319 鍋料理!披露!
晴れた冬の空。雲一つない青空に吹く冷たい風。
そんな冬である事を忘れさせる程に活気溢れる魔法闘技場の舞台の上に、ドーンと構えたコンテナ厨房。
壁を開いてオープンにした開放的な厨房で、作るのはすいとん入りの温か鶏鍋。
会場に配る分は別に手配してあるけれど、お披露目なので一から作る工程を舞台上で見せる予定である。
しかし本日は私だけが作るのではなく、誰でも簡単に作れますよ、と言う事を知って頂く為に、助手さんにも作って頂く形になっている。
初のお料理教室お披露目バージョン。
袖を捲り、ドレスの上にエプロンも着けて、準備は万端!
『えーっと、今から鍋料理を作ります。これから先、皆さんの食卓にも沢山の料理が増える事を願って、まずは簡単に作れる鍋料理をお伝えしたく思います。そして、そんなお料理を手伝ってくれる助手さんを紹介します』
『魔王軍総務所属、竜舎のロマノスです!宜しくお願い致します!』
『魔王軍遠征隊、一番隊浄化班のジェイドです、宜しくお願い致しまーす』
『こっ…孤児院でお世話になってます!う、羽人のシャルです!よろしくお願いします!!』
そう会場に向かって敬礼しながら自己紹介をしてくれた3人。
くじ引きで当たりを引いたロマノスさんと、同じく当たりを引いた、何度か話した事はあるけれど名前は知らなかった白ローブさんのジェイドさん。
そして、子供でも作れるって事も伝わった方がいいのでは、と言う遠征隊の勧めで、急遽遠征隊の側に居たシャルちゃんに手伝って頂く形でお鍋を作って貰う。
因みに、会場へ来ている軍部の厨房さんはくじ引きが外れてガチで悔しがっていた。今は手にメモを持って身を乗り出さんばかりにこちらを見ているけれど、きっと皆にはもう作れるレシピだと思うのに勉強熱心。
そしてシャルちゃん、大舞台に引っ張り上げられた為か恥ずかしいのか、ほっぺが真っ赤で緊張した様子なのが普通に可愛い。
急で申し訳ないけれど、どうか頑張って頂きたい。
そんなシャルちゃんの様子に和みつつも、まずは料理を始めるその前に、3人にはしっかりお掃除魔法を掛けさせて頂いた。
『お料理する時に一番大切なのは衛生面です。必ず手を洗う等、汚れた状態ではなく、綺麗にしてから始めて下さい。 あ、食べる時も同じです。洗うのが無理でもせめて手は拭いてからにして下さいね』
3人にもエプロンを着けて頂き、恥ずかしくなると羽が広がるのか、髪の中の羽根がフワフワ広がってしまうシャルちゃんにはお料理中邪魔にならないよう三角巾を追加で着けながら、会場に向かってそうお願いしている私の声に、会場からは「はーい」といいお返事を頂いた。
うむ。コール&レスポンス。嬉しい。
そんな感じで始まったお料理教室。まず3人にはすいとんを練って頂く。
用意するのはボウル・小麦粉・塩少量・ぬるま湯。分量は大きな看板に書いて会場に見えるよう示してあるので、私が作るそれに習って3人にも同じ物を作って頂く。
『ボウルの中に小麦粉・塩を入れて軽く混ぜます。そしたら粉の真ん中に少し窪みを作って、そこに少しずつぬるま湯を入れて混ぜて下さい』
『姐さんちゃんと混ざりません!』
『最初はダマ……えーっと粉の中でぬるま湯で固まった部分と粉の部分が別れますが、そのまま混ぜ続けて頂いて大丈夫なので続けて下さい』
コンテナ厨房の前に出した作業台に並んで、私と同じくボウルの中で粉を混ぜる3人。因みにシャルちゃんは足元に箱を置いて高さを調整している。
そんな様子を珍しそうに見ている会場の人達。
