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僕と商店街




 僕は杉村道隆。夢はでっかく10両力士のお相撲さんだ。今日も厳しい稽古に耐え、おいしいちゃんこを腹一杯食べる。昔より3倍近いお腹周りがちょっぴり苦しいけど、充実した毎日を送っている。



 僕には好きな人がいる。人には言えない、だけどとても大切な人。



 その子の名前は俵 俵子。彼女はいつだって僕だけを見てくれた。辛い時、悲しい時。彼女を壁に立てかけてつっぱりの練習する。彼女はその藁で出来たざらついた体で僕を受け止める。2人だけの時間。幸せな時間。


 ある日、いつもの様に彼女を立てかけようと持ち上げた時、誤って転んでしまった。僕のお腹を強打する彼女。痛みだけではない衝撃が走った。



 それからは夜な夜な修行部屋を抜け出して、彼女をお腹に乗せる毎日。自分にこれは稽古なんだ、と言い聞かせる。こんな毎日、続くはずないと分かっている。でも今だけは、彼女を感じていたい。



 人には言えない、大切な俵。




 さて、今日も彼女との逢瀬の時間だ。お腹の上に乗せる。重い。けどそれが刺・激・的☆



「ふふふ、今日の君は一段と重たいな。僕の体の事も考えて……………はっ!?」



 扉の隙間に人影が見えた。マズい。この事がバレたらきっと師匠に怒られる!

 その人影が部屋に入る。



「道隆………。」


「す、周防山……。」



 人影は周防山だった。相変わらずのスレンダーな体型にふんどし。にもかかわらず相撲は強い。僕のライバルだ。

 周防山は涙を流しながら言った。



「…………道隆。やっと、やっと俺の性癖を理解してくれたんだな……!」


「…………周防山。………ああ、おまえの気持ちは分かってた。」



 ばきーん、と扉をぶち破り、制服姿のまきるが入って来た。



「話は聞かせて貰ったよっ!さあ、そこに寝転んで!」


「はいっ、向島さん!」



 周防山はそう言って地面に転がった。同時にまきるが周防山に足を乗せる。

 元気良くまきるが言った。


「いくよっ、俵子ちゃん!」



 俵の真ん中が折れ、へにょん、と頷いた。僕は言った。



「僕は………僕は10両力士になるっ!!」


「いやっふぅー!!」



 周防山と僕は下敷きになりながらも奇妙な友情を感じていた。








「という夢を見たんだ。ニア、これは何かの暗示だと思うか?」


「いやいや、夢なんて意味不明なものが多いからな。関係無いと思うぞ。うん、私は関係ない。」


「ん?まあそうだな。所詮夢だしな。」



 どうでもいいか、と僕、杉村道隆は一つ伸びをした。







□□□□□□□□□□□□□





 いつも元気な幼なじみと最近出来た寡黙な友人は既にこの部屋に居ない。幼なじみは陸上の部活へ。友人は幼なじみが家を出る時に一緒に帰っていった。昨日の夜、寝るまで2人で話していたらしく、随分と仲良くなっていた。ちなみに帰り際に友人と連絡先を交換したが、連絡帳には両親と僕達の4人しか入っていなかった。不覚にも目頭が熱くなった。


 何はともあれ今は土曜の昼、ニアと2人でだらだらしている真っ最中だ。


 皿に出した柿ピーを摘みながら僕は言った。



「しかし、まきるの寝相の悪さは相変わらずだった。」


「ああ、何であれで起きないか疑問だ。」


「本当に昔からあんな感じだからな。今朝、真ん中どころか僕の体も越えて、壁際で丸まってるのを見た時は流石にびびったが。」


「本当、深い眠りだな。逆に尊敬するよ。」



 ちゃぶ台に乗り、柿ピーをかりっ、と一つ食べてニアは言う。



「葉月も良くあれで起きなかったと思うよ。あんな風だが、意外と神経は図太い方だな。その癖起きるのは一番早いし。不思議なやつだ。」


「確かに。借りた借りは返す、とか変に頑固な所もあるしな。まあ、昨日はまきるも居たし楽しかったから悪くは無いが。」



 まあな、とニアは言って、テレビに視線を向けた。

 少し会話が途切れる。


 僕もぼーっ、とテレビを見ているとニアが振り返って言った。



「でも、葉月は良い子だぞ。私が保証する。」


「保証されなくても知ってるさ。」


「……なら良いんだが。」


「幸い僕は晃と違って見られて困るような考え事はしてないからな。別に問題ないだろ。」



 そうだな、とニアはテレビをまた見始めた。少し元気が無くなった気がする。だけど慰めるのも変な気がして、僕もテレビに視線を移した。





……―本日の特集は、猫グッズ特集です!きゃ~、可愛い~!何てお名前です……―





「あ。」


「どうした、道隆?」



 僕を見るニア。テレビに映る白い猫。飼い猫らしいその猫を見て、僕はある事に気付いた。



「ニア、そろそろ首輪を付けた方が良いんじゃないか?」


「首輪?」



 そう言ってニアはテレビの白い猫を見る。首にはハートの付いた可愛らしい首輪。僕を見てニアは言った。



「まあ、住所とかを書いておけばもしもの時は使えるし、居候している身だから異論は無いが、あんなのは嫌だぞ。」


「安心しろ。僕もあんなのを買いたく無い。誰かに見られたら5回は死ねる。」



 じゃあさくっと買ってくるか、と僕は立ち上がった。

 目指すは駅の近くの商店街。ついでに自転車の修理もしよう。



 黒猫に見送られ、パンクした自転車を押しながら、僕は東通り商店街に向かった。


 通称『幽鬼通り商店街』である。

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