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22 お届け物

 食事を終えて魔道具のポットで2人分のハーブティーを入れる。魔力を通して魔石が光った瞬間に湯気が出てくるのが何とも楽しい。


 上がった湯気と一緒に、ハーブティーの爽やかな香りが綺麗になった部屋の中に広がって行くのは、なんともゆっくりな午後って感じの雰囲気がしてとてもいい。

 やっぱり掃除はいいな。最初は暗く感じていたこの部屋も、今や日曜日の晴れたお昼みたい。

 明るくて、開放的で、それでいてゆったりしている心地のいい場所。


 そんな中で魔王様は書類を作成している。

 開かれた窓からの風がそよぐ部屋の中に、どこか規則的なペンの走る音が妙に落ち着く。


 魔王様が使っているのはガラスペンのような細やかな細工が施された綺麗なペンで、インクもつけてないのに文字が書けるファンタジーガラスペン。そんな様子を不思議そうに見ていると、魔力を流すと魔力からインクが生成されて書けるようになるのだと教えてくれた。


 やはり色々な事を教えてくれる魔王様は、文字を書くのにほんの少し俯いた綺麗な顔に、銀の髪が微かな風にサラサラ揺れてとても綺麗。長い睫毛の影が瞳の輝きを遮るバランスが美しく、綺麗になった部屋の雰囲気にとてもしっくり来る魔王様になっている。


 そんな魔王様を鑑賞しながら私がハーブティーを魔王様の方に置くと、魔王様は書類に視線を落としたまま、慣れたように魔法でハーブティーを手前に移動させ、そして書き終わった書類をくるくる丸めて片手で振ると、魔王様の手の中から書類が消えた。


「手品みたい」


 魔王様が書類を書く姿が余りにも絵になっていて、思わず鑑賞してしまっていたが、ぼそっと漏れた私の感想に魔王様がここらを向いた。


「手品とは?」

「魔法みたいに見えるけど、魔法じゃない事?」


 そう言葉を返したが、同じく首を傾げた魔王様が「それは魔法でよいのでは?」と返して来て、「ですね」ってなるので魔法が当たり前の世界で、手品ってどう映るんだろうか。


 そんな些細な事でやっぱり違う世界なんだなぁなんて考えていると、お茶を飲んだ魔王様が書類の内容を教えてくれる。


「ユリエを清掃員として雇う事をロイに伝えておいた。詳しい話はまた後日ロイに会う機会にでも聞くといい」


 私と目が合うと柔らかく笑う魔王様は、窓からの光に照らされて、また絵から出て来たような印象を受けて鑑賞してしまいそうになる。けれど、今朝よりも全然近しい人に見える。

 色々話して心の距離も近付いたおかげだろうか。


「ロイ君ってレイ君の弟くんですよね?」

「ああ、魔国の運営に関しては私も目は通すが、基本ロイが全て管理している。城への雇用は軍部の扱いなので、そちらも報告しておかねば怒られる」

「全て…それは凄い」


 まだ見ぬ弟君が書類の山に埋もれる様子を想像し、勝手に同情をしてしまう。頭の中では未処理のデータに埋め尽くされたパソコンの画面が映っていて、やってもないのにちょっとゲッソリした。


「あ、そうだ」


 電子機器で思い出した。スマホを返さないと。

 また忘れるとこだったとポケットからスマホを取り出して、魔王様の方へと差し出すと、魔王様も思い出したようにそれを受け取った。


「すいません、昨日持って帰ってしまってました」

「ああ、大丈夫。しばらく借りると言ってある」

「それで[メモ]の事なんですが…」


 魔王様にメモの内容を大まかに伝え、一件ラブレターぽいのがあったので確認していないと言うと、そこに魔王様は大真面目な顔で頷いた。

 危ない、この顔はきっと読んでいたら、破廉恥な!を貰っていたところだろう。


 どうやって伝えるかに関しては、結局本人に知りたい内容や、紙に起こすか等を確認しようと言う事になったのだけど、その最後の方で魔王様が少し私を窺うように言葉を切り出した。