対戦を見に来た人達に料理を見せると言う、何とも言えない感じではあるけれど、これが魔国の食事情改善の第一歩なのだ、めげずに行こう。
『ある程度混ざって来ると今度は手にくっつくようになって来ますが、粉の塊、生地を纏める感じで捏ね続けて下さい』
『ユリエ様、殆ど手にくっついていますが大丈夫でしょうか!』
『余り手につくようなら大雑把にでも生地を剥した後、手に軽く小麦粉をふってから再び捏ねて下さい。その内纏まって来ます。あ、けど魔国は寒いので、冷たいお水だとくっつきやすくなります、必ずぬるま湯で作って下さいね』
そう話しながら、捏ね方はこんな感じ、と生地をコネコネしながら同じく生地を捏ねる3人に教えているが、緊張しながらも頑張ってコネコネしているシャルちゃんが何とも可愛い。
『混ぜて捏ねたこれを生地と言いますが、この生地が纏まったら丸く形を整えて、お皿に乗せて涼しい所でしばらく寝かせる、あ、置いておいて下さい』
『お、お姉ちゃ…あ、えっと、ゆ、王妃様、ちゃんと丸く、出来ません…』
『ふふ、お姉ちゃんで大丈夫だよ?生地もまん丸じゃなくても大丈夫、それなりに纏まってたら平気』
そう笑うと、頬を染めて小さく「うん」と頷いた恥ずかしそうなシャルちゃん。うむ、料理する子供ってたまらなく可愛い。
『じゃあ次は、生地を寝かせる間にお鍋の方を用意します』
次作業台に出したのは魔導コンロと鍋。は、本当は土鍋を使いたい所だけれど、今回は一般的に使われているらしい寸胴鍋を使う。
後は材料に鶏の魔物肉・白菜・ニンジン・白ネギ・キノコ。と、出汁の元である固形キューブ。
本当はミズナとかも入れたいけれど、まだ軍部でも雑草扱いが抜けないミズナを使うのは少しハードルが高いので、残念ではあるけれど今回は却下。
鍋にはとうふも入れたいけれどニガリがないから作れない。やはりいつか海に行きたい。
そんな事を考えながらも作業を続ける。
『今回は4人分なので。これくらいのお鍋に半分程度お水を入れて、沸騰するまで待って下さい』
お鍋の良い所、それはある程度適当でも良い所。そうお鍋のお湯が沸騰するのを待つ間に各自の前に出した材料を切って頂く。
『鶏肉は一口大に、白菜は柔らかい葉の部分を一口程度の大きさに千切って、少し硬い芯の部分は薄くスライスして下さい。白ネギは大人の親指程度の大きさで斜め切り、ニンジンは好みですけど、今回は少し薄め、5ミリの厚さで輪切りにします。あ、キノコは房がある物は一口で食べられる程度の大きさで、椎茸なら傘の部分と軸の部分を切り離して、軸の下の黒くて硬い部分を切り取って使って下さい』
切り方のお手本をゆっくり、[料理]スキルで速くならないように見せながら3人にも切って貰うのだけど、皆切るのはめっちゃ早い。
斬る事にこなれておる…。
そんな間に沸騰したお湯。そして取り出したのは出汁キューブ。
『えー、これは料理の味付けをしてくれる出汁キューブです。今後国営の商業ギルド等、その他のお店でも調味料として販売予定ですし、お野菜もお安く手に入るようになりますので、お料理する際には是非使ってみて下さい』
そう説明していると、舞台の端で紙を掲げたロイ君からカンペが飛んで来た。
『あ…えーっと…、その、この調味料を量産するに当たって軍部で専門員の募集が始まっております。丁寧な作業が出来る方であれば戦闘力は問いません。角人さん等大歓迎です。詳しくは国営ギルドにお問い合わせ下さい』
その宣伝に、会場に居た角人さん達がザワッとして何人か立ち上がったけれど、とりあえずまた座った。
