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僕と遊園地と友人の知人7


「まあまあだったな。期待未満、平凡以上といったところか」


「まったく、おまえの神経は異常だぞ」



 晃と2人で『マースアタッカー』から少し離れたベンチに座って話している。女性2人は近くのアイスクリーム屋に行く、と言ってさっさと行ってしまった。



「そうか? 道隆とあいつが弱いだけだろう。向島さんも、もの足りなさそうだったしな」


「いや、まきるも異常だ。3年くらい前に来たときも絶叫系メインで廻ったけど、結局悲鳴は上げなかったし」



 未だに目線を上げれば見えてくる僕達がさっきまでいた巨大な建造物。それを遠目で見ながら晃に言う。



「そういえば、晃。まきると普通に話せるようになったな。遂に緊張しなくなったか?」


「む、そういえば今日は初めから緊張しなかったな。ここに来て俺は限界を突破したかもしれん」



 晃もようやくまきるに慣れたか、と嬉しいような寂しいような複雑な気持ちになっていると、人の合間を縫ってまきるが見えた。器用に両手にアイスを持っている。



「おまたせー。はい、アイスクリームだよっ。道隆君はこれっ」



 僕はピンク色のアイスクリームを受け取る。いちご味だ。

 僕はまきるに訊く。



「まきる、亜希はどうしたんだ? 一緒に行っただろ」


「んー、お手洗いだって。周防君はこっちねっ」



 はいっ、と言ってまきるは晃に緑色のアイスクリームを渡した。僅かに手と手が触れ合う。



「ありがとう、向島さん。美味しく頂かせてもらう」



 そう言って晃は僕のアイスクリームにかぶりついた。



「もぐもぐ……ごくん。ふう、抹茶味おいしいです」


「おい晃、何で僕のアイスを食べてるんだ?」


「…………はっ!? お、おかしいな。じ、自分のアイスを食べたと思ったら、いつのまにか道隆のアイスを食べていた。ち、超スピードだとか催眠術だとか、そんなチャチなもんじゃない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わった…………」