「もしユリエが大丈夫ならば、今から行くのはどうだろうか…。プリシラがユリエに会わせろと言っていたのだが……」

「そうなんですか?」

「うむ。ユリエが落ち着くまで、皆には無理に会おうとせぬように言ってあったのだが、プリシラは医師としてユリエを早々に診たいと言っていた」

「私は大丈夫ですけど、どこに行けばプリシラさんに会えますか?」


 このお城で私が知っているのは、来た時に辿った道と3階の一部くらい。なので場所を教えてもらわないとと考えていると、魔王様がどこか少しソワソワ視線を泳がせている。


「その…私も共に行ってもよいだろうか…? も、もしユリエに何か異変があるのなら、私も知っておきたいし…」

「私は有難いですが、魔王様のお時間は大丈夫ですか?」

「大丈夫だ!」




 嬉しそうな魔王様とお城を歩く。

 プリシラさんの居る場所はお城の1階にある医務室で、位置的には私の住んでる部屋の下の下。

 なので今は3階にある私の部屋の前を通り過ぎ、その奥にある階段を下へ下へと降りている。

 因みに、2メートル程先を魔王様が歩いている形だ。


 魔王様と歩きながら私がそろそろお城の皆さんに挨拶しないと、と言うと、別に1年くらいいいのでは?と返された。

 私がその間隔の長さに驚いていると、長命種は結構皆そんな感じらしく、魔族はまだ時間を守るけれど、エルフなんかは時間に対して頓着がなく、連絡しても10年くらい待たされる事もあるのだと魔王様が教えてくれた。

 さすがにそれは駄目だと思う、と魔王様は笑っているが、私は職場の先輩に1年後に初めましての挨拶をする感覚にも慣れそうにない。

 常識の擦り合わせが難しい。


 そんなお話をしながら階段を下りきって、少し廊下を進んだ先にある部屋の入口を魔王様がノックすると、中からは落ち着いた女性の声が聞こえて来た。


「居る」


 そうか、居るんだ。とは分かるものの、入っていいのか少し不安になる返答に、魔王様は気にせずそのままドアを開き、私に向かって笑顔で手招きをしている。


 手招きに応じて中へ入ったそこは、お薬のような消毒液のような、病院みたいな清潔な匂いがする。

 入って正面は全て外に出られそうな大きな窓が並んでいて、その間に結ばれた長いカーテンが点々と吊られている。廊下側の壁には大きい棚が並び、そんな棚には薬の入っていそうな瓶が沢山並んでいて、地震が起こったら大惨事になりそうだと思ってしまう。


 そんな部屋の一番奥には、カーテンで仕切られたベッドがあって、何故か一人が寛げそうな仕様に沢山のクッションが積まれているそこには、無造作に服も散乱しているので妙な生活感を窺わせるけれど、医務室と言われるその部屋は、イメージ的には学校の保健室を思わせた。


 そんな部屋の中央、書類の乗った机と丸椅子が2つ並ぶその1つに声の主は座っており、私の2メートル横を目を見開いて凝視している。


 無表情ながらも魔王様をガン見しているその人は、褐色肌に白金のボブカット。宝石のような綺麗な緑の瞳を、切れ目に見える長い睫毛に収めている。

 白に緑の大柄が入ったひざ丈のケープマントを羽織り、制服の黒いロングベストをミニワンピにして着ているそんなミニワンピから、すらりと伸びる細くて長い組まれた足に黒い編み上げブーツがとても魅力的な25・6歳くらいの女の人。

 髪の隙間から長い耳が見えているので、これはもしかして有名なエルフ様じゃなかろうか。


 なんて、見事に異世界っぽさを感じさせるその人は、開口一番魔王様をぶった切った。


「魔王。引き籠りはやめたのか」


 うん。やはり王様の扱い方は崩壊している。






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