SS 第7話 初めての家族写真
それから数日後。
黒竜城。
家族五人が揃って、穏やかな時間を過ごしていた時のことだった。
ふと。
ゼノンが、何かを思い出したように口を開く。
「そういえば」
セレーネたちが顔を上げる。
「私たちは、まだエリシアの入った家族写真を撮っていなかったな」
一瞬。
部屋が静まり返った。
アステリアが目を見開く。
「あっ!」
ノクスも少し驚いたように瞬きをした。
「確かに……そうですね」
黒竜王家には、これまでにも何枚かの家族写真があった。
ゼノン。
セレーネ。
ノクス。
アステリア。
けれど。
そこにエリシアの姿はない。
それは当然だった。
その写真が撮られた頃。
まだエリシアは、この家にはいなかったのだから。
ゼノンは静かに頷いた。
「よし」
「写真屋を呼ぼう」
アステリアが嬉しそうに立ち上がる。
「いいわね!」
「今度はエリーも一緒よ!」
セレーネも優しく微笑んだ。
「ええ」
「五人で撮りましょう」
「五人……」
エリシアは小さく呟いた。
◇
数日後。
黒竜城へ、城下町の写真屋が招かれた。
大きな撮影用の魔道具。
魔水晶のレンズ。
一瞬の光景を記録するための魔法陣。
準備が整い、黒竜王家の四人が撮影場所へ並んでいく。
ゼノン。
セレーネ。
ノクス。
アステリア。
しかし。
エリシアは、無意識に一歩、後ろへ下がっていた。
「……エリシア?」
セレーネが気付く。
エリシアは小さく笑った。
「私は……いいです」
「どうして?」
「だって……」
エリシアは四人を見る。
本当の家族。
長い年月を共に過ごしてきた家族。
そして。
自分は、後からやって来た養女。
「これは、皆さんの家族写真ですから」
その言葉に。
四人の表情が変わった。
ゼノンが静かに口を開く。
「何を言っている」
エリシアが顔を上げる。
「お前も家族だ」
「でも……」
「それに」
ゼノンは穏やかに笑った。
「今回の主役は、エリシア」
「お前なんだぞ」
エリシアの瞳が揺れる。
セレーネが優しく手を差し出した。
「あなたがいなくて、何が家族写真ですか」
ノクスも笑う。
「おいで、エリシア」
そして。
アステリアは待てなかった。
「もう!」
エリシアの腕を掴む。
「エリーはここ!」
そのまま、家族の輪の中へ引っ張り込む。
父がいる。
母がいる。
兄がいる。
姉がいる。
そして。
その真ん中に。
エリシアがいる。
その瞬間。
エリシアの瞳から、大粒の涙が溢れた。
「エ、エリシア!?」
「エリー!?」
「ご、ごめんなさい……」
涙を拭いながら。
それでも、次から次へと溢れてくる。
「嬉しくて……」
「私も……」
声が震える。
「私も、本当にここにいていいんだって……」
セレーネが、そっと娘を抱きしめる。
「当たり前でしょう?」
「あなたは、私たちの娘ですよ」
ゼノンも大きな手で、娘の頭を撫でた。
ノクスは優しく微笑む。
そしてアステリアは、困ったように笑った。
「もう!」
「泣いてたら写真撮れないじゃない!」
その言葉に。
エリシアは泣きながら笑う。
ゼノンも。
セレーネも。
ノクスも。
アステリアも。
皆が笑った。
やがて。
五人は肩を寄せ合う。
写真屋が魔道具を構えた。
「では、撮りますよ」
魔法陣が淡く輝く。
エリシアは。
大好きな家族に囲まれながら。
心から笑った。
そして。
写真魔道具が光る。
◇
その日。
黒竜王家に、新しい家族写真が生まれた。
そこには。
黒竜王ゼノン。
王妃セレーネ。
第一王子ノクス。
第一王女アステリア。
そして。
誰より幸せそうに笑う。
末娘エリシアの姿があった。
五人の家族が、確かにそこにいた。




