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僕と遊園地と友人の知人8



『さてさて、これより第3回アスレチックレースを開催します! 今回は総勢30組のエントリーがありました! みなさん、優勝目指して頑張って下さい!』



 特設の壇上の司会者の言葉におーっ、とまきるや他のノリの良い参加者が声を上げる。比較的同年代が多いが、それこそ小学生より小さい組もいれば、良い大人が真剣に勝ちを狙っている組もいる。

 現在、全ての参加者は1カ所にまとめられている。他のみんなもちらほら見えるが、現在は敵同士のため話したりはしない。


 しっかり運動用の服を着て真剣な表情の男性。何を思ったかスカートを履いたままの派手な女性。多種多様な人達を見ながら僕はため息をついた。



「はあ、意外にみんなやる気なんだな。こっちは思い通りに行かなくてブルーなのに」


「道隆、なにぶつぶつ言ってるんだい。ほら、これゼッケンだって。よし、なんか燃えてきた。絶対あの馬鹿に勝ってやるからねっ」



 亜希から腕に付けるタイプのゼッケンを受け取る。番号は17番。亜希の持つゼッケンにも同じ番号が書いてあり、これでペアを識別するらしい。

 亜希は自分にゼッケンを付け腕を組んだ。標準より大きめの胸が強調される。



「何を悩んでるかは知らないけど、とりあえずはこのレースを頑張ろうじゃないか。終わったらあたしから何かあげるから、今はこっちに集中してくれないかい?」


「…………そうだな、了解。せっかく参加するんだ。どうせなら準優勝くらいは狙うか」


「ははっ、その意気だよ。でも男なら準優勝なんてちっちゃい事言わないで、優勝を狙っていくべきさ。あたしと道隆ならいけるに決まってるよっ」



 そう言って快活に笑う亜希。根っからの姉御肌で、さらに熱血が好きらしい。


 たまには熱血も悪くない。晃と亜希の事は置いて、とにかく勝ちますか。


 僕は返事のかわりにゼッケンを付けた。





『みなさん、ゼッケンをお付けになられましたか? それでは競技の説明をしたいと思います! こちらをご覧下さい』



 スタッフが大きなパネルを持って来る。そこには大きな文字でこう書かれていた。


『第一ステージは2人の絆を試す時! 惑星連結障害物競走!~宇宙そらに届け~』


「ここのスタッフのネーミングセンスが晃並なのは分かった」



 僕の小声のツッコミが司会者に聞こえるはずもなく、説明は続く。



『はい、第一ステージは障害物競走です! みなさんにはこのアスレチック、スペースフィールドの一部を使ったコースを走って貰います。ただし、ペア同士の手首と手首を紐で繋いで頂きます。繋ぐ手はどちらでも構いません』



 そう司会者が言い終わると、直ぐに紐がスタッフから手渡された。ただその紐はえらく細い。力を込めれば千切れてしまいそうだ。



『はい、行き渡りましたね。見ての通りこの紐は力を込めれば千切れる程度の強度になっています。ルールは簡単、スタートの合図で競技開始。その紐をちぎらずにゴールした方、先着15組に次のステージの挑戦権が与えられます。尚、妨害行為等は禁止ですので、見つけ次第そのペアは退場、とさせて頂きます。お気をつけ下さい。ご質問等は御座いますか?』



 はいはーい、とまきるの元気な声がした。



「もし、15組がゴール出来ないで、他の人達がみんな紐を切っちゃったらどうなるんですかーっ?」


『はい、良い質問ですね。その場合はよりゴールに近い場所で紐を切ってしまった方から、繰り上げで次のステージへの挑戦権が与えられます。ですので、急がずに周りの自滅を待ちゆっくり進むもよし、とにかく急いで他の方より先にゴールするもよし。子供や年配の方にも充分勝機のあるルールになっています』



 なるほど。つまり最初の選択で勝ち負けはの可能性は大きく変わるらしい。ゆっくり行くか、危険をおかして急いで行くか。



『ではこれより5分後に競技を始めたいと思います。5分後にはまたこの場所にお集まり頂きますよう宜しくお願い致します。紐がちぎれてしまった、という方は近くの係員に申し付け下さい。では、5分後にまた会いましょう!』



 そう言って司会者は壇上から降りた。

 腕を組んだままの亜希に話しかける。



「さて、どうする? 急ぐか、ゆっくりか」


「そんなのは決まってるさ」



 亜希は余裕の表情で紐をくるくる、と回した。





『みなさん準備は出来ましたね! 進む方法は矢印の通り、道中はほぼ一直線なので迷う事は無いと思います! それでは、これより第一ステージを始めます! …………3・2・1・スタート!』



 司会者の言葉と同時に笛の音が鳴り響く。一斉に動き出す団体。その中で僕達は……。



「む、道隆。行かなくて良いのか?」


「そう言う晃こそ、運動得意だろ? 進んで自滅してくれよ」



 同じく動かなかった晃とまきるのペアと軽口を言い合う。


――そう、僕達は動かない事を選択した。



『おっと? 動かないペアが2組居ますね。まあそれも作戦の内でしょう。観客の皆さんはこちらのモニターでご覧下さい』



 壇上の大きなモニターに先頭集団の映像が流れる。結構豪華な設備だ。


 それなりに居る観客席から、どよめきが溢れた。



『何という事でしょう! 暫定1位はゼッケン16番、ナイスミドルを背負った小さな可愛らしい女の子ですっ! いや、そりゃ背負えば紐は千切れ無いですが…………おっと、ここでこのペアの情報です…………』



 司会者の声が途切れた。え、これマジ?、とマイクが小さく拾っている。

 ごほん、と咳をして司会者は喋り出した。



『えー、にわかに信じがたいのですが、この2人は夫婦だそうです! しかも同い年だとか! このロリコンパパめっ! 羨ましいぞこの野郎! 俺にもあの胸を』



 マイクの音が途切れた。司会者の人が責任者らしき人に怒られている。

 怒られて終わった司会者がスタッフから耳打ちを受けた。



『はい、今入った情報では、1位はあのロリ……失礼、ゼッケン16番のペアが圧倒的な強さでゴール。他は未だ途中のアスレチックで苦戦しているようです。尚、現在までに紐が千切れたペアは16組。既に繰り上げが確定しています。思ったより紐が千切れやすいのと、集団で走ったためにアクシデントが頻発した模様です』



 亜希はそれを聞いて満足そうに頷いた。



「さて道隆、行くかね。遅れた分を取り戻そう」


「分かった、しかし良くこうなるのが予想出来たな」


「あの位の紐だとね、腕だけで引っ張って力が必要でも、人と人が別々に体重をかけたらあっさり千切れるのさ。さらに周りとぶつからないよう走る、なんて事になったらそこまで気が回らないのが普通だよ。まあ一か八かだった、っていうのは否定しないけどね」


「結果が良ければそれで良いさ」



 その作戦で僕達は出遅れこそしたものの、後はゴールさえすれば確実に勝利出来る、という圧倒的優位に立った。

 僕達は紐を切らないよう気を付けて、悠々と歩きだした。

 後ろで晃達も歩き始める。



「凄いねっ。本当に周防君の言うとおりになったよ」


「なあに、少し考えれば分かる事だ。あの女と一緒の作戦、というのが気に食わないがな」


「もう、あの女とか言わないのっ。ほら、亜希ちゃん、って言ってみて?」


「あ、あきああき……。向島さん、悪かったからそれは勘弁してくれ……」



 最後尾の僕達は何とも呑気である。


 こうして第1ステージは危なげなく通過した。




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