第3話 魔王ニコラス
人間、ニコラス。
後世、人類史上最大の罪人。
そして、世界で初めて「魔王」と呼ばれた男である。
彼は、竜族より授かった叡智を、人々を救うためではなく、自らの欲望を満たすために用いた。
望んだものは、富ではない。
権力でもない。
彼が生涯を懸けて追い求めたもの。
それは――
永遠の命。
老いることのない肉体。
朽ちることのない心。
死という運命そのものから解放されること。
その執念は、やがて世界の理すら踏み越えていく。
ニコラスは魔法を研究した。
魔術を極めた。
魔法式を組み上げ。
魔法陣を描き。
魔素を解析し。
魔粒子を観測し。
そして、誰よりも妖精を研究した。
世界中の叡智を集め、幾千、幾万という実験を繰り返す。
数え切れぬ失敗。
数え切れぬ犠牲。
その果てに、ニコラスは一つの結論へ辿り着く。
もし。
妖精が魔粒子を引き寄せる現象を、人工的に永遠に再現できたなら。
もし。
火、水、風、土――四属性すべての魔粒子を永久に誘導し続けられたなら。
世界中の魔素は、一つの場所へ集まり続ける。
無限に。
永遠に。
そして、誕生した。
世界初の禁忌。
世界各地で様々な名で呼ばれる究極の存在。
――魔核融合体。
――魔素特異点。
――魔王因子。
――賢者の石。
――霊薬エリクシア。
――第一物質。
――命の水。
――哲学者の石。
――無限魔力炉。
――永久生命機関。
その呼び名は、国によって異なる。
時代によって異なる。
学派によっても異なる。
だが、その本質は一つ。
永久に魔粒子を誘導し続け、無限に魔素を生み出し続ける究極理論。
生命の理を超越する、禁断の叡智であった。
しかし、本来の妖精誘導法とは、人と妖精が共に歩むための技術である。
妖精は、自ら望んで魔粒子を集める。
命を育み、人々の暮らしを豊かにするために。
だが、ニコラスは違った。
彼は妖精を必要としなかった。
魔法陣によって魔粒子を永遠に拘束し、逃げることすら許さなかったのである。
人々のためではない。
世界のためでもない。
ただ、自らが死なないためだけに。
そして――
ニコラスは、その禁忌の力を自らの肉体へ取り込んだ。
瞬間。
世界が震えた。
大地は裂け。
空は黒く染まり。
世界中の魔素が暴走を始める。
濃密な魔素は生物を侵し、各地で魔物が誕生した。
人でありながら、人ではない。
死すら超越した存在。
世界で初めての――
魔王。
魔王ニコラスの誕生であった。
彼は圧倒的な魔力をもって世界を蹂躙する。
街は焼かれ。
国は滅び。
数え切れぬ命が失われた。
人々は絶望した。
誰もが思った。
この世界は、ここで終わるのだと。
しかし。
その絶望へ立ち向かう者たちが現れる。
後に、人類史上最大の英雄と語り継がれる五人。
世界はまだ、その希望の存在を知らなかった。