意外と猪突猛進な角人さん。多分お披露目戦の途中である事を忘れてギルドへ突撃しようとしたんだろうけど、ちゃんと留まってくれて良かった。
そんな告知を終えて再び料理に戻るけれど、お湯に出汁キューブを入れて最初に鶏肉、そして他の材料を入れてから蓋。火の通り難い物から入れるのが大事。
これで鍋の方は待つだけなので次は再びすいとん。
『お鍋の方はこれで待つだけです。待っている間に、さっき作ったすいとんの生地で仕上げをして行きますね』
別途で沸かしたお湯に、すいとんの生地を小さく千切って軽く丸め、真ん中を親指でギュッと凹ませては沸騰したお湯に投入。
それを真似する3人も、大きさがまちまちになりながらも同じようにすいとんを作っている。
『あ、これちょっと楽しい』
『この手触りは少し癖になりますね』
『ムニムニしてる…』
『皆お上手、すいとんが浮いて来たら掬って上げてね』
そうプカプカ浮いてくるすいとんを、今度は湯気を吹いている鶏鍋に投入してすいとん入り鶏鍋は完成である。
『あ、すいとんの注意点は、放置すると水分を吸って大変な事になるので、入れる時は食べる分だけにして下さいね』
最後の注意点を話しながら各自がお鍋にすいとんを投入するそこで、湯気と共に何ともいい匂いが上がって来るお鍋を覗き込みながら感動している3人。
涎が出そうになっているのでそこはこの場ではどうにか耐えて頂きたい。
『以上ですいとん入り鶏鍋は完成ですが、皆作ってみてどうだった?』
そう質問した私に、お鍋から視線を上げた3人が楽しそうに笑った。
『料理って肉焼くくらいしかした事なかったですけど、簡単でした。これなら遠征先でも作れそうです!』
『私も料理は初体験でしたが、これなら家族に食べさせてやれるので今から凄く楽しみです!』
白ローブさんのジェイドさんは是非ともご飯が足りない時にでも頑張って頂きたい。
そして罪作りな男ロマノスさん。そんなロマノスさんが会場に向かって手を振った先にはご家族がいらっしゃる。うむ、罪作りではあるけれど家族を大事にしてそうないい旦那さん。頑張って作ってあげて頂きたい。
『え、えっと…私も、孤児院の皆に作りたいです、あの、皆にも教えて、いいですか?』
最後にモジモジしているシャルちゃんが見上げて来るそれに、可愛いなぁと思うと笑顔になる私と同じくロマノスさんも凄い笑顔。きっと罪作りだが子供が好きなんだろう。
『うん、沢山の人が作って食べられるようになると嬉しいし、シャルちゃん教えるの大変かも知れないけど、皆にも教えてあげてくれる?』
そうお願いした私に、赤く染めた頬でとても嬉しそうに「うん!」と頷いたシャルちゃん。
うむ。子供、可愛い。
3人と私が作った料理の匂いがふわふわ立ち込める会場からは、涎を垂らさんばかりの視線が降って来るけれど、安心して欲しい、作って終わりではないのです。
『これですいとん入り鶏鍋は完成です。今後は食材も少しずつ増えると思いますし、魔国にももっと沢山の料理が増える事を願っています。そして今作ったこの料理は、今から皆さんの元にも同じ物がお手元に届くと思いますので、食べ終わった食器は階段横の返却口までお願いします』
そうアナウンスした私の声の中で、用意しておいた料理を軍部の人達が観客の皆さんに運んでくれて、大いに賑わう会場からは、手渡された料理を食べた人から沢山の言葉で美味しいが飛び交っていて笑顔になる。
これから魔国で、この美味しい声がもっと沢山広まればいいな、と思う料理のお披露目は、しっかりと宣伝も出来て無事に終わった。




