新たな依頼?
「タクマ、力仕事は得意か?」
翌朝、先に起きていた様子のブルーノが唐突に尋ねてきた
首を横に振ると「・・・だよなぁ」の返事
「力仕事もOKなら魔獣狩り以外の仕事も出来そうなんだが・・・・・まあいいや、依頼の話じゃないから忘れてくれ」
仲介受付所に出向き、『丁度良い』依頼がないかとボードを見てみると荷馬車護衛系の依頼が増えていることに気が付いた
調査員の護衛を受けた前回とは違い、今日はリリーも一緒である
尤も、その事由は受注カウンターに出向いて話を聞くまでもなかったのだが
護衛依頼の備考欄には『盗賊との遭遇回数増加のため』と記されていた
「貴方方が今回依頼を受けてくださる方ですか、いやありがたい
私ら輸送商人にとってはほとほと困ったことに、ここ最近賊に出くわす事が増えてるんですわ」
護衛依頼を受注した一行を出迎えたのは、貴金属やら宝石やらで派手に装飾しているわけではないが恰幅の良さは隠しきれない男だ
彼も荷馬車を持ってはいるものの、経営者かその親族がそのまま御者を務める事が多いこの辺りではあまり見られない、多数の荷馬車を雇い御者に扱わせる純粋な経営者だそうだ
「とりあえず北方へ向かえるのなら細かい希望は無しと・・・ほんなら出発が最短なのはこれですわ」
目的地の希望と戦力を伝えると、妙に胡散臭い口調のまま指が机上の地図に記された道の上で止まる
その道を辿っていくとシクルスクという、ザパッドニーコーネッツに比べれば大きくはない街に辿り着くようだ
「基本は中型荷馬車2台の編成、需要次第で変わりはしますけど今は特別多い時期でもないんで基本のままですわ
護衛さえ決まれば明日の朝でも出せますんで・・・そうそう、顔合わせくらいはしておきましょうか」
こちらへ、と案内された先で2人の男が待っていた
経営者の男が紹介したうちの片方はまだ若さの残る顔立ちであり、もう片方は髪に白が混ざっている上に独特な雰囲気の所為かそれなりに歳を重ねているように見える
ただし荷馬車の御者としてはイヴァンの方が長く、ジャンカルロは魔獣狩りからの転職だそうだ
互いに握手していたブルーノとジャンカルロは何故かそのまま力比べを始めてしまったせいで商人としてはごく普通の挨拶をしたイヴァンの方が浮いて見える
尤も、そのイヴァンもグスタフも特に気にしている様子がない所為でリリーの表情が困惑のまま固まっている
・・・もし鏡が目の前にあったなら同じ表情をしているのが見えただろうが
少しして困惑の表情のまま固まっていることに気が付いたイヴァンが止めるまで力比べは続いた
「ジャン、そこまでにしておいたほうがいい
他の護衛が困っている」
「すまん、調子に乗りすぎた」
「良いですが備品壊したりしないようにしてくださいよ」
「話の途中で悪いんやけどイヴァン、荷物の積み込みは?」
「あ、もうほぼ完了です
後は直前に積み込むものだけですね」
「ほんなら明日朝には出せますな、お三方もそれで」
翌朝、早い時間に出発した馬車に一行は揺られていた
2台しかいない馬車の片方に3人とも乗り込む必要は無いだろう、ということで先を行くイヴァンの馬車にブルーノ、その後ろを走るジャンカルロの馬車に拓真とリリーが乗っている
主にジャンカルロの主張により当初は御者と護衛の組み合わせが逆になっていたが、イヴァンの反論にグスタフが賛成した為に今の組み合わせになった
昼頃までは何事もなく進んでいたのだが、休憩を終えて再び動きだした辺りからジャンカルロが周囲を気にし始める
拓真も薄々気付いていたので理由は訊かなかったが
「尾けられてるな、監視されるような事をした覚えはないが」
「いますね、さっきから木立の影に」
「えっ、誰がですか?」
・・・流石にリリーは気が付いていなかった
「盗賊、ですね?」
「だろうな、他に理由がない
今は荷物の積み込み量と護衛の人数確認の偵察って所だろうが、あのブルーノってのを外から見えるようにしていてもどうかって位の規模に見えるぞ」
