320 それは罪か悪戯か
まだお昼の鐘には少し早いけれど、会場はお昼ご飯一色。
鍋料理も受け入れられ、驚く顔、喜ぶ顔、沢山の美味しいと笑う笑顔が並んでいて幸せになる。
本当ならばおにぎりとかも一緒に出したい所ではあるけれど、人数も多いし、お米は街で売れる程には量がない。なのでまだ街の人にお米を出す訳にはいかないのが地味に残念。
しかし、それを見越してのすいとんだ。きっとそこそこ腹持ちもいいと思うので、モチモチ食感を楽しんで頂きたい。
私と一緒に鍋料理を作ってくれた3人のお料理も、軍部の皆と一緒に食べて貰っているので、会場の至る所では笑顔が溢れている。
が、そんな中、笑顔じゃないのはゴルゾレスタの皆さん。
お鍋のお披露目が終わり、1階まで迎えに来てくれていた魔王様と4階ロビーへ戻ったそこでは、苦笑しているご両親とアルムさんとジグルスさんの隣で、物凄く怒っているカウロスさんの前に正座させられているレイナさんとスイラさん。
うむ。やはり怒られていらっしゃる。
元々クールな表情を崩さない感じのカウロスさんが、更に冷気すら感じそうな視線を送る先では、視線を落して震えているレイナさんとスイラさん。
見事に怒られているんだろうと分かりやすいその場で、一度こちらに深く頭を下げたカウロスさんが、再び娘さん2人に向かって鋭い視線を向けた。
「…さて、王妃様もお戻りになった。お前たちの行った罪の内容を詳しく聞こう」
「…うっ………だ、だって…勝ったらお願い聞いて貰えるから…」
「お願い…聞いて欲しかったから…」
そう涙ぐんだ声で答えを返したレイナさんとスイラさんに、目を細めたカウロスさんのお怒りが更に増す。
「願いを聞いて欲しければ罪を犯してもよいと?終わりの監獄と呼ばれるゴルゾレスタの子であるお前達が、王妃様に対して罪を犯すと言う事がどう言う事か分かっているのか…!!」
そう怒気を含んだ声と同時にカウロスさんの周りの空間がピシリと歪んで音を立て、レイナさんとスイラさんがビクリと震える。
私的には罪と言うか失敗した悪巧みって程度の認識だったけれど、カウロスさん的には“罪”の領域。そして地味に気になるのは“終わりの監獄”って何だろうって事だ。
そんな質問を隣で同じく苦笑している魔王様にこっそり尋ねた所、魔国のでも罪を犯す人はいる訳で、その罪の重さで収監される先が変わるのだと教えてくれた。
労働によって罪を贖うのが“公正の監獄”と呼ばれるガルディナ。大抵の人はここに送られ、めっちゃ働かされる事で罪を償ってから出所する。
そして労働だけでは済まない場合。反省が必要な刑罰の場合に送られるのが“戒めの監獄”と呼ばれるエイラム。めっちゃ寒い牢獄で長い間労働を強いられる。
そして、一生を掛けて罪を償う場合に送られる先が“終わりの監獄”と呼ばれるゴルゾレスタ。
寿命が尽きるまで、空間魔法による牢獄に収監され、ここに入った人は一生出て来る事はない。
一番厳しい罪を裁く場所がゴルゾレスタ。なので、そのゴルゾレスタのお子さんが罪を犯すと言う事に対して、カウロスさんは物凄く怒っている。
三帝のお子さんである立場は考えていたけれど、ゴルゾレスタと言う場所の意味まで加味すると、確かに示しがつかないって言う所でカウロスさんのお怒り具合も納得ではある、が、レイナさんとスイラさんの反則を犯してまで叶えたかった、聞いて欲しかったお願いとは何だったんだろうか…。
そう疑問を抱いたそれは、父親であるカウロスさんのお怒りにプルプル震えて、目に一杯涙を溜めているレイナさんとスイラさんがワッと泣き出して叫ぶように言葉にした。
「だってパパが駄目って言うから!!!」
「パパがお願い聞いてくれないから!!!」
パパ…。
と思わず見てしまったカウロスさんが、娘からの呼び名に狼狽えながら一歩下がった。
「お…お前達…い、今、この場でその呼び名は…」
「パパがお願い聞いてくれてたらこんな事しなかったもん!!」
「パパが王城にお願いしてくれないから自分達でお願いしようって思ったんだもん!!!」
そう泣いている娘さんに、更に一歩後ろへよろめいたカウロスさんが、「パパ…」とプルプル震えながら笑いを耐えているジグルスさんとアルムさんをキッと睨んで何とか持ち直し、咳払いの後に息を整えてから泣いている娘さんに言葉を返した。
「……ま、まさか…お前達の願いとは砦に配給される食料の話か…まだその願いを諦めていなかったのか…」
「「諦められないの!お願いして!!今!パパからお願いして!!」」
「しない!!それは駄目だと何度言えば分かる!!三都市の軍と魔王軍は同列には立たんと説明しただろう!!」
「「いーやー!!してーー!!お願いしてぇーーーー!!!!」」
