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朱(あか)い荒野-4

数日後、完全に疲労感の抜けた拓真はテリーに連れられ再び外に出ていた


過程はどうあれ結果として『魔法はイメージ』という基本を叩き込まれた拓真だったが、武器を使っての訓練は全く行っていなかった



・・・武器とは言っても魔法の存在するこの世界に銃火器など存在するはずもなく、主に武器といえば剣を指すのが一般的である


稀に身体強化を軸として自らの体そのものを武器とするパワーファイターもいるにはいるのだが、彼の体格や能力からそれは少々無理があると判断したテリーが選んだのは前衛(ファイター)用として最も一般的な両手で振るうことが出来る両刃剣(ショートソード)であった


前衛としての素質を特に見出した訳ではなかったものの、集団に組み込まれるかどうかも分からない人間相手に自分自身が完全に専門外である弓士(アーチャー)盾役(ガードナー)などのような後衛の装備をさせるわけにはいかず、また扱いに慣れが必要な槍士(ランサー)にするだけの技量もなかったという理由もあったのだが



そしてまずは標的(ターゲット)を与えずに素振りさせようとしたのだが、ここで問題が発生した


そもそもテリーは他人に剣を教えるつもりが全くなかったため、彼以外の人間―――具体的には拓真の様な素人―――に扱わせることの出来る軽い模擬剣を持っていなかったのだ


かといって体格もパワーも大きな差があるテリー用の剣を素振りに使ったのでは扱いきれないどころか最悪体を壊す原因にもなってしまう



そこで目をつけたのがいざというときに売って資金とする為に確保していた細身の片刃剣(サーベル)であった


どう考えてもショートソードとサーベルでは当然扱い方に差があり、首などの急所を狙って勢いよく斬るということは出来ないが、素振りの代用としてなら然程問題にはならないと判断した他、そもそも木剣を持っていない上に適した木も自生していないという事情があったのだが



「まずは構えだ・・・と、言いたいところだがそんなものはどうでもいい

両手では少々持ち辛いだろうがそれも我慢しろ

まずは上段から振り下ろしてみろ、間違っても自分の体は斬るなよ?」



――――――――――――――――――



持ったこともない、長い片手剣をいきなり振れと言われた拓真は困惑した


儀礼用ではない為飾り気に乏しいが、その代わり実戦で何度も使う事を想定されたのが分かるシンプルな外観


長物を振り下ろすという動作の経験自体が殆どなく、家に刀剣類が飾ってあったこともない人間が持ってみてもなんとなく分かる作りのよさ



尤も、今は感想を求められているわけではない


この世界に飛ばされてきてから誰かが剣を振っている様子自体を見たことがなかった為、見よう見まねですらない素振りが始まった


一応、剣道の素振りなら映像でとはいえ見たことがあったが、そもそも実際に竹刀を振っていた訳ではなく、全く参考にならなかった


細かい点をテリーに指摘されながら、余分な力を抜けるように振っていた拓真だったが



「少し素振りを止めて待て、何かが来ている」


と明らかに何かを警戒している口調で止められた


そのままテリーが拓真の前を塞ぐようにして立った少し後、地響きと錯覚しそうなほどの足音を伴った土煙がやってきた


「こりゃ猪型の魔獣だな

一体一体は大して強くもないし、知能も低いが強化魔法を使いながら突っ込んでくるから真正面に立ってると弾き飛ばされるぞ」


「でもこのままだと家が!」


「落ち着け、誰が迎撃しないと言った

さっきも言ったように数は多くても避けるだけの頭がないんだ、魔法で数を減らすぞ」


そう言い終わらないうちにテリーの周囲の空間が歪むようにして大量の火の玉が出現した


それらは出現とほぼ同時に土煙に向かって飛んでいく


「何をしている?

的が向こうから勝手にやってきているんだ、撃てば当たる

それより喜べ、今夜は猪肉のパーティーだ!」


そんなことを言いながら大量の銃を用意して撃っているかのように次々に火の玉が命中しているはずだが、魔獣の数のほうが圧倒的に多いらしく、数が減っているようには見えない


とはいえ、そもそも明らかに戦い慣れているテリーのように魔法を大量に連射することは出来ないだろう



なので、数匹は纏めて吹き飛ばせるものを使うことにした


イメージ通りの魔法を発現させるための集中に時間が掛かるので威力を変えてもあまり時間に変わりはないし、何よりこれだけの魔獣を倒そうとすればどうしても放出される魔力は増えるのだ、消費魔力を気にする必要はない


時間にすれば僅か数秒の後、バレーボール大の青味がかった火の玉が出現し、魔獣の群れの真ん中に突き刺さった


色が変わったことで特に爆発の威力が上がったというようなことはないが、通常の火炎球(フレイムボール)なら軌道上の数匹を吹き飛ばすだけのところを、この青白い火炎球は殆ど溶かすようにして薙ぎ払った後、数匹をその爆発の中に呑み込んだ


「やるなぁ!

でも無理はするなよ!」



そうして何発か青い火炎球を撃った後、何処からともなく大剣を取り出したテリーが叫んだ


「今から俺が突っ込む、お前は討ち漏らして流れてきたのを撃て

討ち漏らしを見て術を構築するのは間に合わないだろうから、数発飛ばさずに自分の周りに留めておけ」


「分かりました!」


「その意気だ

行くぞ!」



そこからの変化は劇的だった


見ていて重さを感じさせない動きの剣があっという間に数匹の魔獣を切り伏せ、その剣の射程圏外を通ろうとしたものは突如として上がった火柱に呑み込まれる


そもそも、剣技とは思えない動きで剣が舞い、槍か何かのように自在に間合いを変えるのだ


言われた通りに火炎球数発を待機させていたのだが、たった一人の人間を抜くことができずに切り伏せられたり焼かれたりしたため、殆ど魔法を放つことなく辺りには再び静寂が訪れた



「こりゃ大漁だな、暫く肉には困らないかもしれん」


比較的状態が良く、食べられそうな魔獣の死骸を一方的な蹂躙と化した戦場から引き摺りながら帰ってきたテリー(と拓真)は今晩食べる分も含め、持ち帰った戦果を縄で縛って逆さ吊りにしていた


「結構な量ですね・・・ところで魔獣の肉は食べられるものなんですか?」


「お前だってその辺漂ってる魔力取り込んでるだろ、空気中から吸うのも肉と一緒に食べるのも大して変わらん」


返答になっているようななっていないような返事だが、この短い期間で何となく接し方を理解していた拓真は気にしないことにした



―――――――――――――――――――



「そうだ、明日お前さんの武器を調達しに行くぞ」


その晩、テーブルの上に山積みにされた肉を頬張りながらテリーが言った


「流石に武器にすら慣れてない人間にサーベル持たせて振らせるのは無理があるし、何より街の方が此処よりも多くの魔獣とか人相手の戦い方が学べるだろう」


「そうなんですか、分かりました

ところでここはどうするんですか?」


「どうせ他の人間は住んでいないんだ、魔獣対策さえしておけば問題はない

例え盗賊が来たって此処を俺の家と知っての狼籍だろう、返り討ちにするのなんざ朝飯前さ

それよりも今夜は速く寝たほうがいい、馬も車も無いから街までひとっ走りだ」


「因みに街まではどの位で・・・?」


「俺が休まず馬より速く駆けても尚一昼夜は掛かるな」


「・・・・・」



「・・・こりゃ体力を付けさせるほうが先だったか?」

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