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僕と遊園地と友人の知人4



「こっちこっちっ!早く行こうよっ!」


「まきる、そんなに急かすなよ。別に逃げたりしないんだから。」


「道隆、施設は逃げなくても私の魂が早く行けと言ってるんだっ。ほらほらっ。」



 はいはい、と騒がしい2人に生返事を返す。まきるの『宇宙を体験する』発言にニアの興奮もマックスだ。

 僕は今にも走ろうとするまきるをなだめる。



「大体、まきるは前に来た時も見ただろ?しかも何度も。」


「それでも好きなのっ!久しぶりだから凄い楽しみっ。」



 まきるはそう言って前方に見えてきた大きめの扉を指す。



「あっ、見えて来たよっ。」


「おおっ!………一体どんなスペクタクルが私を待ち受けているんだ?」


「ニア、あんまり期待し過ぎるなよ?体験なんて言ったって、無重力になるとかそういうんじゃ無いからな。」



 ニアは腕の中で身じろぎした。



「そのくらいは分かってるさ。でもこういう場所に来るのは本当に初めてなんだ。ちょっとくらい期待したって罰は当たらないだろう?」



 まあそうだな、と謝罪の気持ちを少しだけ込めて僕は言った。せっかくニアだって喜んでいるんだ。変に斜に構えず純粋に楽しもう。何たってここは遊園地何だから。

 そう遠くはなかった大きめの扉に辿り着く。その扉を開ける。すると目の前に少しの空間ともう一つの扉が出てくる。中に入り大きめの扉を閉めると、完全な暗闇が僕達を包んだ。

 ここなら大丈夫かな、と思いニアの頭の被り物を手探りで外してやる。



「道隆、大丈夫なのか?」


「ここは暗いから大丈夫だろ。こんなもの被ってたらここは楽しめないからな。」



 進むべき扉の近くで待っているらしいまきるが楽しそうな声で言う。



「用意出来た?じゃあ、いくよっ。」



 まきるがその扉を開ける。暗闇に差し込む薄い光の中に進むと、ニアは声を上げた。



「おお………素晴らしいな………。」



 一面に広がるのは宇宙だった。小さな光がほぼ360度に散りばめられ、まるで自分が地球の視点に立ったような錯覚に陥ってしまう。全体が球状の大きな部屋の中ほどまで通路が延びており、その先には座ることの出来る空間がある。手すりから顔を出して見下ろしても、やはりそこには星の海が広がっていた。

