朱(あか)い荒野-2
「さて、このまま外に・・・と言いたいんだが、このまま外に出たらお前は間違いなく死ぬ、まずはそこからだな
なに、多少魔法を使えるようになれば問題なく出られるようになるさ」
特殊能力についての簡単な説明を受けた後、ふと思い出したように言ったテリーの言葉に目を剥きかけた拓真だったが、続く言葉で納得する事になる
「ここが番外地域になってるのは説明したな・・・ここがそうなったのは魔獣の大量発生で放出された魔力が濃くなりすぎたのが原因だ
それなりに魔法が使えた連中や魔族なら問題なかったんだろうが、生憎ここは長らく魔獣の発生がなかったお陰で戦闘に不向きどころか碌に魔法も使えない人間が多く居てな
一部できるのも居たが、そいつらだけでは生活が成り立たなくてあえなく撤退よ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『魔法を使えるようにする為には先ず自分の魔力を感じることから始まるんだが、問題はその魔力が定着して間もないかのように安定していないことだな・・・出来るかどうかは分からんがとりあえず自分の内側に意識を集中させてみろ』
テリーにそう言われ少しの間集中していた拓真であったが、あっさり音を上げた
尤も、そうなる事は予想の範囲内だったようで
「今まで魔法なんて使ったことがない人間なんてそんなものだ、というわけで少し手荒な手段でやる・・・『魔力吸収』」
加減しているとはいえ、体の中からエネルギー(の一部)を吸い上げられている感覚に拓真が顔を顰めさせているのを見て
「流石にこうすれば大体魔力は感じられるな、ただ手荒なのはこれからが理由だ・・・拓真、その流れを絶ってみろ
流れさえ遮ることが出来るならイメージは壁でもドアでも何でもいい」
『そんな無茶な』と言いたいのは山々であったが、そんなことで止めてくれそうにないのは僅かな時間で察していた
故にやるしかなかった
彼の脳裏に浮かんだのは住居の壁やとびらのような脆い物ではなく、少し前にテレビか何かで見た、地下空間―――具体的には地下鉄道―――の浸水を防ぐための防水ゲートだった
それで体内から流れ出すものをせき止める感覚を―――
「もう成功したのか・・・思ってたより早いな
加減してたとはいえ、魔力量自体が少なかったからやばくなる前に止めるつもりだった・・・が既に限界寸前だ、とりあえず休め」
意識が沈む寸前、そんな言葉が聞こえた気がした
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
気が付いたときには拓真はソファ(?)の上に寝かされていた
「あれ・・・さっきまで」
「悪いな、気絶する前に止めるつもりだったんだが・・・それよりも、あれだけ出来るなら簡単なのはもう出来るはずだ
こういうのとかな」
そう言ってテリーは拓真の前に人差し指だけを立てた手を掲げ、その先に小さな火を出した
「これが灯火、火属性魔法で一番簡単で魔力の消耗も少ないモノだ・・・もう魔力も回復しているし、練習してもいいだろう
そうして制御できないと外に出られないからな
まずは指先に小さな火を出すイメージだ、多分一発で出来る」
首肯した拓真は指先を眼前まで持ち上げ
・・・殆ど間を置かずその指の先に小さな火の玉が出現した
「お、おう・・・思ったよりも早いな、やっぱり元から魔法が使えたんじゃないのか?
さっきまで不安定だった魔力が随分安定してきている」
「・・・多分、魔法が使えていたらここには居なかったと思うんですけど」
「流石に冗談だが、そう思いたくなるほどに習得が早い
ここまでイメージを具現化させやすいならすぐにでも外に出られそうだ」
「そういえば外は魔力が濃すぎるって言ってましたよね・・・どうすれば外に出られるんですか?」
「簡単だ、魔力を取り込んで自分のものにすればいい
そのまま取り込んだりしても自分の魔力と違って自由には扱えないが、自分に合う形に変えてしまうことさえ出来れば魔法が使い放題って訳よ
・・・問題は自分が起こす魔法と違ってイメージし難い事くらいだが、お前なら何とかなるだろう」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
手荒な方法、というものはまだ終わっていなかったらしい
体の中で何かが詰まっているような感覚の中、拓真が考えたのはそんなことだった
先ほど屋内で魔力吸収を使われた時や灯火を使った時の何かが出て行く感覚とは間逆の、大量に何かが流れ込んでくる感覚、自分では制御できない魔力が、掴もうとしては離れて流れていこうとする
「(落ち着け、さっきも流れを止めるイメージで動かせたんだ・・・なら!)」
今度は掴むのではなく、流れごと抱え込むイメージを頭に焼き付ける
膨大な量の魔力の奔流の中、何かを掴んだような気がした
「(これが『違う魔力』の感覚か・・・異質なものを取り込む
取り込むには・・・食事?)」
一瞬違うことを考えかけて口の中から唾液が溢れそうになったが、慌てて飲み込んだ
だが、拓真にとってはそれがある種のヒントになったようだ
「(そうか、体の中に取り込むならこの魔力を『食べて』しまえばいいのか!)」
すると、暫くして体の中で『何か』が詰まったような感覚は消え、代わりに体内を激しく流れる『何か』を感じるようになった
「(殆どノーヒントでここまで出来るか、魔力の扱いに関しては余程の適正があったと見える
・・・が、このままでは危険だな)」
拓真が外から取り込んだ魔力を『食べ』、自身の魔力に変えられたことに気が付いたテリーだったが、その流れの激しさから暴走を予感し、殆ど叫ぶように命じた
「拓真ッ!『それ』を吐き出せ!」
東洋の龍の如く、天に向かって昇っていく火炎の奔流を見たものが他に居なかった事だけは幸いか、慣れない膨大な量の魔力を図らずも行使することになった拓真は、再び意識を手放すことになった
勢い良く炭酸飲料を飲むと出る