湖
昼過ぎ。
森を抜ける。
木々の向こう。
青い水面が見えた。
「着きました」
レイナが立ち止まる。
「ここです」
バンは目を細めた。
湖。
思ったより大きい。
風が吹く。
水面が揺れる。
静かな場所だった。
「ここに水のクリスタルがあるのか?」
「記録では」
レイナは手帳を開く。
「湖の近くに眠ると書かれています」
「近く、ねぇ」
バンは辺りを見回した。
何もない。
本当に何もない。
洞窟もない。
神殿もない。
宝箱もない。
「それっぽい場所ねぇぞ」
「そうですね……」
レイナも首を傾げた。
クロードは黙ったまま周囲を警戒している。
「とりあえず探すか」
三人は湖の周囲を歩いた。
だが。
見つからない。
一時間。
二時間。
何もない。
「おい」
バンが言った。
「本当にここか?」
「間違いないと思うのですが……」
レイナも困っている。
バンはため息を吐いた。
その時だった。
レイナが立ち止まる。
「?」
地面を見る。
しゃがむ。
何かを拾った。
「何してんだ?」
「ゴミです」
空き瓶だった。
「捨ててあったので」
レイナは鞄へ入れる。
バンは目を瞬く。
「いや、だから?」
「湖に捨てるのは良くないと思います」
当然のように言う。
そして歩き出す。
数歩。
また止まる。
今度は古い缶。
拾う。
鞄へ入れる。
「……」
また歩く。
また拾う。
「……」
また歩く。
また拾う。
「……お前さ」
「はい?」
「何でそんな真面目なんだよ」
レイナは少し考えた。
「落ちていたので」
「そうかよ」
それだけだった。
バンは頭を掻く。
湖を見る。
確かに。
ゴミは多かった。
瓶。
木箱。
壊れた道具。
誰かが捨てた物。
それが湖の周りに散らばっている。
レイナは黙々と拾っていた。
文句も言わず。
当たり前みたいに。
「……」
バンはため息を吐く。
しゃがむ。
近くの瓶を拾った。
レイナが目を丸くした。
「バン?」
「しゃーねーだろ」
立ち上がる。
「どうせ暇だし」
レイナは少し笑った。
「ありがとうございます」
「礼はいらねぇよ」
そう言いながら。
もう一つ拾う。
ふと。
視界の端で何かが動いた。
クロードだった。
何も言わない。
ただ。
近くに落ちていた木片を拾う。
壊れた瓶を拾う。
また歩く。
また拾う。
「……」
バンは目を瞬く。
「手伝うのかよ」
クロードは答えない。
黙ったままゴミを拾う。
「変な奴」
バンは笑った。
その時。
不意に風が止んだ。
湖面が揺れる。
「?」
バンが振り向く。
波紋。
一つ。
二つ。
広がる。
次の瞬間。
水が盛り上がった。
「な――」
巨大な水の腕。
バンの足首を掴む。
「うおっ!?」
引きずられる。
「バン!」
レイナが叫んだ。
クロードが飛び込む。
だが。
水の腕は湖面へ沈む。
間に合わない。
バシャアアアアアッ!!
湖面が大きく揺れる。
バンの姿は湖の中へ消えた。