そうわんわん泣きながら床に転がって見事な駄々を捏ねだした2人に、カウロスさんが「やめなさい!!」と思いっきり焦っているが、確かにやめた方がいい。そんな短いスカートで足をバタバタさせたらパンツ…パンツが見える…。
そんな目の前の光景に、隣で同じくその場の行く末を見守っていた魔王様を見ると、ちゃんと両手で目を隠していたので安定の魔王様だ。
しかし砦の食料?と、思わず声を漏らした私と魔王様を振り返ったカウロスさんは、お疲れの増しそうな見事な困り顔。
そして大きな溜息を吐いたカウロスさんが唸るように頭を抱えて、教えてくれたのはレイナさんとスイラさんがカウロスさんに止められていたお願いの内容。
レイナさんとスイラさんが反則を犯してでも王城へ届けたかったお願い。それは自分達も結界砦で食べているご飯が食べたい!と言うお願いだった。
私が軍部の料理人さん達に教えたご飯は軍部の食堂で出されるけれど、今は同じ物が結界砦に常駐している衛兵隊の皆さんにも届けられている。
そんなご飯を、砦に遊びに行ったレイナさんとスイラさんはどうやら食べてしまったらしい。
そして2人は何度もそのご飯をゴルゾレスタにも届けて貰えるように、王城へお願いして欲しいとカウロスさんに頼んでいたけれど、魔王軍とゴルゾレスタは同じ扱いにはならないから駄目だと言われ、ずっと取り合って貰えなかったのだそうだ。
なので、このお披露目戦でどうにか勝って、そのお願いを聞いて貰おうと思っていた。と言うのがレイナさんとスイラさんの言い分。
「だって…あの味が忘れられないんだもん…」
「それに、パパが私達はお婿さん貰わないと駄目だから、魔王軍に行くのも駄目って言うんだもん…」
余りにもパンツが見えるのでハンカチを渡して仲裁に入った私に、涙に息を詰まらせながらも話してくれるレイナさんとスイラさんに私の顔には苦笑が浮かぶ。
ご飯…ご飯かぁ…。それはこっちの落ち度も大いにある。
「ごめんね、もっと早くに動けば良かったんだろうけど、そこに対しては今動いてる所で…三都市の軍部のご飯も、お披露目戦が終わったらそっちの料理人さんを呼んで、覚えて貰おうって話になってたの…対戦前に伝えておけば良かったね…」
そう話した私に、ポカンとした泣き顔を向けていた2人が、くしゃっと顔を歪ませてから再びワーと泣き出した。
「おじえでほじがっだーー!!!」
「わるいごどじでごめんなざいーーー!!!」
一拍おいてわんわん泣く2人を私が「ごめんねぇ」と苦笑しながら宥めていると、そんな様子に魔王様が苦悶の表情で頭を抱えるカウロスさんに軽く笑った。
「カウロス、今回の件はこちらの伝達が遅れた事にも問題があった、故に、許してやってはどうだろうか」
「……しかし、我が子は王妃様の晴れ舞台で反則等と言う汚い手を使ったのです…それを罰しなければ親としても三都市を預かる者としても立つ瀬が御座いません」
「うむ…しかし2人はまだ若い。親として叱る事は必要だろうが、罪に問うのは些か不憫だ」
そう苦笑する魔王様が私を見るそれに、私も頷いて言葉を続ける。
「ちゃんと御叱りも受けた訳ですし、反省もしているみたいなので、今回の事は悪戯と言う事でいいんじゃないでしょうか。幸い2人がやった事に気付いていたのはカウロスさんだけみたいでしたし」
「……本当に、宜しいのでしょうか…。王妃様に罪を働いた上、許し迄頂いてしまうのは……」
そうまだ許してもいいものか迷っている真面目なカウロスさんに、いつぞやのロイ君みたいだな、と思いながら私と魔王様が苦笑していると、そんなカウロスさんをお母さんがクスリと笑った。
「カウロス、ユリエちゃんだって許しているのだから許してあげなさいな」
「姉上まで…」
そう眉を潜めたカウロスさんにお母さんが「うふふ」と笑う。
「あなただって子供の頃、悪戯で監獄の魔法を壊した事もあるのだから、それに比べればレイナとスイラの悪戯は可愛い物でしょう?」
「なっ…あれは監獄の仕組みが気になって触っただけで…結局壊したのは姉上でしょう!!」
「あら、違うわよ。カウロスが時空魔法を改変したから壊れたんでしょう?」
「違います!姉上が【迷宮】で干渉したから壊れたのです!!」
と過去の悪戯…と言うには何だか物騒なワードで姉弟喧嘩を始めた2人に、お父さんが「まぁまぁ」と笑い、アルムさんとジグルスさんは「子供は元気な方がいい!」と豪快に笑っている。
とりあえずレイナさんとスイラさんの一件は、監獄送りな罪ではなく、ご飯が食べたかった子供の悪戯と言う事に落ち着いた。
けれど、悪戯にも罰はあるもので、転移魔法が使えるレイナさんとスイラさんには、現在人も物も運ぶのに忙しいレイ君の下で、労働と言う償いを行って貰っている。
「こき使ってやりますね!」とレイ君がとてもいい笑顔だった。
そんなこんなでこちらは見事に遅れたお昼、そろそろご飯にしようと思う。
お腹、ペコペコである。