 遠近感の無い、手を伸ばせば届きそうな人工の星達を見ながら、僕達は足下の青い光で存在がやっと分かる通路をゆっくり進んだ。


 ぼんやりと見えるまきるが、静かな空気を壊さないように言う。



「ほら、ニアちゃん。ほんとに宇宙に来たみたいじゃない?」


「ああ、道隆は期待するな、なんて言ったが想像以上だ。」



 通路の行き止まり部屋の中心部には座れるスペースがある。呆気なく辿り着いた僕はそこに腰を下ろしてニアを隣に置いた。



「ニア、まだまだアトラクションはあるんだ。これ位で驚いてたら持たないぞ?」


「そうか、それは楽しみだ!」



 でも、とニアは続けた。



「初めての遊園地の、初めての場所がここで良かったよ。」



 そうか、と僕が返すとニアは周りを見るために地面に降りた。暗闇に慣れた目でも黒猫は見にくい。幸い他に客はいないが、入って来ても見つかる事は無いだろう。

 そんな事を思っていると、まきるが僕の隣に座った。



「やっぱりここは良い場所だよ。あたしはここが一番好きかなっ。」


「この遊園地で?」


「うんっ。」



 隣に居てもはっきりとまきるの姿は見えない。それでも本当にまきるは楽しんでいるんだな、というのは分かった。

 星座の名前なんて知らないが適当にあれが北斗七星か、と考えていると、まきるが肩をつついてきた。



「なんだ、どうかしたか?」


「いや、どうかしたっていうか…………。」



 少しの逡巡の後、こほん、とまきるはわざとらしく咳をして言った。



「道隆君、亜希ちゃんと周防君ってどう思う?」


「どう思うって…………どういう事だ?」


「それはっ………………その、付き合ったりしてるのかなぁとか、そういう事だよっ。」



 まきるの口からそんな話題が出たことに僕は驚きを隠せなかった。



「おいおい、まきるがそんな話題を振ってくるなんて珍しいな。悪い物でも食べたか?」


「もうっ、あたしだって、たまにはそういう話をしても良いじゃないっ!お年頃だよっ?」


「はっ、『付き合うってよく分からない』なんて言うやつのどこがお年頃だよ。」


「は、鼻で笑われた!…………うう、あたしってやっぱりそんなキャラなのかな……。」



 そう言って落ち込み始めるまきる。何があったのかは知らないが、こいつも人並みに思うところがあるんだろう。

 仕方ないので、僕は話題を戻す事にした。



「んで、亜希と晃だっけ?別に付き合って無いんじゃないか?そんな風にも見えないし。」


「えー、そうなの?お似合いだと思うんだけどなー。」



 落ち込みかけた事など忘れたように話に食いつくまきる。単純なやつだ。

 僕は電車内の2人を思い出しながら言う。



「まあ、お似合いと言えばお似合いかもな。でも本人達に言ったら嫌がるから止めとけ。亜希はともかく、晃はわざと毛嫌いしてるとこがあるし。」


「毛嫌い?」



 思い出すのは初めて僕が亜希にチケットを貰いに行く時の晃の態度。



「毛嫌いっていうか、なんかお母さんに対する反抗期みたいな感じだな。嫌っては無いけどぶっきらぼうに接してる、みたいな。」


「反抗期って……。周防君にそんなイメージは似合わないなぁ。いっつも見た目はカッコ良くてクールなのに話したら面白い人、っていうのがあたしの感覚だよっ。」



 晃はおまえが好きだからな、とは言えず、適当に天井を眺めた。

 少し沈黙した後、まきるが急に話し出した。



「じゃあさ、今日は周防君の反抗期を無くしてあげようよ!亜希ちゃんだって周防君が素直になった方が嬉しいはず!」


「そうか?あれはあれで2人に合ってる様な気がするけど……。」


「それでも、やっぱり友達に冷たくされたら悲しいよっ。」


「それは面白そうだな。私も協力しよう。」



 どこからかニアが僕の膝の上に飛び乗ってきた。



「道隆、友達が友達と仲良くして欲しい、と思う気持ちは素晴らしいと思わないか?」


「……まあ、そりゃな。」



 まきるはニアに手を伸ばした。



「えっ!?ニアちゃん、手伝ってくれるのっ?ありがとーっ!」


「うわっ、止めてくれまきるっ。このボディは壊れやすいんだっ。」



 僕の膝の上で暴れるニアとまきるの手。ニアのボディが壊れるといけないので、まきるの手を掴んで止める。



「ほら、あんまり乱暴してやるな。すぐおまえは見境無くなるんだから。」


「あっ、ご、ごめんねっ、ニアちゃん。」


「全く、このニアちゃんを扱うのはまきるにはまだ早いにぁあぴゃ!道隆、もっと優しく被せてくれ!」



 僕はまきるの手を離して被り物の頭をニアに被せる。暗いので見えづらく、結構適当だ。



「さて、とにかくそろそろ戻るぞ。結構長居したしな。」


「んー、分かったっ。でも、道隆君もきちんと協力してよっ?」


「分かった分かった。ほら、行くぞ。」



 僕はそう言ってニアを抱き上げ、この部屋を出た。


 部屋を出てさっき通った通路を戻る。道すがらまきるに話しかける。



「で、具体的にどうやって晃達を仲良くさせるんだ?」


「んーとねー、そうだねー、えーとねー。」


「まさか何も考えて無いのか?」


「そ、そそそんな訳ないよー!ただちょっとどれが良いかなー、って考えてて…………。」



 目が泳ぐまきる。分かりやすいやつだな、とため息をつくと、腕の中のニアが小さく声を上げた。



「あれなんて良いんじゃないか?」



 ニアが作り物の手で示す先には、大きめのポスターが貼ってあった。


『コンビで優勝目指そう!アスレチックレース開催!優勝組には豪華賞品を進呈します!参加者は二人組限定。男女は問いません。』


 どうやらここのアトラクションの一つ『スペースフィールド』でアスレチックレースのイベントがあるらしい。

 それを見たまきるは目を輝かせた。



「これだっ!2人の前に立ちはだかる障害。しかし2人は力を合わせて乗り越えて行く。そして2人にはいつしか友情が……………か、完璧すぎるよっ。あたし、先に行ってお母さん達に聞いてみるね!」



 そう言ってまきるは走って土産物屋の方に去っていった。

 僕は周りにまだ人が居ない事を確認して、腕の中のニアに話しかける。



「で、ニアは晃と亜希にどうなって欲しいんだ?」


「ん?やっぱり分かるか?」


「ああ、何となくだけど、ニアがあんな風に協力を申し出るなんて不自然な気がした。」



 ふふっ、と腕の中のニアは笑った。



「私の事を良く分かってるじゃないか。まあ、仲良くする事は良いことだ、という言葉に偽りは無いぞ?」


「じゃあ、真意は?」


「電車の中の恥ずかしがる2人が面白かったから。」



 電車の中の2人の様子を再度思い出す。いつも女性の心を鷲掴みしてすぐに逃げられる晃の顔が動揺しているのは存外に面白かった。しかもまきる以外の女性に、だ。亜希も亜希でまだ知り合って間もないが、あの表情はイメージとのギャップがあってなかなか可愛いかった。


 もう一度あの空気にするのも悪くないかな、と僕は笑みをこぼした。



「確かに、なかなかどうして面白そうじゃないか。この前で晃への借りは返したし、今日はまきるの味方をしてやるか。」


「くくくっ。道隆、悪い顔になってるぞ。」


「馬鹿言うな。どこからどう見ても友達想いの優しい好青年だろ?」


「違いない。じゃあ私は超高性能ぬいぐるみロボットとして2人の絆を深めてやるか。」



 僕は不審者のようにニヤニヤしながらまきるを追った。人がいなくて良かった。

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