「いや、僕はおまえが恐ろしい。僕のアイスはいちごだし」



 あれ、と言って自分の綺麗なままのアイスと、僕の無惨にも3分の1ほど欠けたアイスを見比べる晃。綺麗な歯形だ。

 自分の分のピンク色のアイスを舐めていたまきるが言う。



「もうっ、人のものを食べちゃダメだよっ!仕方ないなぁ」



 はい、と言ってまきるは自分のアイスを僕に差し出す。



「道隆君はいちご味だったよね? ちょっと食べちゃったけど、ほとんど減ってないからこれ食べて良いよっ。あたしが抹茶味食べるから」


「いや、僕も別に抹茶で良いから、晃の分を貰うよ」


「でも、いちご味が良かったんじゃないの?」


「いや、亜希とちょっと約束してただけだ。そんな重要な約束でも無いし、亜希も気にしないだろ」



 それなら良いけど、と言ってアイスを引っ込めるまきる。まだ自分が何をしたか理解出来ていない晃から、僕は抹茶味のアイスを奪った。



「ほれ。というわけで、こっちがおまえの分な」


「あ、ああ。……悪かった。今になって緊張してきたようだ。て、手が震えてきた……」



 手と手が触れたのがいけなかったのかな、と思いながら抹茶味のアイスを食べる。普段あまり抹茶味は選ばないが、たまには良いな。

 震えるピンク色のアイスに晃が苦戦していると、向こうから歩いて来る亜希が見えた。大柄なおかげで分かりやすい。



「おまたせ。まきる、あたしの分のアイスまで持たせてすまないね」


「ううん、良いよっ。はいっ、これが亜希ちゃんの分」



 自分のアイスを持っている方とは逆の手で、亜希にアイスを差し出すまきる。ありがと、と言って亜希は受け取った。



「んっ、やっぱりアイスはいちごだね。道隆、そう思わないかい?……あれ、なんで抹茶になってるのさ?」


「いや、さっき晃がいきなり僕のアイスを食べてな。仕方ないから晃の分と交換したんだ」



 はあ、と亜希はため息をついて晃を見た。



「まったく、何やってんだい。常識ってものが無いね、あんたは」


「ぐっ……! き、貴様こそいちご味なんぞ似合わないものを食べているじゃないかっ。そういうのは向島さんのような可愛らしい女性が食べてこそ輝くのだ!」


「べ、別にいちごが好きだって良いだろっ? そりゃあたしは可愛げが無いけど、あんたの暴走癖よりましさ!」


「なんだとっ」


「なにさっ」



 ちびちびアイスを舐めるまきるをちらりと見た後、ベンチに座ったままの晃を睨んで亜希は言う。



「晃、あんたとは一度決着を着けるべきだね」


「ほほう、奇遇だな。俺も同じ事を考えていた」



 風が吹く。両方動かない。巻き込まれるのも嫌なので、ベンチから立ち上がってまきるの近くに立った。



「止めなくて良いのか?」


「うーん、多分大丈夫だと思うよ」



 まきるは小さな舌を出してアイスを舐めた。



「だって、周防君ってあたしと話してる時より、亜希ちゃんと話してる方が楽しそうだもん。初めは道隆君が言ってたみたいに反抗期なのかな、って思ったけど、何だかそれとはちょっと違う気がする。喧嘩仲間、みたいな」



 よく見たら晃の震えも止まっている。 僕はアイスを一口かじった。



「じゃあ、アスレチックレースは止めとくか? このままでも仲良いんだろ?」


「それとこれとは別だよっ! どうせならもっと仲良くして欲しいし、アスレチックレース自体が結構楽しみだしっ」


「そうか。まあ僕は2人にドキワクイベントが起きて、またデレ合ってくれたらそれで良いんだけどな」


「ドキワク? デレ?」


「ああ、こっちの話だ。うん、抹茶も美味いな。癖になる」



 えーあたしもひとくちー、と言うまきるにアイスを差し出す。ばくり、と遠慮なく食べるまきる。さっきの晃ばりに食べやがった。少しは遠慮しろ。

 晃と亜希はまるで武術の達人同士の試合のように動かない。何をはかっているのだろう、と考えていると、向こうから歩いてくる豊かな金髪が見えた。胸にニアを抱えた翔子さんだ。