討伐に出ている魔獣狩りなら兎も角、襲撃の偵察に出すにしては隠れている人数が多い
・・・尤も、それは拓真が気付くほど気配を消すのが下手な人間が多いということなのだが
「何というか、人数の割りにここまでお粗末だと相手するのも馬鹿馬鹿しいな
かといって先制攻撃で送り込むほど人員に余裕があるわけでもなしと
とりあえず様子見するしかないか・・・」
御者の座に収まってはいるが、魔獣狩りらしい血の気の多さはあまり収まってはいないようだ
近くに人の気配があるそのままの状態で馬車は走り続けていたが、暫くすると街道の途中の特に広くもなっていない場所で前を走るイヴァンの馬車が止まった
「どうせ丸太でも置かれたんだろう、ある意味望んだ状況だから迎撃準備でもしておこうか」
ジャンカルロの獰猛な笑みを見たリリーが若干引いていたが、当人は全く気にしていなさそうだ
馬車が止まるのとほぼ同時に複数の人の気配が近付き、同時に気配と同じくらいの数の足音が聞こえ始めた
しかしながら、その姿が見えるようになると揃って呆れることになる
体格などから男なのは分かるが包帯のように細い布を頭に巻き付けて顔を隠している上、太い木の枝を削っただけの棍棒やらロクに手入れもしていなかったような錆びて刃こぼれしている剣などで武装しているのが十数人で2台の荷馬車を取り囲んでいるわけである
「・・・・・俺らは知能も技術も無いタイプの魔族か大道芸人でも見ているのか?」
ジャンカルロのその言葉がその場に居合わせた者全てに抱かせる感想だった
前の馬車から大柄で筋肉質な上に明らかに重そうな戦鎚を持ったブルーノが、後ろの馬車からは御者にしては随分筋肉質で戦闘慣れしていそうなジャンカルロと細身ではあるが大柄な2人と共に立っていてもかき消されない程度の存在感はある拓真が降りた時点で既に取り囲んでいた男達の内の数人は既に腰が引けている
「で、盗賊だと言うならこの場で締めて近くの街まで連行していくが?」
武装していたはずの男達は戦闘することもなくあっさり白旗を揚げた
「・・・どうしてこんなことに?」
盗賊の真似事をしていた男達が近くにあるという小屋まで同行し質問が始まった・・・のだが
当初は質問に中々答えなかったその男達はブルーノとジャンカルロが威圧し始めた途端に白状した
男達は近くの村の農民であること、降雨量の減少から来る慢性的な水不足により地域の特産になっている作物があまり育たなくなっている上に周囲の村も似たような状態であるために収入源が減り、蓄えも尽きそうなことなど
因みに威圧というのは例えば怒鳴るなどの大きい音を出したり胸倉を掴んだりしたというわけではなく、全身から闘気を放ちつつ前傾姿勢のまま両の拳を正面で合わせ腕と胸の筋肉を隆起させるあのポーズをしただけである
服を脱いで直接筋肉を見せつけてこなかっただけマシだったのだろうが、正直精神衛生的にあまり宜しいことではない
「他の土地に移るってのは出来なかったのか?」
「俺達の主な収入源はあれなんだよ
しかもこの辺りじゃないと育たないらしくて、他の土地では成功したためしがない
だからと言って俺達がここを捨てて余所に移ったところで受け入れて貰える保証もないしな」
話を聞いたイヴァンと目が合ったが、黙って首を振る
今この場で一番魔法を扱えるのは拓真かもしれないが、その当人でさえ手に余ると思っているのだ
「近くに水場はないのか
川でなくてもいい、湖とかは?」
「川から引いた水を蓄えておくため池や少し離れたところの湖もあるにはある
ただ、ここ数年はその水も泥が混ざったように汚れてしまって使えないんだ
普段使うような水はまだ井戸水が汚れていないからなんとかなってはいるが・・・」
何故か今度はリリーと目が合った
「ただ解決の為の手助けをしようにも今すぐって訳には行かないな
こっちは街まで荷物運ばなきゃならん」
そこで今度は何故かジャンカルロが拓真の方を向いた
「と、いうわけで今回の護衛依頼が済んだらここに戻ってきた方が良いぞ」
・・・いい笑顔にサムズアップのおまけ付きで




