかなかの反射神経。
いや、魔王様も立ち上がって、既に逃げる体勢になっているから遅い訳だけれども。
「……ユリエちゃん、止めないで欲しいの。そこはちょっと譲れないわ」
「いえ、しばしお待ち頂きたいと、そう言う意味でございます」
ドレスの裾を持ち上げて、ガッツリ走ろうとしているお母さんを制している私がそう頷くと、魔王様が「母上」と言って一歩前に出て、自分から近付いて来る魔王様にお母さんが驚いたようにドレスを離し、姿勢を伸ばして丸い眼を向けている。
そしてそんなお母さんの目の前まで歩いて行った魔王様が、お母さんにお礼クッキーを差し出して「ありがとう」と笑顔でお礼を言ったそれに、口を開けてポカンとそれを受け取ったお母さんが顔を赤くした瞬間、魔王様がギュウッとお母さんを抱きしめた。
「…昔、抱き着けば膝だったのに、母上が小さくなったようです。けれど昔と変わらない、母上の魔力は安心する」
魔王様がしっかりと抱きしめているその腕の中で、その頭を撫でるように手を回したお母さんの目からポロポロと溢れた涙が零れ、そして涙を流しながらも、魔王様の頭を、触れても大丈夫だと言う事を確認するように何度も何度も撫でながら、魔王様の肩に埋まったお母さんが言葉を詰まらせている。
「……ふ…うぅ…ふれん、よ、よかった…ほんとうによかった…」
沢山の気持ちが乗ったその震える声で、ホロホロと泣いているお母さんが魔王様を撫でていると、視線を上げた魔王様がお父さんに向かって片腕を広げ、目を潤ませてその光景を見ていたお父さんが、そんな広げられた腕の中に入って額を寄せるそこで、困ったように笑ってから少し震える声で言葉を零した。
「片腕が動かんのがもどかしい…もっと早くに治しておくべきだった……これでは抱きしめる事が出来ないな」
「ふふ、ではまた父上が治った折にもう一度」
そう堪えきれない涙を流すお父さんが、「フレンが治って本当に良かった」と魔王様の肩に頭を預け、そんなお父さんの背中を魔王様が撫でている。
あれ、私、また低級ポーション飲まないと駄目かな。
あれこれ飲んで、もう結構お腹が膨れてるんだけどな…。
魔王様達を見ているこちらの4人で低級ポーションをやりとりしていると、しばらくお父さんとお母さんを抱きしめていた魔王様が、2人の背を軽くポンポンと撫でて離れると、笑顔だけれどまだ泣いているお母さんの肩をお父さんがしっかりと抱いて、頷いた魔王様がレイ君とロイ君に向いた。
そんな魔王様に、頬を赤くしてすかさず両手を広げたレイ君に魔王様が軽く笑って、2人の前に膝を突いた魔王様は、レイ君とロイ君を同時にしっかりと抱きしめて「レイ、ロイ、ありがとう」とお礼を言うと、魔王様にしっかりと抱き着いた2人の頬は魔王様の頬にしっかりと触れていて、「くすぐったい」と笑っている魔王様に、感極まったレイ君が大きな声でわんわんと泣き出し、物凄く涙を耐えて居たロイ君もボロボロと涙を流しながら魔王様にしっかりと埋まる。
ああ、うん。自分の作った低級ポーションって美味しいな。今日何本目だっけな、なんて思いながら低級ポーションを飲んでいると、泣いているレイ君とロイ君の背を宥めるように撫でていた魔王様が、ああ、と何かを思い出したように2人を離した。
「こちらを忘れていた」
そう言って、お父さんとレイ君とロイ君に笑顔でお礼クッキーを渡した魔王様に、お父さんとロイ君がお礼を言っている隣で、貰った魔王様クッキーを両手に持ってじっと見ていたレイ君が、大きな口を開けてガブッとクッキーを齧った。
おお!?レイ君、そこは躊躇しないタイプ!?
記念に残してから食べる物だと思っていたのは私だけではなかったようで、皆がクッキーを齧ったレイ君を見ている中で、小さく「あ」とジギーさんの声が聞こえた瞬間、レイ君がビビッと電気が走ったように震えて止まる。
ん? 今の反応は何?
思わず眉が寄ってしまった私の前で、真顔で止まっていたレイ君がもう一度口を動かすと、クッキーを咀嚼した瞬間またビビッと震えて止まる。
…こ、この反応は…?
と、答えを求めて魔王様に視線を向けると、魔王様は嬉しそうにクッキーを食べているレイ君を見てニコニコしている。
が、いや、え?何でレイ君震えてるの?
そう言葉に出して聞けない私を見たジギーさんが、小さく溜息を吐いてから魔王様に言葉を掛けた。
「魔王様、このクッキーに施された魔法陣、これ威力を増幅させる為の陣ですよね?」
「うむ!出来るだけ美味しく食べて欲しかったので陣を敷いた!クッキーの中に威力を浸透させるのは中々に大変だったが、上手く行っているようでよかった!」
そうとても嬉しそうに話す魔王様に、全員の視線が集まっている。その視線を送る皆の手の中には魔王様クッキー……。
「……なるほど。魔王様の魔力もしっかり入って、きっと刺激的で美味しいクッキーになってるんでしょうねぇ」
「ん?魔力は入れていないつもりだが?」
はて?とジギーさんに首を傾げた魔王様から、私に視線を向けたジギーさんに、私はきっと良い笑顔を返していると思う。
多分…魔力、入ってる。
クッキー作る時、魔王様は物凄く集中していた。
目だって光ってたし、知恵の輪を解く時ですら集中すると魔力が出ていた魔王様が、あんな集中しながらクッキーを作っていたのに、魔力が出てない筈がない。
しかし、私は魔王様がとても楽しそうに素手の感覚を楽しんでいた事に気を取られていたので、正直すっかり魔王様の魔力を抑える事を失念していた訳で……では、抑えられなかった魔王様の魔力はどこへ行ったのか。
答えはクッキーの中だ。
きっとアイシングにファンタジー水を使っていたので、そんなアイシングに乗って、ギリギリいい感じでクッキーは魔王様の魔力を留めたんだろう。
そしてきっと、今回魔王様から溢れていたであろう魔力は雷属性だったんだろうな…。さっきから止まっては復活し、咀嚼してはビビッと震えて止まるレイ君は、魔王様のビリビリ魔力を受けて感電している状態なんだろう…。
そしてその効力は、魔王様クッキーを貰った人全員が食べるともれなく体験する……。
私のクッキーには魔法陣ではなく連々花が描いてあった…きっと何かしらの威力を上げるのは危険かも知れないと思ってくれたんだろう。いや、まぁ、危険があるお礼のクッキーとは、と思う所はあるけれど、魔王様からしてみれば、美味しく食べて欲しかっただけなのだ。
悪意ではない。
そう頷いて、私はカメラを手にした。
うん。刺激的。魔王様の刺激的なクッキー。いいと思う。記念だし。きっと美味しいのは美味しい筈なんだしいいよね!美味しいんだし!
そう私に集まっている視線に笑顔で頷いて、お父さんとお母さん、そしてレイ君とロイ君にクッキーの写真撮る?と言ってしっかりと記念を写真に納めた。
いや、皆ほら、強いし。きっと大丈夫だよね?そして美味しいんだからいいよね!
そうやや冷や汗の流れる笑顔の私に、皆が苦笑するように息を吐いてから、意を決したように魔王様クッキーを一口齧った。
皆がビビッってなった。
写真を撮った。