「おう、こんな所にいたのかよ。探したじゃねえか」


「あ、翔子さん。すみません。すぐに連絡するつもりだったんですけど、なんか変な方向に話がいってて」



 ああ?、と晃と亜希を見る翔子さん。まきるは口の中のアイスを飲み込んで言った。



「ふぅ。えっとね、とりあえず2人は勝負がしたいらしいんだっ。あっでも、アスレチックレースは2人に組んで欲しいから、お母さんもそうなるように手伝ってね」



 まきるは近くのポスターを指差した。

 翔子さんはそれを見る。



「ああ、これか。あーと、何時からだったっけ」



 翔子さんの腕の中のニアが言う。



「真ん中より下辺りに書いてあるぞ。丁度賞品の下辺りだな」


「お、これ……か……?」


「翔子?」


 突然押し黙った翔子さん。視線の先は開催時刻より少し上。僕も近くに行って見てみる。



「ええと、なになに。優勝者には年間フリーパス。準優勝者には特製のジョセフ君の特大ぬいぐるみをプレゼントします、か。」



 文字の隣には年間フリーパスらしきチケットと黒猫のぬいぐるみの写真が載っていた。どうやらこの黒猫がジョセフ君らしい。偶然にも今のニアの格好に似ている。



「翔子さん、どうしました? ぬいぐるみでも欲しくなりましたか?」


「…………これとニアを並べたら…………一家に一匹……二組とも上位になれば……」


「翔子さん?」



 ぶつぶつと独り言をこぼす翔子さん。その幼く見えるおっきな瞳は真剣そのものだ。

 まだ睨み合っている亜希と晃。ポスターの前から動かない翔子さん。

 アイスを口元に苦笑いをするまきると目が合い、僕はため息を吐いていると、おじさんがやってきた。



「おーい。そろそろアスレチックに行かないとまずいんじゃないかい? 翔子さん、私達は見る側だから場所を探しに行かないと」


「光太郎」



 翔子さんは振り向き、おじさんの前まで歩いた。おじさんは背が高い方なので、身長差がかなりある。


 必然的に翔子さんはニアを胸に抱き、憧れのお兄さんに秘密を打ち明ける女の子さながらの体制で言った。



「あ、あたし達も出ないか? その、光太郎は出たくないと思うけど、ほら、い、一緒に出たくなったんだ。た、たまには良いだろっ?」



 おじさんはふらり、と数歩後退りした。そして、片膝をつき宣誓する騎士のような力強さで言った。



「翔子さん。今まで私が翔子さんの頼みをノーと言った事があるかい? 答えはノーだ。向島光太郎、君に永遠の愛と完全なる勝利を捧げる事を誓うよ」



 あ、ありがとよ、と言って顔を伏せる翔子さん。とても1児の母とは思えない反応だ。

 そのいちご味のアイスより甘い空間から、ニアが人目も気にせず飛び出して僕の腕の中に飛び込んできた。



「み、道隆。流石にこれは不可抗力だよな? あれ以上あの空間に居たら、私の毛並みもピンク色になってしまうところだった」


「ああ、今のは仕方ない。おまえは悪くないぞ」


「ごめんね、ニアちゃん。お母さん達って家でもしょっちゅうあんな感じだから……」



 すまなさそうにまきるはそう言って、最後の一口を食べ終えた。



「よしっ、じゃあ、あたしは2人に組んでもらうように説得してくるねっ。道隆君はあたしとコンビだよっ」



 晃達へ駆け寄るまきるを見ながら僕はニアに話しかけた。



「ニア、結局翔子さんは何であんなにやる気になったんだ? 出ない予定だったんだろ?」


「ああ、ここに来るまではそういう話だったんだかな。ポスターの準優勝の賞品を見て気が変わったらしい。多分、優勝を狙うと見せかけて準優勝を狙ってくるぞ」



 準優勝の賞品、大きな黒猫のぬいぐるみのジョセフ君を思い出す。あれが欲しくて出場するらしい。なんというか、翔子さんらしくて微笑ましい。素直にそれが欲しくて出る、と言わないあたりが。

 僕は腕の中のニアを抱き直す。



「まあ、僕達は優勝とか賞品とかは関係ない。いかにして晃と亜希にハートフルイベントを起こさせるか。僕達の目的はこれだけだ」


「ふふっ、そうだな。私もちょっとあのぬいぐるみが欲しい気がしないでもないが、今回はそれが第1だ」


「なんだ、あれが欲しいのか? ついでだし狙ってみるか。まきるとコンビなら結構良いところを狙えると思うし」


「おおっ! 良いのかっ? では私も及ばずながらサポートしよう。どこまで役に立つかはわからないが」



 頼りにするぞ、とニアと笑い合う。流石にアスレチックレースにニアの出番は無いだろう。気持ちだけ受け取っておく。

 そろそろ行かないと本格的にマズいな、と思いながら携帯で時間を確認していると、まきるが困った表情でこっちに戻って来た。



「み、道隆君っ。亜希ちゃんと周防君、思ったよりヒートアップしてて『こいつと組むなら出ない』って言って聞かないよっ。ど、どうしよう」


「どうもこうも……どうしようか。まあ、強制的にくっつけたら後は勝手にデレ……いや、仲良くするだろ。とりあえず時間が無いから行くぞ」



 僕はみんなに早く動き出さないと遅れる旨を伝えようとすると、僕より少し高い位置から肩に手が回された。同時に男には絶対に無い柔らかな感触を左腕の付け根辺りに感じる。



「さあ、道隆。あたしと一緒に優勝目指そうじゃないか。なに、最悪あの馬鹿に勝てれば、あたしから豪華賞品を進呈するよ」


「あ、亜希? ち、ちょい待てっ。なにがどうなってそうなったっ」


「ん、簡単な話さ」


 耳元で亜希の女性にしては低めの声が聞こえる。慣れない香水の僅かな香りと体温。



「勝負はアスレチックレースで、ってね」



 あ、あたしの完璧な計画がーっ、とまきるの声が聞こえた。



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